第55話 そうだ、オークの拠点へ行こう 3
遺跡の入口には扉も無く、ただ石で囲われただけ。長年放置されていたからか蔦や苔がびっしりと生えている。一体どれほど昔に建てられた物なのだろうか。この森には多くの遺跡があると聞いてはいたが、現物を見るのは初めてであった。せめて広さ、深さ等の情報があれば攻略が楽になるのだが...無いものを強請っても仕方ない。
奥を見やると洞窟のように真っ暗。1寸の先も見えない程の闇が広がっている。明らかに不穏な空気が漂っている。そんな躊躇している私を置いて、仲間は躊躇なく踏み入った。私も遅れる事のないよう、気合を入れて遺跡内部へと潜入する。
「────、────」
1人が《
「どうやら真っ直ぐに続いているらしいっすね。奴らの気配は...何体かあるっす。気を引き締めてください」
「あぁ!進め!」
気配を掴むスキルを持っている仲間がそう報告する。どうやら簡単な地形の把握もできるようで、その2つの情報を直ぐに伝えてくれた。応えた隊長は意気揚々と。少しでも声量を落として欲しいとは、思っても良いだろう。
腰に刺す剣の柄を握り、進む先に居るであろう『オーク』達との戦闘に備える。広いとは言ったがこの通路では闘える者は2人だけ。半ばにいる私の出番は無いだろうが、気を引き締めておく事が無駄にはならない。万が一という事を考えておかなければならないからだ。
飛び道具を使われたり、後方からの奇襲をされたりと、魔物達の低い知能を見誤ったばかりに不意打ちを受けるケースが多々ある。私達は油断しない。たとえ相手が最弱種と呼ばれるスライムであろうが、見縊る事無く闘う意気を持っている。
先頭を歩く者達に続いて私達も移動を開始した。本格的に遺跡を、『オーク』の拠点を攻略が始まったのだ。
慎重に、ゆっくりとした足で進んでいく。まだ道は真っ直ぐにしか伸びていない。そろそろ分かれ道でもありそうな予感だが、その前に前方から足尾とが聞こえてくる。潜入から数分も経たずに『オーク』と接触した。
「はっ!」
「しゃっ!」
前を歩く2人が即座に切り付ける。基本的には人体と構造は同じ。突くべき弱点も同じだ。1人は目を、もう1人は腹部へと剣を振るった。斬られた目、腹からは血が舞い上がる。
「ブォォッ!?」
「らぁっ!」
痛みに悶絶した『オーク』が膝を着く。その隙を見逃すこと無く、目を切りつけた仲間が体勢を整える。そして、剣を垂れる頭へと振り下ろした。
「ふぃ〜流石に慣れたな」
「あぁ、一体くらいなら訳ないぜ」
軽口を立たなきながら転がる死体を通路の隅へと退ける。2人が話すように、この3週間で『オーク』との戦闘は大分慣れた。体格差をどう縮めるかが勝利の鍵だ。狙うべくは膝や腹、目と言った部位。そして体力を削り切るよりも首を落とした方が早い。流石に最初から首を狙うのは難しい。体制を崩す攻撃を仕掛けるのが定石となろう。
「どうやらこの先、通路が広くなるみたいっすよ。...うわ、かなり居るじゃないっすか...」
「へっ、何体だろうが切り伏せてやるよ」
「おう!広いならやりやすくていいじゃねーか!」
空間を把握した仲間が零すボヤキに元気のいい者達が反応する。私は正直、あまり闘いたくは無い。リーダークラスの魔物が存在している事は確かなのだ。その為に体力や魔力は温存しておきたい。余計な戦闘を避けろ、とこちらに指示を仰いできた仲間に目で返す。彼は発言していなかったが、分かれ道を見つけているらしい。是非とも接触回数の少ない道を選んで欲しいものだ。
元気...もはや狂気でいっぱいの仲間達を見て溜息を零し、後ろにいる隊長の「先に進め!」という無鉄砲な発言にまた溜息を吐いた。嫌な予感を覚える。外れれば良いのに。
※ ※ ※
潜入から小一時間が経過。通路はふた周り程広くなり、集団で戦いやすい広さとなっていた。その分『オーク』達が沢山居座っており、結局20体近くを屍として地に伏せさせた。これでもかなり少ない道を歩いたらしい。私の不満を感じた仲間が涙目に訴えてきていたから。
何度か私も戦闘に参加し皆が無事のまま今に至る。そして、順調に進んでいたかと思っていた矢先、溜息を吐く事となる。
「行き止まり...っすね。申し訳ないっす」
「ちっ!迷路かよ、ここは!」
「ふむ、複雑な構造になっているようだ。これは時間がかかるかもしれないな...よし、ここで少し休憩を取ろう。魔除の魔道具を出してくれ」
行き止まりに直面してしまったのだ。空間の把握を出来るとはいえ、遠くまでは出来ないのだろう。魔力に限りもある。これは仕方ない事だ。
しかし、先が長い事に目眩を起こしそうになる。一先ず休憩を取りたい。そして、出来れば万全の状態にしておきたい。隊長に確認し無くとも休みたいオーラが出ていたから分かる。
まだまだ敵陣地に乗り込んだばっかり。この先どれ程の『オーク』が居るのか分からない。休める時に休んでおかなければ。
私の指示に従い、3方向を壁で覆われた所で仮拠点を作った。残る一面は魔除で何とかなる。ここなら少しは寝る事も出来るはずだ。
どこからか『え、ちょっ、なんそれ!?』みたいな声が聞こえたが、恐らく気の所為だろう。長らくまともに寝ていないからか、幻聴が聞こえたに違いない。同じ幻聴を聞いた者が複数いた事に些か疑問があるけれど。
準備が整った所で軽食を摂る事にした。軍用の保存期間しか取り柄のない硬いパンと、『オーク』の焼肉が今回のメニューだ。実は3週間、ほぼ変わらないメニューだったりする。たまに食草や果物等を見つけてはいたが、何処に毒があるか分からない以上、それらを食べるのには度胸が要る。私は食べなかった。
『オーク』の肉に関してはかなり美味しい。かなり肉々しい肉で、若干の甘味を持っている。好ましくない脂が多いので、美味しい可食部位は巨体の割に少ないが、8人で食べる分には多過ぎる程。『オーク』なら狩り放題である為、焼肉に関しては食べ放題であった。まぁ、誰も余計な分は食べなかったが。
「はぁ〜、飽きた」
「またっすか、副隊長。ンなもん俺達も一緒っすよ」
焚き火の前で零す愚痴に声が返ってくる。彼は気配の把握をしていた仲間で...そろそろ名を言おうか。エリックと言う。料理番でもある。
エリックの言葉に私は項垂れる。飽きた、それは皆同じなのだ。硬いだけで美味くないパンも、焼肉も。ここまで続けば飽きて当然だ。...皆はたまにキノコ等を焼いて食べていたが、私には彼らの気が知れなかった。いや、腹が減ってたんだろう。
「分かっている。分かってはいるが...塩は飽きた。せめてハーブ...香草焼きにして欲しい...」
「はぁ、別にいいっすけど、森で採ってきたハーブを食べないのが副隊長じゃないっすか」
「うぐっ、それは...何かあったからでは遅いからな。警戒しておいて越したことはないだろう?」
私の弁明に今度はエリックが溜息を吐く。なら無理だろう、と。少し神経質になり過ぎているだけ、私もそう思ってはいる。少しくらい油断して食べても良いじゃないか、と。しかしいざ口の前に持ってきて、先の事を想像すると食べられなくなってしまう。魔物の肉は食べられるのに、どうも不思議なものだ。
押し黙ってしまった私を見て、エリックはそれに、と言葉を続ける。
「パン以外の保存食を食い散らかした隊長に文句言ってくださいよ。あのせいで俺達も苦しんでるんすから」
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