第9話 小陰雀

 現在草むらをかき分けて行軍中。右も左も草しか生えない草原だ。


 かなり移動に時間をかけてしまっている。日が真上に昇りかけているようだ。そろそろお昼だねという時刻。俺はあれから──誰とも接触してないよー。悲しーよ。虚しーよ。孤独だよ、ぼっちだよ。せめてさぁ、景色が変わってくれたりしたら、まだ楽しめるんだけどさー。体が大きくなったというのに、まだ草むらから頭が出ないのよ。周り見れなくて辛い。あーあ。早くなにか見つからないかなー。


 と、俺は頭の上に石ころを出し入れ出し入れ出し入れしながら、周りにある草を《鑑定》し続けていた。


 スキルレベルの上昇は使用回数と踏んでいるので、とにかく暇な時を使ってひたすらスキルを乱発しようという訳だ。あれね、やり始めて1時間くらい経過したけど、まだ自分のステータス見てないのよ。くくく、次に戦闘を行ったあと、レベル上がった時に見ようと思いますよ〜。それだけが今の楽しみとなっていた。


 因みに周りにある草と、今の俺の種族リトルコアスライムについての情報はこれだ。




『リトルコアスライム』

 下級魔物。

 草原や森などでよく見られる。

 小さな核を体内に持ち、その核が破壊されると絶命する。

 甘味として人気。


『ミチグサ』

 至る所に生えている雑草。

 無駄な生命力を持ち、土があればどこにでも生える。

 用途は無い。




 で、ある。


 見ればわかるが、やはり俺は甘味として人気なんですよ。気になるんだけど、スライムの味ってどうなんだろう。見た目からしてソーダ味なのか?それほどに美味しいのかな。甘い、ということは分かるよ。甘味と言われて甘くないわけないって話だ。でもさ、魔物だよ?食いたいか、普通?この世界ではそれが普通なのか...。


 っと、気にしたら負けだ。食われることを考えるな。俺は甘味として狙われる前に、早く強くならなければ...!


 草については見なかったことに。だって、ただの雑草じゃん。マジで。




 ※ ※ ※




 あてもなくずんずんと、更に1時間程進みました。あれからね、出し入れする石ころの数を3個に増やしたり、土を《鑑定》したりと変化はありました。だんだんと慣れてきたんですよ。やはり初めの頃にあった疲労はただの練習不足だったようで。慣れればぜんっぜん平気ですわ。お手玉感覚に《アイテムボックス》を操っています。ポポイのポイ、とね。これはどこまでレベルが上がるか期待ですね。...まぁ、そんなに簡単にゃ上がらないとは思いますけどね...。 


 んで、1番の変化と言いますか。とにかく着ましたよ、ようやくですよ。


 目の前には雀のような茶色い鳥がいる。但し大きは俺と同じかそれ以上。そう、新たなモンスターと接触したのだ。


 ソイツはどうやら地面に埋まっているミミズか何か虫を狙っているみたいだ。地面を嘴でつついている。俺の事には気づいていない。これはチャンスだ。戦闘経験を積みたい反面、やはり危険は冒したくない。今はとにかくレベルを上げて、早急に進化したいのだ。


 とと、一先ず《鑑定》するのを忘れちゃいけないな。《鑑定》ーっと。




 種族:リトルハイドスパロ

 レベル:8/15

 ランク:F-


 スキル:《飛翔》《風起こし》《嘴撃しげき》《身潜め》


 危険度:中


『リトルハイドスパロ』

 大人しく臆病な下級魔物。

 外敵を見ると身を隠す。

 肉付きが悪く、食用には向かない。

 食性:虫、木の実




 おぉ!相手の所持スキルまで見れるようになっている!これはなんとも素晴らしい成長っぷりだ!《鑑定》め〜いい仕事しているな〜!あと、その下にある危険度ってのは、今の俺が闘って、という事かな。そうだよな。きっと。ランクG+のモンスターが一般的な危険度中とかありえないもんね。これもなかなか役立つ情報だ。


 さて、と。今回は明らかな格上である。段階が1個上だもんね。まぁ、ベイビーホーンラビットの方が強そうに見えるんだけど。とはいえランク的にはリトルハイドスパロの方が上だ。何をしてくるかわからない。ここは慎重に、奇襲作戦を成功させたい。


 リトルハイドスパロの攻撃方法は嘴。それさえ気をつければ、今の俺でも勝てる相手なはずだ。俺が奴の後ろから飛びかかり、翼を拘束。空へ逃げられないようにする。そしてお得意の《溶解液》でフィニッシュだ。


 いよーし、やってやんよこらーっ!


 俺はのっそりとリハス(略称)に近づく。彼(もしくは彼女)は地面とのキスを辞められないようで、俺の接近に気づかない。まぁ、俺の移動ってのは足音がないもんね。滑ってるから。それでももっと警戒心持った方がいいんじゃない?今は都合がいいけどさぁ。


 接近。されど気づかれない。


 更に接近。やはり気づかれない。


 そして俺の攻撃範囲内に入った。それでも気づかれない。


 飛びかかる。ここでようやく気づいた。だが、もう既に遅いのだ。逃げることも抗うことも出来ず、《溶解液》により溶かされ《吸収》されていった......。



 いや、弱。

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