俺は、王道ファンタジーを望む

めぇりぃう

序章 転生しまして

第1話 転生

 目が覚めたら、見知らぬ白い天井だった。と、言ってみた。これって1度は言ってみたい台詞セリフトップ10にはランクインしてるよね。えっ、してない?...俺はしてるの。


 ふっ、俺が満足してりゃーそれでいいのよ。見知らぬ白き天井や......って、ちょっと待てよ。


 本当に真っ白いし、見覚えのない天井...天井?


 見知らぬ白い天井と言ったが......いや、これはもはや白の空間だ。見知らぬ白の空間。前後左右上下に至って白なのだもの。見飽きる程の白さよ。めっちゃ頑張って綺麗にしても、ここまでの白さは出せないんじゃないか?と思わせるほど。ずっと見ていると目がチカチカしてくる。


 さて、一体全体どういう事なのだろうか。先程、数分前、起きる前まで街を歩いていたというのに、気がついたら──と言うより目が覚めたら──ここに居た。俺としては奇っ怪な現象に興奮半分の期待半分なんだけど。不安じゃないのかって?ごめん、それよりも優先事項があったんだ。



 さてまぁ、不安にはならないが現状について少し考えてみる。



 一先ず理解していること。それは俺がどうやら死んでしまったらしい、ということ。さもなくば、このような事は起こらないだろうしね。


 ほんと、よく覚えていないし、死んだことにも気づいていないんだけど、死んだのは間違いないようだ。言葉にすることはできないが、なんとなく自分は死んだんだなぁ、という謎めいた自覚がある。


 事故死かな、通り魔にでも刺されたかな。熱中症でバタン...ということも有り得るな。一応我が身の事として、死因くらい知りたいよね。まぁ、分かってどうする?と聞かれても答えられないけど。来世は避けよう、とかを心に決められるじゃん。


 あぁ、でも、苦しまずに死ねたことは不幸中の幸いかな。苦しみながら息絶えるって、考えたくもなかったから。気づいたらコロンの方がまだ良いよ。...そう考える人は俺だけなのかな?


 まぁとにかく、これで俺の人生も終わったんだ。それほど満足感に溢れていた訳でも、何かを成し遂げることができた訳でもないけれど。後悔とかそんな気はさらさら起こらない。一種の社畜をやっていた人生だったから、死んで清々したとさえ言える。ブラック寸前の社畜労働。これで晴れて地獄からの解放だ!...これから本当の地獄へ向かうやも知れぬが。



『随分と冷静じゃの』

「えぇ、まぁ。......はっ!?」



 だ、誰だ!?ここには俺以外の人も居たのか!?......って、なんだ神様か。驚かさないでほしいな。



 目の前に現れたのは、白く長い髭を伸ばした、そして同じく白い髪を腰付近まで伸ばした老人。おそらく神様だと思われる。だって見た目がそうなのだもの。あれね、子供の頃に読んだ『にほんむかしばなし』とか言う絵本の中に出てくる神様ね。俺からしたら神様の典型的な姿なわけです。


 因みに、何か木製の杖を持っている。あの、取っ手部分がぐるぐるしていて丸くでかくなっているやつ。


 そんな杖を持っているというのに腰は曲がっていないんだ。身長だって俺より少し低いくらい。俺が170後半くらいだから、170近くある老人よ。お元気ですな。さすが神様ってか?



『なんだ、で済まして欲しくないし、もっと驚いて欲しいんじゃが』



 その老人、確定で神様は、長い白髭を触りながら、呆れた目でこちらを眺めている。俺があまり驚かなかったことに少し不満があるようだ?と言っても、俺は日本人であり、無宗教の1人である。神頼みは良くするけど、いざ神様を目の前にしても実感湧かないしな。でも、神様って直ぐに気づけたんだよね。何故だろう。120%見た目だよ。まぁ、いいか。



「いえ、すみません。あまりにザ・カミサマな見た目をされていらっしゃるので、驚きが少なかったものでして」



 うん、我ながら随分テキトーな言い訳をしたものだ。確かに神様らしい見た目なんだから、俺の言い訳も事実無根とかじゃない。あってるっちゃ合ってるからなぁ...良しとするか。



『そうかのぉ?普通に驚くと思うんじゃが......まぁ、それは良い。...ところで、お主は生前に未練はあるかの?』



 俺の反応は横に置かれ、唐突に神様からそう尋ねられた。



 未練は無いか



「未練...ですか」

『左様。主には今、三つの選択肢があってな。未練の有無で変えるべきだと思うての』



 え、死んだ俺に選択肢が3つもあるんだ。



「選択肢を教えてください」

「良かろう。

 一つ目は元に戻る、というものじゃな。主は自身が死んだと判断しておったが、それはちと間違いでの。実際はあと少しで、と言ったところなのじゃよ。やろうと思えば主を元の体に戻すことができる。...多少の痛みや苦労はあるが、未練があるのなら選ぶべきぞ?

 二つ目は新たな人生を歩むというものじゃな。別人としてもう一度人生をやり直せる。前世で成せなかったものを成すことも可能じゃ。この方法で未練を拭うというのも良いだろう

 して、どうじゃ?未練はあるかの?」

「あの、三つ目は...?」

「この話の後にしよう」



 えぇぇ...最後の1個が気になるんだけど。それは俺が答えてから教えてくれるのかな。



 では考えてみるか。俺に未練があるかどうか。



 未練とかと言うと、やり残したこととか、家族や待ち人想い人の事だろう?



 取り敢えず未練と呼べそうな事を頭に浮かべてみる。



 人について。


 俺にはもう、俺の帰りを待ってくれる家族は居ない。俺はひとりっ子だったため、両親に大切に育てられてきた。しかし、父親は体が弱く、俺が20歳はたちを越えてすぐの頃に他界してしまった。俺が成人となった姿を見て、満足そうに父は亡くなった。その5年後には母親も体調不良から寝込み、その2年後には父の元へと旅立ってしまった。父と母は大の仲良しであったため、天国で仲睦まじく暮らしていることを祈っている。母が入院してから亡くなるまでの間は、仕事にもあまり熱を入れられず、ぼんやりとした思いで10年間社会人として働いていた。そのせいもあってか出逢いという出逢いもなく、四十路目前にこの有様だ。詰まる話、我独身也。


 友人と呼べる者も、多くは無いが持っていた。しかし、それを未練と呼べる程ではない。せいぜい、先に逝ってしまってすまないな、程度だ。



 待っている人は居ない、と。泣きたくなるね。



 物について。


 やり残したことと言えば、買い置きして後で消化しようとしていたラノベの山とゲームソフトの山か。仕事が忙しくて読む暇がないにも関わらず、新刊や新作が出る度に買っていた。趣味として買っていたので後悔はないが、手をつけることなく無駄になってしまったことに、勿体無いと思うばかりである。



 ふむ...やはり未練は無いな。



「これと言ったものはありませんね」

『そうか...でお主、先に言うた選択肢のうちの二つ目。来世には興味があるかの?』



 俺の返事に対し、神様は更なる質問を重ねてくる。



「来世、でしょうか?」

『うむ。未練は無かろう?しかし、その記憶を持ったまま、来世に旅立てると聞けばどう答える』



 難しい。確かに未練は無いと答えたけど、もう一度人生をやり直せるなら、ちょっと嬉しいことかもしれない。未練と言うか、やり残しというか?さっきも言ったけど俺は独身だ。結婚願望が無い訳がない。それは未練になるのだろうか...?ちょっとアンサー変えてもよろし?



「魅力的かと」

『そうか。それは良かった』



 良かった?俺が生きることを諦めてるみたいに思われてたのかな?死ぬなとは言わん。だが死にたいとは言うな。みたいな?...全然違うか。



『さて、そこでじゃ。主に持ちかけたいものが三つ目の選択肢。転生じゃ』

「転生...。それは二つ目とは違うのですか?」



 確か神様が出してくれた選択肢の二つ目は、地球に新たな生を持つ、みたいなものだった。それは転生なのでは?



『違う。場所が、な』

「それはつまり──」

『他の世界への、じゃ』



 俺が言う前に答えを告げてくれた。


 異世界、か。俺が好んで買っていたラノベにも、そういう類のものが多かった。...これは俺的に結構嬉しい展開である。


 今直ぐ父と母の元に向かうことに、勿論賛成ではある。会いに行けるのなら会いに行きたいが、今行っては2人に怒られるかもしれない。なにせ、俺が一番若死にだったから。それなら、異世界でまた新たな人生を送り、今度こそお嫁さんやら家族やらを作って、胸を張って両親に報告出来るものを作りたい。それなら両親も満足して俺を迎えてくれるだろう。



「興味が大いにあります」



 それに、異世界と言えば、エルフやドワーフや獣人など、地球では存在しないような人達が生活していたり、魔法や気などで闘ったりの、夢溢れたファンタジーな世界。俺は自分がオタクである自覚がある。そんな世界に行けるということなら本望だ。



『ならばよし。最近神々儂ら規則ルールでの、前世に未練の無い魂を他の世界に導こう、というものがあってのぉ。儂も最低1人は導かねばならなかったのじゃ。こう言ってはなんだが、助かったわい』



 どうやら神様の悩み事を解決出来たみたいだ。俺としても願ったり叶ったりなことなので、ウィンウィンな関係になったらしい。気兼ねなく行けるってものさ。



『では、お主の来世を決めようぞ。多少は自由に出来るが、何か要望はあるかの?』



 要望、要望ね。なら、ゲームみたいな異世界ってあるのかな?レベルやステータスなどが存在している、ファンタジーな世界よ。どうせ行くならそういう所に行きたいよね。



「ゲームみたいな、魔法やスキルが存在する世界がいいですね」

『ふむ...該当する世界が何十個かあるの。どれも魔物が蔓延る世界だが...良いか?』

「はい」



 魔物...モンスターが存在していないと、俺が望むような展開にならないからね。ありがたいことこの上ない。死ぬ危険性もあるだろうけど、言ってはなんだか一度失った命だ。なるべく楽しいことに全力を注ぎたいだろう?それで死ぬなら本望だ。



『ならば、この中から適当に選ぶとするかの......来世でこう生きたい、とかあるかの?』



 そんなことも叶えられるのか。つまりは、貴族に生まれて遊び惚けたいとか、辺境の地に生まれてスローライフを送りたいとか、そういうざっとした人生の内容を決められるのかな?



「それは、具体的な内容でもよろしいのでしょうか?」

『うむ。要望を叶えるよう、少し運命をいじってやるぞ』



 暫く俺は考える。



 第2の人生を、かなりの優遇で過ごせるのなら、よく考えるのが吉だ。一応、俺が行いたい王道ファンタジー的ストーリーが、あるにはあるが、本当にそれでいいのだろうか?...まぁ、いいか。


 結局俺は、昔から叶えたかった王道ファンタジー的な来世を送ることに決めた。



「なら、初めて仲間にした弱小スライムが、いつの間にか最強になる。そんな感じのがいいですね。私は育成ゲームが好きだったもので、生き甲斐に出来たら良いなと思っています」



 建前はこうだが、本心としては弱キャラが強キャラになる系がかなり好きなのだ。弱いと思って馬鹿にしていたやつ負ける。強者だと驕っていたやつの寝首を搔く。最底辺からの成り上がり。そういうのに憧れる。最初から強くてもいいんだけどね。でも、成長していく、という楽しみがないのはつまらないよね。



『ふぉっふぉっ。中々面白いが、良いぞ。なるべくお主の願いを聞き入れよう』



 良かった。これで俺が望むような人生が送れるのか。最高じゃないか。あとは、異世界ライフを送るのにあって欲しいスキルとか、貰えないかな。



「でしたら、鑑定とか便利スキルも付けて欲しいですね。アイテムボックスとか、言語理解とかもあれば便利かと思います」

『ふむふむ。そこら辺のスキルも可能な限り付けておこう』

「ありがとうございます」



 ほうほう。結構要望が通ったようだ。俺TUEEEEEなチートは要らないから、堅実に利便性に特化して欲しかった。あくまで最強になるのは俺ではなく、俺がテイムして育て上げるスライムとかだからね。あぁ、楽しみ楽しみ。



『なら、良いか?時間も押しているのでな。転生の儀を始めるぞ』

「是非お願いします」



 平生を取り繕っているが、かなりテンションはハイッなものだ。神様の御前でなければ阿波踊りとかしちゃうくらいに。...あれはそこまで派手じゃないか。



『汝の来世に幸多からんことを』



 俺の体が眩い光に包まれる。暖かい、優しい光だ。


 これから俺は第二の人生を歩むんだ。絶対に、絶対に良い人生にしてみせるぞ。



 目標は2つ。



 一つ、最弱モンスターを最強モンスターに育て上げる。


 二つ、家族を作り、両親に報告する。


 この2つを達成するまで、俺は次の人生を終えられないな。


 俺はそう意気込みながら、目の前が真っ白になっていくことに気づき、すっと目を閉じた。瞼が重くなり、閉じずにはいられなくなったからだ。そのまま意識を手放して、転生への体勢を整えたのだった。

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