第97話 油断の値段
ウラッグが組織に加わると、俺は早速工房を用意することにした。
裏地区に今は使われていない工房があったのでそこを簡単に整理させて利用する。
誰も使っていた様子はなかったが、整理を始めた途端、所有権を主張してきた輩がいたようだが、そこはギニスが
鉄などの必要な材料は、つるはしの旅団に街の商人や鍛冶職人と交渉して買い取り準備した。
即席で用意したものをウラッグに見せると、ウラッグは鉄も釜も質が悪いと文句を言いながらも、やはり職人柄か作業に取り掛かり黙々と鉄を打ち始めた。
ちなみに俺が防具を作ってもらうために用意していた龍の鱗は、この釜で加工は難しいらしいのでメーテルには悪いがしばらくは利用する機会はなさそうだ。
作ってもらった武具は部下の装備と、闇市の商品として少し高額で売りに出した。
闇市は初めのころと比べ利用客も随分と増え、アガリもそれなりに見込めるようになってきた、それにつれて、組織に入りたがる奴らも増え、少しずつ組織としての力をつけていく中、俺はその水面下で次の準備を進めていった……
そして、ヴェルグに来てから二ヶ月が過ぎようとした頃だった。
太陽が真上まで登ったころ、拠点の中でそれぞれが自由に過ごしていると、突如入口の扉が勢いよく開けられ、足並みのそろえた兵士たちがぞろぞろと中に入ってくる。
「……ここか。」
兵士たちは中を見渡した後、「なんと汚い場所だ」と吐き捨てゴミを見るような眼で俺たちを見る。
「これはこれは、兵士様がこんな肥溜めに何の御用で?」
「ここの代表者は誰だ?」
「俺だ。」
兵士を睨む部下に割って入るように俺が名乗り出ると、兵士は俺の姿を見て鼻で笑う。
「ハッ、こんなガキが代表者だと?まあいい、ここ最近貴様らが違法な商売をしているという情報が入った。」
「さあ?なんの話かわからねえな。」
兵士がこちらに来ることは、伝からあらかじめ聞いていたので闇市関連の物はすべて隠してある。
「とぼけたって無駄だ、情報は上がってるんだ!貴様らがここら一帯で闇市を開いているという情報がな!」
「仮に闇市を開いていたとしたらどうなるんだ?」
「この町はレオナルド伯爵の管理下の元、法を犯した者には厳正な処罰が下される、闇市を開いたとなれば、代表者の貴様は拷問の末処刑され、他の者たちは犯罪者奴隷として売れるであろう。」
厳正ねえ……、闇市を開いただけで拷問の末に処刑とは随分仕事熱心な貴族様だ。ならば裏地区に住む奴らは大半が死刑だな。
「だが、その行いも貴様らのようなゴミが生きるために仕方なく行っているのであろう、とレオナルド様は貴様らにお慈悲をお向けられておられる、貴様らがこの街に価値があることを示せば多少の行いも目をつぶってもらえるかもな。」
随分と遠回しな言い回しだが、要は金か。
「いくらだ?」
「百二十万ギルだ。」
「百二十万だと⁉そんな大金払えるわけが……」
「ほう、払えないと?ならば、貴様らは街のただのゴミでしかならない、ゴミは我々が排除せんとな?」
兵士たちが剣に手をかけると、それに対し血の気の多い新規の部下たちも動き出す。
……そろそろ頃合いか。
「いいだろう、百二十万だな。」
「な⁉」
「そうだ……いや、待て、やはり百五十万だ。」
「わかった、払おう。」
俺は斬りかかりそうな奴らを手で制して、百五十万ギルを用意させるとそれを兵士に渡す。
「……確かに。ではさっさと行くとしよう、こんな臭いところに長居したら、屋敷に入れてもらえなくなりそうだ。」
そして、兵士たちが去った後、素直に応じた俺に対し周りから一斉に怒号が上がる。
「てめぇ、ふざけんじゃねえぞ!百五十万なんて大金払いやがって!」
「俺たちの一か月以上の売り上げじゃねえか⁉」
「それにあの様子じゃ一回きりじゃ収まらんだろう⁉」
主に騒いでいるのは新参者だが、まあこの反応は当然だろう。だからと言って立てついていいってもんじゃねえ。
「うるせえ!」
「――⁉」
声を荒げて魔剣で床を叩くと、場の空気は凍り付き、騒いでたやつらはあっという間に静かになる。
「ギニス。全員ここに集めろ、外に出ている奴も全てだ。」
「は、はい!」
俺はギニスに指示を出すと、ギニスも敬語で返事をし、すぐに通信機で全員と連絡を取る。
そして夜になると、この場には新しく入った奴らも含め総勢五十名が集まっていた。
「これで全員か?」
「はい。」
「メーテル。」
「はい、紛れていた密偵と思われる者は全て排除しました。」
「マーカス。」
「へい、盗聴器らしき道具も周囲にないことは確認済みっス。」
「パラマ、ランファ、ガイヤ。」
「はい、ここ一帯に結界魔法を張りました。」
「よし。」
確認を終えると俺は改めて全員に目をやる。
整列などはしていないが、皆こちらに目を向け静かに俺の言葉を待っている。
「ヴェルグを落とすぞ。」
その言葉に小さなざわつきが起こる、嬉しそうなアルビンとメーテルに、慣れた様子のエッジたち、あとは戸惑いを見せるのが殆どだ。
「ヴェ、ヴェルグをとるって、確かに以前に比べれば人も装備も整ったけど、まだまだ小規模だぜ?こんな人数で戦っても簡単につぶされちまうんじゃ……」
「俺たちは別に革命家じゃねえんだ、わざわざ正面から喧嘩を売り、町を制圧する必要はない。裏からせめてじっくりと落としていく、そしてその準備はずっと進めてきた。そして今が頃合いだ。」
俺は今日その場にいなかった奴らのために昼間の出来事を簡単に説明した。
「……というわけで、ここ数ヶ月何も言って来なかった町の管理者のレオナルドが突如多額の金を要求してきた。今までは新しくきた組織という事で様子見をしてきたとも考えられるが、話によれば住民への税も上がったという事だ、そうだな?」
「ああ、街に御触れが出ていて、町の奴らにも嘆いていたぜ。」
エッジの話によれは、元々税は高かったが払えないほどではなく、身の安全のためにと住民たちは問題なく支払っていたが、この増税により住民たちはやりくりに困っているという。
情報にではレオナルドは、この街の管理者について一〇年以上たっているらしいが、これまで無茶な要求をしたことはなく、五大盗賊ギルドとも問題が生じたことはないという話だ。
そう考えるとレオナルドは交渉や政治面についてはそれなりに長けているように思える。
しかし、今回俺たちの要求して金額はとてもじゃないが継続して払えるような額ではない、という事は無茶な要求をしてまでも金が必要になっているという事だ。
「ならばレオナルドは今、何らかの理由で至急金を作る必要があるという事だ、動くなら弱みがある今だ。」
「それなら、なおさらさっきの金を払ってはダメだったのでは?」
「素直に従うことで奴らは俺たちが逆らう事の出来ない弱者と認識しただろう、あの金で油断を買ったと思えば安いもんだ。」
「んなことはどうでもいいからよー、具体的にどう動くんだ?」
状況説明に興味のなさそうなアルビンがさっさと指示をだせと遠回しに急かしてくる。
「まずは奴の収入源である五大盗賊ギルドから切り離す。話によれば双方の利害で組んでいる奴らだ、逆に言えばそこを取り除けば奴らが動く理由はない。」
俺はメーテルに目を向けると彼女はにっこりと微笑む。
「メーテル、
「ええ、順調に浸透しています、あと必要なのは勢いと流れかと。」
成程、つまり俺たちの動き次第という事か。
「アルビン。」
「おう!」
「まずは挨拶がわりだ、港町から運ばれてくる魔石を奪って来い。護衛の兵士は全員息の根を止めてな。」
「うし!了解。」
アルビンが嬉しそうに、指の骨を鳴らす。
かつて俺たちが命を削って掘っていたこの街の存在意義でもある魔石の強奪、初手として大きすぎる一撃だが、これが作戦開始の合図となる。
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