第86話 鍛冶職人

竜王会を正式に立ち上げて一ヶ月が過ぎた、滑り出しとしては上々といったところだろう。

 黒き狼の残党を追い出しアジトの中を一通り片付けた後、当初の予定通りアジトの近くに闇市を開いた。

 と言ってもただ露店を開いただけだが。


 店員には衣食住の補償を条件に捕らえられてた女達を置き、商品としてオークションでの戦利品を並べた他に、町通りで買った適当な商品を転売した。


 ここには様々な理由から表に出ることができず、果物一つ買えない奴もいるので、そういうやつの足元見て割り増し価格で販売しても買うやつはいる。

 特に回復薬なんかは倍以上の値段で販売しても売り切れるほどだ。

 その他には、パラマとランファが調合したエルフが狩りなどで使う手製の毒なども珍しさゆえに売れている。


 勿論、この場所で店を開いて問題が起きないわけがなく、時には因縁をつける輩や店員の女に手を出そうとする奴、黒き狼の壊滅によりこの場所の縄張りしまを主張する名も知らない賊どもが暴れまわったりもすることもあった。だが、そういう時は後ろに控えているうちのもんが文字通り身ぐるみ剥いで表に捨てに行く。


 そしてそんな日々を繰り返し一ヶ月も経つと噂が広がったのか暴れる輩もいなくなり、俺たちの存在も認知され始め、ようやく組織にも落ち着きが出てきた。


――


「……とまあこれが今の現状だ。」


 俺はこの一ヶ月の話をここにたまたまの休憩に来ている聖騎士団のレーグニックに報告した。


「ケハハ。そうか、まあ順調そうで何よりだ。」

「そういうそっちはどうなんだ?」

「俺か?……ああ、そういうやなかなか面白い話があったな。」


 そう言ってレーグニックは俺の顔を見てニヤリと笑う。


「つい先日、ブリットが牢獄で何者かによって殺された。」


 まあそれは予想通りだ、そしてそれはこいつも同じはず。


「で、どうやら国はこの一件を貴族殺し、つまりお前の仕業にするつもりらしくてな。またお前への危険度が上がるみたいで近々お前の捜査に他の部隊も動き出すらしい。」


……なるほど、オークションの一件が公にできないから大丈夫と考えていたが、それをブリット殺しで補うか、確かに面白い。


「で、次はどうすんだ?」

「とりあえず今はこれ以上大きな動きは見せるつもりはねぇな、いくつかの商人がここで店を出したいと話が来ているし、しばらくはここで稼ぎながら身を潜めるさ。」


 と言ってもそれはあくまで表向きの話で、今は水面下でいろいろと動いているところだ。

 この一ヶ月、五大盗賊ギルドは俺たちに対して何の動きも見せていない。

 やはり闇市程度じゃ興味を持たないのか、それとも今まで来た奴らのなかに紛れていたのか。

 一応マーカスにもたまに客を鑑定してもらっていたが、それらしい人物はいなかったらしい、だがどちらにせよ今後の対策は打っておかないといけない。

 そしてその対策の一つをレーグニックに相談してみる。


「ところで話は変わるが、あんたの伝に腕利き鍛冶職人はいないか?」

「鍛冶職人?」

「ああ、ちょうど最近面白い素材が手に入ってな。防具を作ってくれる鍛冶職人を探しているところなんだ」


 俺はテーブルに両手サイズの鱗を置く。


「……これは鱗か、何のだ?」

「ドラゴンだ。」

「ドラゴンだと⁉」


 いつも余裕を見せていたレーグニックの声に少し驚きが混じる。


「本物か?」

「ああ、信用できる奴からのもらったものだから恐らくな。」


 それは、前回メーテルが去り際に置いてった物だった。


「貴方様を直接守れないのは残念なので、せめてこれを貴方様に――」


 そういって渡されたのはこの一枚の鱗だった、色や形はメーテルの尾の鱗に似ているがサイズが倍以上と大きく、恐らく本人のものではないだろう。


「休暇中に手に入れたお土産です、それを素材にすればそれなりの防具が作れますので、わたしの代わりにあなた様を守ってくれるでしょう」


 と言われたので有り難く使わせてもらおうといざ鍛冶屋に持っていったところ、この鱗はドラゴンの鱗だと判明し、自分の腕では手に余るといわれて断られた。

 レーグニックも未だに信じられないのかジッと鱗を見つめている。


「……そうか。ならここから王都への続く道の途中、人里離れた場所で鍛冶屋を構えているウラッグというドワーフがいるからそいつ訪ねてみるといい。」

「そいつは何者だ?」

「知っての通りうちの団長は聖剣使いだ。だが肝心の聖剣を打てる奴がいなければ意味がないだろ?

で、その聖剣を作ってるのが――」

「その鍛冶屋ってことか。」

「ああ、頑固なドワーフで再三王都への招聘がかかっているが首を縦に振らないでいる。

だが、実力は本物で団長が親交あるおかげでうちの部隊の装備はすべてそいつが作ったもんだ。」


 そう言ってレーグニックは俺に剣を一本渡す。

 見た目は鋼でできていそうだが持ってみるとまるで木の枝のように軽い。


「これは予備の剣で『軽量化』のスキルが付与がついてある、普段使っている剣には魔法系のスキルとウラッグは鍛冶の腕は勿論のこと、武器にスキルを付与できる能力を持っている。そしてこれは剣についてあるスキルだから無能のお前でも使えるだろう。」


 なるほど、剣にもスキルがついたりするのか。

 まあ、そのドワーフが特別なんだろうがこういうのもあるんだな。

 スキルを持たない俺には武器はどれも同じだと思っていたがこうなってくると話は変わるな。


「普通は門前払いだが、紹介状があれば大丈夫だろう、それに今なら恐らく……」


 と言ったところでレーグニックは言葉を止める。

 そして「いや、なんでもない。」とだけ言って歯切れが悪いまま話を切ると、紹介状だけ書いて立ち上がる。


「あ、それと一つ警告だ。」

「あん?」

「ビビアンを侮るなよ、奴は腐ってもノイマンの親族だ、金もそうだが人脈もそろっている、中にはお前が探している奴もいるかもしれないぜ。」

「俺が探している奴?」

「ああ、奴の兵士の中にはキーリス・というかつて騎士団の四番隊の騎士団長をしていた男がいる。」


キーリス……『ノーマ』


「実力は全部隊の中でも五本の指に入る男だったが、傲慢でプライドが高くよくうちの団長とも衝突していた、敵以外にも部下にすら暴力を奮っていたことが問題視され追放された男だが実力は本物だ。他にも色々とヤバい奴らを雇っているって話だ。今はまだ準備中だが、そのうちまたお前に頼みたい仕事がある、だからそれまでにここの問題は片づけておけ。」


 そう言い残すとレーグニックはフードで顔を隠して巡回へ戻っていった。

 しかしキーリス・ノーマか……ここでその名前が出てくるとはな。

 確かにレーグニックにその家について話は聞いたが、別に探していたわけではないのだが、それに以前聞いた話が本当なら恐らく心配する必要はないだろう。


 しかしノーマか……この名前、もっと前にも聞いたことがあったような。

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