第85話 新たな組織

『五大盗賊ギルド』


 俺がその言葉を耳にしたのはこの町に初めて訪れた時、レクター一家と南部地方に向かって旅をしていた時だった。

 今回と同様に街のあちこちから感じた視線を滞在中の宿の店主に尋ねてみると、店主はヴェルグの裏の顔について教えてくれた。

 

 この街には賑やかな街並みに隠れた裏地区という無法地帯があり、そこには街に訪れた人間を標的にしているならず者たちが多数いること、そしてその裏地区を根城にして各地で犯罪行為を働く五つの盗賊ギルドがあることを。


 『黒き狼』『影なき蛇』『イービルアイ』『闇越後』『ブラッディラビット』

 

 その時は何事もなく終わってたが、その後旅したあちこちでもそのギルドの名前を聞くことがあった。

 一応調べてはいたが、商人かたぎとして生きていた俺では大した情報は得られず結局このギルドがどう言ったものだったのかは謎のままだった。

 

 この残党の末端の奴らが他のギルドのことをどこまで知っているかはわからないが少なくとも、今までの誰よりも詳しいはずだ。


 残党の奴らは観念したのか、すらすらと話し始めた。


「その言葉を知ってるならわかってると思うが、この裏地区は五つの盗賊ギルドが仕切っている。傭兵や、襲撃を生業とする俺たち『黒き狼』に、盗みの専門の盗賊『影なき蛇』、あらゆる情報を流しそして売る『イービルアイ』に道具から人、魔獣まであらゆるものを他国から密輸してくる『闇越後』そして殺し屋、暗殺集団の盗賊ギルド『ブラッディラビット』。俺らはこの街の領主、ビビアン・レオナルドに賄賂を贈ることでその活動を見て見ぬふりしてもらっている。」


 ビビアン・レオナルド……ヴェルグの領主にしてノイマンの親戚関係にあたる男だったな。


「俺たちは五大ギルドなんて一括りで呼ばれてはいるが、実際は特に大きく関ったことはない、仕事もそれぞれ違うからな、敵対することもないが協力することもない。同じ街を拠点に持つが、お互い干渉しないことが暗黙の領域になっている。」


 なるほど、それは少し意外だったな。

 てっきり街の縄張り争いを繰り返し飾りあっていると思っていたが、いや、こいつら末端が知らないだけで水面下でやりあってる可能性もあるか。

 頭張っていたやつに聞ければよかったんだが、残念ながらそいつはうちのアルビンが斬ってしまった。


「だから俺が他のギルドについて知っていることはこれくらいだ。」

「賄賂の額はいくらくらいだ?」

「さあ、幹部じゃないんで詳しくは知らないが確か月額収入の三割くらいだったか?年々要求額が上がってるって頭も不満を漏らしてたな。」


 三割か……妥当に見えるが、領主からすれば何もせず五つの組織からあがりがもらえるなら儲けもんだな。

 だが……


「つまり、お前らは争っているわけでもなくその賄賂の金額に不満を持つことなく、のうのうと金を払い続けてきたということか、犯罪組織にしては随分平和主義じゃねーか。」

「そ、そりゃ仕方ねーだろ、犯罪を見逃してもらってるし、わざわざあの大貴族、ノイマンの家にたてつくようなやつはいねーだろ。」


 その言葉に、味方からちらほらと視線を感じる。


「それにビビアンはその金で屈強な護衛やお抱えの殺し屋も雇ってる、それも本来なら国際指名手配になってもおかしくないくらいのヤバい奴らばかりだ。最近もその殺し屋を殺してなり替わった更にヤバいやつもいるって話だ。それなら多少高くても金を払ったほうが遥かにマシだろう。」

「……まあいい、大体話は分かった。」


 今の話を聞く限り


「で、これからどうするんすか?」

「そうだな、黒き狼のシノギをそのまま引き継ぐってのもありだと思ったが、流石にこの人数で傭兵稼業は難しいし闇市でも開くか。」


 この街では物騒すぎで闇市はないと言う話らしいからな、そこを管理すればある程度は上がりも見込める。

 他のギルドの奴らは闇市程度なんて気にも留めないだろ。


「ということでだ、お前らの『イービルアイ』の頭によろしく伝えてくれ」

「⁉」


 俺は先ほどまで説明をしていた残党の横にいる男に告げる。

 すると男は一瞬目を大きく見開くが、すぐに落ち着きを取り戻すとあっさりと白状した。


「……なぜわかった?」

「他の奴らが捕まって恨み節や、項垂れて見せてる中、てめぇだけが妙に落ち着いて俺たちを観察し、話にも耳を傾けて情報を探っていたからな。」


 あっさりと認めた『イービルアイ』のスパイに他の捕まっている奴らはざわつきを見せる、その反応を見るにどうやら誰も知らなかったようだな。


「なるほど、ただの威勢のいいガキというわけではないようだな。」

「テメェらのことだ、どうせすぐに俺たちの事も調べてしまうんだろう?なら俺たちの事を知った上で改めて話をしようじゃねえか。」

「フッ……わかった、頭に伝えとくよ。で、結局お前達は何者なんだ?」

「……」


 そういや、今日の今日まで組織名も決めずに動いていたな。


「青龍会……」

「青龍会?」


 いや、あれはあくまで前世の組織の名前だ。

 同じ名前を付けるつもりはない。


「いや、もっと別の名前に――」

「では、闇市を開く事と主人あるじ様の名前に因んでティアマット商会なんてどうでしょう?」


 と、突如横から女性の声が入る。

 隣を見れば当たり前のように俺の隣にはメーテルがいた。


「あぁ!トカゲアマァ⁉テメェ、今までどこに――」

「な⁉」


 久々に顔を見せたにメーテルにアルビンが突っかかろうとするが、それをイービルアイのスパイの男が声によって遮られる。


「お、お前は最近ビビアンに雇われた殺し屋……」

「あら、もう知られているのですか?雇われたのはついこの間のはずだったのに。」

「その最近の間にビビアンの雇った殺し屋を殺し、さらにビビアンと敵対関係にある貴族の騎士たちを三人も殺してんだ、ギルド内では超危険人物に認定されてるよ。」


 ふむ、どうやら先ほど残党が話してたのはこいつのことか。


「流石、イービルアイの方々には知られていたようですね、ですが残念。正確に言えば私が仕えているのはこの方だけです。」


 そう言って改めて俺をひき立てるようにの後ろに一歩下がる。


「……こりゃあとんでもない情報をもらった。」

「で?てめぇは仕事サボって今までどこをほっつき歩いてたんだよ。」

「サボりとは人聞き悪い、私は主人様に自由にする許可はもらっていたので、折角だったので個人的に殺したい方がこちらにいらしたので始末したところ、そのまま勧誘されたので密偵がてら入ったまでです。

ちなみに主様には連絡済みです。」


 アルビンがこっちを見るので無言で頷く。

 隠していたわけではないが、話す理由もなかったからな。

 

「それより、名前、どうですか?」

「ああ、悪くはないが、一捻りほしいな。」


 というより正直自分の名前をそのまま付けるのは好きじゃない。

 ティアマット……確か邪竜王だったか?


「……竜王会。」

「へ、竜王会っスか?」

「ああ。」

「あら、いいんじゃないでしょうか?」

「ああ、悪くねえな。」


 他の仲間からも評判は悪くない。


「よし、なら今、これより俺達は盗賊ギルド『竜王会』を名乗る!名前を決めたからにはこの名を汚すことは絶対許さねえ!いいなぁ⁉」

「「「おう!」」」


 その言葉に全員が大きな声で返事を返した。

 竜王会……これがこの世界での俺の新しい組の名前だ。

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