コワイモノミタクナサ
怖いものは苦手だ。怪談なんて聞きたくないし、お化け屋敷なんて入りたくない。ホラー映画を見てしまった日にはトイレを我慢する羽目になる。
遊園地に行っても、ジェットコースターはもちろん、観覧車にだって乗ろうと思わない。だからいつもわたしはメリーゴーランドに跨って、お母さんたちが帰ってくるのを待っている。
どうして大人たちは、あんな恐ろしいものが大好きなんだろう。わたしにはさっぱり理解できない。人生に刺激なんて欲しくないの。わたしは明るい部屋で、可愛いお人形さんたちに囲まれて、過ごしたいだけなのに。
「ねえ、やっぱりこの人を殺さないといけないの?」
「ああ、こいつを放っておけば沢山の人が酷い目にあうんだ。もしかすると、君の家族だって巻き込まれるかもしれない」
わたしの疑問にメリー君がそう答えた。メリー君は遊園地のUFOキャッチャーで捕まえてきた喋るお人形さん。丸っこい羊の頭の下に格好いい黒のタキシードをまとった彼に、わたしはお願い事をして、魔法少女にしてもらったんだ。
「それじゃあしょうがないね。そんな怖い未来なんか、わたしは見なくないもの」
「なに一人でぶつぶつ喋ってんだよ!わけわかんねえよ...」
悪者のおじさんが急に大声でそう叫んだ。わたしはそれに少しびっくりしてしまう。どうして頭のいい大人がそんなこと言うんだろうと。
「なんで分からないの?わたしもこんなことしたくないの。でもあなたが他人に迷惑をかけるのがいけないんだよ。そんなことしちゃダメだって子供でも分かるのに」
突如目の前に現れた正体不明の少女に向かって、半狂乱になった男は持っていた拳銃の引き金を引いた。乾いた発砲音と共に放たれた弾丸が少女の胸に命中するが、彼女が着ていたフリフリのドレスにすら、傷一ついていない。口をパクパクさせて、唖然とする男に少女は言った。
「わたしは魔法少女なんだよ。怖いことがたくさんあるお外に、わたしが出てきてあげてるんだから、これくらいのことは守ってもらわないと困るじゃない」
「あ、悪魔」
おじさんはそう呟いた。もしかしてわたしに言ったのだろうか。だとしたら、こんなメルヘンチックなわたしに対して失礼な話だ。だけど、わたしは彼のことを許してあげようと思う。誰だって苦しいのは嫌だろうから。
「グロい光景はわたしも見たくないから、一思いに心臓を止めてあげるね」
わたしは杖を振りかざして、魔法を唱える。
「嫌だ...近寄るな。死にたくない、死にたくない、死にたくない」
不安がっているおじさんを、わたしは最後に励ましてあげた。
「きっと我慢できるよ。大人なんだもん」
「そんな泣くほど嫌だったのなら、どうして悪いことなんかしてたの?それが怖いもの見たさってやつじゃないの?」
魔法のステッキでおじさんの頭をぐりぐりするが、死体は何も喋らない。だけどわたしの疑問にはいつも、優しいメリー君が答えを教えてくれる。
「何も考えていなかっただけさ。大人達は目先の欲で動いてるんだから」
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