第88話 鍛冶屋と騎士②
およそ三ヶ月ぶりとなるアリアとの再会を果たすと、同じ目的地であることから俺は鍛冶屋までアリアと同行することになった。
旅と呼べるほど距離はないが、鍛冶屋につくまでの間、これまでの話を嘘と本当を混ぜながら話し
「これがドラゴンの鱗ですか⁉凄いですね、私も初めて見ました。」
話の流れからドラゴンの鱗をアリアに見せると、アリアは初めて見る存在に子供のように目を輝かせている。
「やっぱり騎士団でもドラゴンってのは珍しいのか?」
「そうですね、ワイバーンの討伐などはありますがドラゴンはここ何十年も現れていないので、もう絶滅を疑われるほどですから。」
ワイバーンか。実物で見たことはないが、図鑑に描かれていた絵では似たようなもんだと思ったがな。
「でもすごいですね、ドラゴンの鱗を手に入れるなんて、さっきの話でも聞く限りティアさんは商人としてをどんどん前へ進んでいっているみたいですし、私も騎士として精進しないと。」
先ほどの話を全て鵜呑みにしたアリアが勝手に盛り上がりやる気を出し始めている、まあ疑わないのはこちらとしてはありがたいが。
「で、アリアは何の用があって鍛冶屋に?」
レーグニックの話ではウラッグという鍛冶屋は聖剣を作っているという話だ、その関係で顔見知りの間柄で王都への招聘だろうか?
「はい、実は最近、私もスキルの練度が上がってようやく聖剣を作ってもらえることになったので取りに行くところです。」
「……なに?」
アリアが嬉しそうに語るが、以前何度かアリア戦闘を見たがその際は刃のない剣に自分で光の刃を作り出し戦っていた。てっきりそれが『聖剣』スキルっだと思っていたが違うのか?
「聖剣ってのはいつも使っている刃のついてない剣じゃないのか?」
「いいえ、あれはいわば疑似聖剣ですね、本来聖剣スキルは本物の聖剣に力を宿すのですが、本物の聖剣を扱うに必要な実力を残念ながら私には持ち合わせてはいなかったので、持ち手だけの聖剣でできた刃のない剣を使っていたのです。」
「……」
ということは、こいつはまだ本当の実力を発揮していない状態だったと?
今の時点で恐らくアルビンと互角ほどの実力があったと思ったが、こいつが聖剣の力を発揮したらどれほどになるのか。
聖騎士団は確か騎士団長も聖剣使いだったはず、そして恐らく実力はアリアより上だろう。
聖剣使いが二人もいる部隊か……考えただけでもゾッとするな。
「……どうしました?」
「いや……それは楽しみだなと。」
「はい!これで更に人々の力になれますから。」
こいつの危険性は計り知れないが、今は友好関係を築けている。
とりあえず今はこの関係は維持しておくためにもこいつの前では大人しくしておいたほうが良いな。
そしてそんな話をしているうちに気が付けば目の前には鍛冶工房がついた小屋を発見する。
「あれか」
「はい、いつもならあの工房で鉄を打っているのですが今は姿は見えませんね。家の中で休憩でもしているのでしょうか?」
そう言って、小屋のほうに足を進める。
しかし入口付近まで近づくと、ふと中から言い争ってるような声が聞こえてくる。
「騒がしいな。先客がいるのか?」
少し足を早めて家の扉を開ける
すると中では騎士の格好をした男三人とその男たちに囲まれている髭を生やした背丈の小さな種族……ドワーフとみられる男がいた。
「ここにある事はわかっているんだ!さあ、さっさと魔剣を渡せ!」
「ハァ、ハァ……何度言われてもないものはない、さっさと立ち去ってもらおう。」
「こいつ、ドワーフの分際で調子乗りおって!」
騎士の一人がドワーフの胸ぐらを掴むと、そのまま剣が並べられたへ突き飛ばす。
「あなたたち、何をしているのですか⁉」
それを見たアリアがすかさず中へ入ると俺も続く。
――……ヲ……ヨコセ……
「なんだ貴様らは?」
「……その鎧の紋章、あなたは王国騎士団、第四部隊の方々ですね。」
「いかにも、我らこそ伯爵家以上の家系のみ集められた地位と実力を兼ね備えた第四騎士団、そういう貴公は王子のお情けで作られた十一部隊のお嬢様じゃないか。」
向こうもアリアに気づいたようだが、あまりいい関係とはいえなさそうだな。
「騎士団ともあろう方が市民に手を挙げるとはどういうつもりですか!」
普段怒りを見せないアリアが珍しく怒りを見せる、しかしそんなアリアに対し騎士達は嘲笑を浮かべる。
「ふん、こんなド田舎の人間など民を名乗る権利などない、ましてや国に貢献をしようとしない薄汚いドワーフなぞにな。」
倒れているウラッグを改めてみる、ウラッグは暴行を受けたのか、口と鼻から血を流し眼を酷く腫れあがらせていた。
「騎士団が民に暴力を奮うなど言語両断です!恥を知りなさい!」
「なんだと!下級貴族の分際で何という口の利き方を――」
アリアの言葉に取り巻きの騎士が反論しようとするが、中心にいる騎士がそれを手で制す。
「ふん、相変わらず甘っちょろい奴らだ。貴様らのような奴がいるから誇り高き王国騎士団の名に傷がつく。まあいい、今日のところは帰るぞ。」
そう言うと、騎士たちは工房から去っていく。
「だいじょうぶですか?ウラッグさん」
「ハァ、ハァ、お前さんは、メンデスのとこの嬢ちゃんか。そういや、聖剣を作ってほしいんだったな、待ってろすぐに準備を――」
「いえ、今はそれより怪我のほうを……」
アリアが無理やり立ちあがろうとするウラッグを止めて、回復魔法をかける。
すると少し楽になったのか、少し呼吸が落ち着き始める。
「ところで何を揉めてたんだ?」
「いや、別に大したことじゃない。」
「そういえばさっき魔剣がどうのこうのって」
アリアが騎士団との会話を聞いていたようでその内容を指摘すると、ウラッグは観念したのか白状する。
「……ああ、あ奴らどこから聞いたか知らんが、ここに魔剣があるって聞いたらしくそれを渡せと言ってきてな」
「魔剣!あるのですか?」
「……いや、ない」
「……」
そういったウラッグの眼がわずかに揺らぐ。
確かに飾られている剣にそれらしきものは見当たらない、
……だが、この家に入ってきてから何か異様な気配を感じる。
『……ヲ……ヨコセ……』
「あん?」
ふと何か聞こえた気がして横を見る、しかし視線の先には特に何の変哲のない壁がしかない。
「ティアさん、どうかしましたか?」
「いや、こっちからなんか聞こえた気がして」
「な、なんじゃと?」
その壁にそっと触れてみる、すると手はそのまま壁をすり抜けた。
「ティアさん⁉」
「な!お前さん、なぜ⁉」
そして体も寄せていくと俺はそのまま壁をすり抜けた。
その壁の向こうには何とも雰囲気のある薄暗い部屋があり、そして先には異様な雰囲気を放つ黒と赤の混じった刃が剝き出しの剣が祭壇に飾られていた。
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