小さな嘘をついたせいで

乃木希生

第1話

ダイキは会社の先輩、後輩数人と夜の街に繰り出していた。25日の華金ということもあってか、街には、ほろ酔いで歩く集団がかなりの数いた。ダイキたちも1軒、2軒とはしご酒をした後とあってか、かなりいい感じに出来上がっていた。そんな時、後輩の一人が、

「先輩、俺もう終電がありません。なので、今日は朝まで行きましょう!」

と必死に説得してきた。

「もうそんな時間なの?」

ダイキが時計に目をやると0時をすでに回っていた。

「俺も終電ないわ。先輩はまだありますか?」

「うーん、俺も無いな。俺は明日早いからタクシーで帰るよ。」

「そうですか、分かりました。じゃあ、お見送りしますよ。」

「良いよ、寒いし。お前ら二人で楽しんできな。」

「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて、ここで失礼します。ではまた来週。お疲れ様でした。」

ダイキは先輩に向かって一礼すると、後輩と共にネオン街に向かって歩き出した。

「ダイキ先輩、このあとどうします?」

「そうだな、とりあえず、飲み直すか?」

「そうっすね。でも今日、給料日ですし、どうせなら女の子いる店に行きましょうよ。」

「お前、本当に女好きだよな。」

「好きですよ。男はみんな、女が好きなんですよ。先輩には可愛い彼女がいるから分からないでしょうけど、モテない俺らみたいな男は金払わなきゃ、女の子と会話することすら出来ない悲しい時代なんですよ。」

「俺に絡んでくるなよ。別に俺もそんなにモテないから。」

「先輩がモテないっていうのは嫌味でしかありませんよ。」

「なんでだよ。」

「なんでって。先輩、この間のバレンタインで何個チョコもらいました?」

「何個だったかな。確か、職場にいる女性スタッフ全員からもらったけど、どうせ義理チョコだろ。義理チョコもらって勘違いするほど俺はもう若くないよ。」

「いやいやいや。それ、義理じゃないですから。知らないですか、うちの会社の女性メンバー内で今年から義理チョコやめようって決まったの。そのせいで、俺なんて誰からもチョコもらえてないんですから。そんな事も知らずに、女性メンバー全員からチョコもらっておいてモテないとか、なんなんすか、先輩は。ううう。」

「そうだったのか。知らなかったとはいえ、なんか悪かったよ。」

「本当に悪かったって思っているなら、女の子がいる店一緒に行きましょうよ。」

「なんで、そうなるんだよ。」

「僕のメンタルは先輩の何気ない一言のせいで、ボロボロなんです。このボロボロのメンタルを治せるのは、可愛い女の子しかいません。」

「俺、飲みすぎたせいか少し体調悪いんだよ。それに、そんな気分でもないし。」

「体調悪いって、そんな言い訳は通用しないっすよ。奢れとは言いませんから、一緒に行くだけで良いんで。」

「分かったよ。で、どこのお店に行きたいんだよ。」

「そりゃ、もちろん、キャバクラよりももっとディープなお店にしましょう!」

「キャバクラで良いじゃん。それに、俺には彼女がいるから浮気になっちゃうし。」

「大丈夫ですって。そのお店に彼女さんが働いているなんて偶然は起こりませんから。可愛い後輩のお願いを、たまには聞いてくださいよ。」

「いつも聞いてやってるけどな。分かったよ。じゃあ、サクッと行くか。」

「よし、決まりですね。終わったら、お互いに感想言い合いましょうね。」

「は?なんだよ、それ。」

「まぁまぁ。あんまり細かいことは気にせず気にせず。先輩の気が変わる前に入っちゃいましょう!」

後輩はそう言うと、俺を強引にお店まで運んで行った。俺も渋々、着いて行く格好にはなっているが、内心は正直、ワクワクウキウキが止まらなかった。彼女との仲も順調で不満があるわけではないが、それでも浮気心というやつなのか、他の女性とも楽しみたいという欲求はあったのだ。

「よし、先輩、この店にしましょう。ネット上での評判も良さそうですし、そんなに高くもなさそうですし。」

そういうと、後輩は意気揚々と店に入って行った。


お互いにお店で楽しんだあとは、再び合流して始発が出るまでの時間、飲み屋でお店での感想を言い合いながら楽しく飲み明かした。帰り際、飲みすぎたせいか、すこし気持ち悪さとカラダのだるさ、それに熱っぽさも少し感じたが、日頃の疲れが出たんだろうなという程度でしか思わなかった。俺は帰った後、熱めのシャワーを浴びて冷えた身体を温めつつ、身体についてしまっているかもしれない香水の匂いを消した。そのまま、彼女が寝息を立てているベッドの中に静かに体を潜り込ませて、俺も眠りについた。

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