第12話 捨て身の証明
「メリットならある!」
「この期に及んでまだそのようなことを」
「我が国を人間界――魔王軍の第一拠点とする!」
「!?」
予想外の俺の宣言にこの場の空気が一変する。
落雷に打たれたようにフィーネもメルデも、どいつもこいつも瞠目して息を呑む。
俺はここが攻め時と、一気に本陣へ斬り込む気勢で声を張りあげる。
「我が国を正式に魔王軍の拠点にすることにより、生まれるメリットがあります。魔法門――ゲートを通って数万、あるいは数十万の兵を人間界に送り込むとなれば、膨大な魔力が消費される上、その所要時間は計り知れない。だが、あらかじめ我が国に魔王軍を滞在させるとなれば、その所要コストは大幅に削減される」
しかもっ!
勇者が魔界に攻め入れば、その隙に我が国に待機している魔王軍が人間界を攻めてしまう。
そう相手に思わせることにより、勇者を人間界に足止めすることが可能。
勇者にとっては従来までの魔王城一点突破の攻略ではなくなり、我が国との二点攻略を余儀なくされる。
そうなることで同時に攻略せねばならなくなり、魔王攻略の難易度は格段に跳ねあがる。
これは一種の牽制でありリスク管理。
さらに、フィーネが懸念する俺への不信感も同時に払拭することができよう。
我が国ペンデュラム国は、魔王側についたと大々的に喧伝することとなるのだから、疑いようがあるまい。
どうだメルデ、参ったか!
これが肉を切らせて骨を断つ、捨て身の証明だ!
「しょ……正気なのですか? そんなことをすれば」
「まず間違いなく我が国は隣国や他国から攻め入れられるだろうな」
「それを承知で……魔王軍を受け入れると?」
「当然だ! 俺は俺が死なないためなら喜んで売国者となる」
「あ、あんた……最低ね」
なんとでも言え! どの道我が国は戦争となるのだ。
遅いか早いかの違いだけで、差して状況は変わらん。
それどころか、我が国の痩せ細った戦力を補うに余りある魔王軍を手に入れたとなれば、簡単には手出しできまい。
まぁ、国民からは総スカンを食らってしまうだろうが、そこは独裁政権!
文句のあるやつは叩き潰す。
それが暴君、それが独裁者権限!
最低最悪のクズと罵られようとも、国を守り、俺のポジションと側室を守る!
それが俺の使命なのだ!
「あはははっ――気に入ったわ! 妾は気に入ったぞ、魔王さまや。こやつは妾の下僕にしてくれよう」
突然妖狐のお姉たまが腹を抱えて笑い出した。しかもこの俺をSMプレイに招待したいと申し出ている。
なんて大胆なお姉たまなんだ。
「ちょっと落ち着きなさいよ、フォクシー。で、メルデはどうなの? あたしは難しいことはわからないわ。頭を使うのはあんたの役目よ」
フォクシーと呼ばれたお姉たまがつまらなさそうに短い舌打ちを打つと、メルデは伏し目がちに頷いて、俺の顔を真っ直ぐ見つめる。
その蠱惑の瞳で見つめられること数秒――胸の辺りがドギマギすると、
「合格ですね」
微笑んだメルデが鷹揚と頷きそう言った。
「じゃあ!」
「ええ、ミラスタール・ペンデュラム――あなたの魔王さまに対する忠誠を確かに感じ取りました。そして、あなたにはたぐいまれなる軍師としての才覚がお有りのようで。……お見事です」
「う~~~っ、やったぁー、やったぁー!」
俺は小躍りしながら万歳三唱で嬉しさを爆発させた。近くに控えていたレネアとリリスも大いに喜んでくれている。
「やったな、相棒。これで俺っちもあの掃き溜めから脱出できるぜ!」
嬉しさのあまりスリリンを頭に乗せてタンゴを踏む。舞踏会の
「本当にあれに軍師としての才なんてあるの? にわかに信じられないわね」
「彼はあの最弱のダンジョン――虫穴の洞窟をわずか一月で鍛えあげたのですよ? それだけでも評価に値します。それに……」
「それになによ?」
「人間をゴミのように切り捨てる彼は、人の皮を被った悪魔ですよ。うふふ」
一体フィーネたちが何を話しているのか知らないが、いまはそれどころではない。
俺は賭けに勝ったんだ。
これで胸を張って大臣の元へ、祖国へ帰れるのだから。
「で、フォクシーは本当にあれを部下にするつもりなの?」
「もちろんですじゃ。妾の下僕として、これからたっぷり可愛がってくれるわ」
「あいつもついてないわね。選りに選って
こうして俺の長くつらかった魔王傘下試験が無事に終わりを告げた。
あとは帰って今まで通り、ぐーたら生活を満喫するだけだ。
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