そうだ、革命をしよう

 レイ・アルベルト。

 これが私の名前の様だ。


 というのも、自室で私はある日記を見つけた。

 ご丁寧な字で、丁寧に引き出しの中に入れられていた、可愛らしい日記帳。

 日記帳なのになぜピンクのフリルが付いている。

 意味が分からない。


 とにかくその日記に私の名前と思しきものが書いてあったのだ。


 この日記、読んでも良いのだろうか。


 いや、いいのだろう。

 たぶんこれは私の物だ。


 綺麗に使い込まれたページを恐る恐るめくる。


 すると中には・・・。



「なるほどな・・・」


 私が突然あの男、というかロイド王子に婚約破棄された経緯はこうだ。


 まず、私はロイド王子と小さい頃から婚約関係にあった。

 そして、そのまま学園に通い、卒業後はそのまま結婚する予定だった。


 しかし、ロイド王子は別の女の子に夢中になり始めたらしい。

 それを気に食わなかった私は、女の子をあの手この手でイジメていたそうな。

 その女の子の名前は、マリア。


 それが王子様にばれて婚約破棄。


 それにしても、このストーリーと名前、どこかで聞いたことがあるような気がする。


 たしか、妹がやっていたゲームでこんな人たちが出て来てた。


 もしかして、この世界はゲームの世界なんだろうか。


 記憶を探る。

 もう二年以上前に妹が嬉しそうに話していた内容。

 ロイド王子・・・。レイ・アルベルト・・・。マリア・・・。


 悪役じゃねえか!


 思い出した。


 確か、『囚われの愛』とかいうゲームだ。

 妹がうだうだと何度も同じことを話すから記憶に残っていた。


 どうしようかな。

 というか、もうバッドエンド確定じゃないか?

 もう婚約破棄されちゃったし。

 というか、男とは結婚したくない。


 私は男だ!


 そう言えば、主人公の女の子は確か別の国の王女様だとかそんな設定だった気がする。

 王子様の好きになった女性は実は王女様でした。

 そんなきれいで都合のいいストーリー。

 ああ、忌々しい。


 現実は都合のいいことなんて何一つないのにな。

 ほとんどが、苦しいこと。

 そしてたまに、ささやかな楽しみにしていることをしてお茶を濁す毎日。

 この世界では違うのだろうか。


 この世界の時代背景は中世。

 外を、車の代わりに馬車が走っている時代だ。

 技術なんて産業革命よりも以前のレベルだ。

 不便なことこの上ない。


 だが、これはチャンスではなかろうか?

 ちょうど領地も貰えたことだし、私が産業革命を起こしてみるのも面白いかもしれない。


 私が世界の技術レベルを一気に上げて、世界の富の八割を牛耳るような存在になれば・・・!


 どうせ、貴族制なんてすぐに滅びる。

 その証拠に、私の世界で貴族制なんてとっている国は聞いたこともないような小さな国しかない。

 

 王制も同じだ。

 どうせ、戦争が起これば王族というのはただのシンボルになってしまう。


 せっかくなら、私が武力と経済力でこの世界の支配者となって見せようではないか。


 なあに、私には誰も知り得ない知識という、強大な武器がある。


 この国を!いや、世界を!支配するのだ!


「ふははははははは!!!!!」


 笑いが止まらない。


 窓を開けて、外を見る。


 広がる青空に、大きな白い雲。

 まるで、私の門出を祝福しているようだ。


「見ていろ・・・。虫けらどもめ・・・」


 私に、告白もしていない男から降られるという辱めを与えた罰だ。


「絶対に、その頭を私に下げさせてやる・・・!」


*

 私は、かなり記憶力がいい方だ。

 いや、いい方だった。


 今となっては、もうかなりの事は忘れてしまっている。


 それでも、学生の頃は教科書を丸暗記出来てたし、数学や物理なども割と得意だった。


 さて、産業革命といっても、ただ単純に何か新しい技術を世に出せばいいわけではない。

 新しい技術で新たな仕事を生み出すのが、産業革命だ。


 この世界では労働というものは専ら農民が行うものだと考えられている。

 農民が新たな食糧を作る。いわゆる第一次産業という奴だ。


 しかし、この農民に新たな産業、つまり第二次産業や第三次産業の労働に従事してもらうようになるのが、産業革命の本質だ。


 例えば製鉄業。これは第二次産業だ。

 この技術が確立すれば仕事の幅は大きく広がるだろう。


 そして、銀行。これは第三次産業。

 世界中の貨幣を集め、貸し与え、さらに技術革新を促進することが出来る。


 この二つは出来るだけ早めに作っておきたいところだ。


 鉄をより早く、より多く加工出来れば船や車を作ることが出来るのも近付くはずだ。

 銀行が金が必要になった時に貸してくれると、よりスムーズに革命を進められるだろう。


 そして、作った製品を売り、食料を買う。

 そう言う形が理想だ。



 と、いうわけで私は今、学園で調査をしている。


 この世界の文明レベルを。

 今にして考えれば、もっと妹の話を真面目に聞いておけば良かった。


 学園の皆は少しだけ冷たい気がする。


 それと、私の机の中にネズミの死骸が入っていたんだが。

 私はあの程度の事では動じないが、周りの人は違ったらしい。


 ネズミの死骸を鷲掴みにした私を見た生徒たちの阿鼻叫喚っぷりときたらもうすごかった。


 耳がキンキンするよ。

 まったくもう。


 些細なトラブルも多少は起こっていたが、調査も無事に進んでいる。


 なぜだか分からないが、印刷技術と製紙技術だけは現代に近いレベルなのかもしれない。

 ゲームの仕様とかだろう。


 製鉄技術は最悪だ。

 なにしろ、武器が剣なのだ。

 しかも火薬がまだ開発されていない。


 さすがにビビる。


 それと、銀行もなさそうだ。


 これは単純にありがたかった。

 これで、この世界を経済的に牛耳ることが出来る。


「ふふふ・・・」


 私の作戦は完璧だ。


 この国に絶望と希望が同時に訪れる日が来るのが楽しみだ。

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