第37話 調査
町の調査を一通り終えた翌日、俺は次に町の外にある教会へと向かった。
場所は今いる町、リンデンから近くにある村を行く際に通る森の中にあるらしく、聞いた話によれば朝から馬車で向かえば遅くても夕方くらいには着くと言う事だ。
しかし残念ながら今は馬車は持ってないので、俺は徒歩で目指すこととなった。
幸い、モンスターと遭遇することもなく進めたこともあって、町を出て二日目の日が傾き始める頃には森へと辿り着くことが出来た。
しかし、森に着いたところで少し雲行きが怪しくなった。
……ちなみにこれは例えとかではなく言葉通り、天気が崩れ始めていると言う事だ。
まだ降ってはいないが、空を見上げれば真っ黒な雲が小さく雷を鳴らしながら速い速度で動いている、降ってくるのも時間の問題だろう。
俺は、急いで目的の教会を探すことにした。
……そして、森を彷徨って三十分。
ポツポツと雨が降り始めた頃、木々の開いた場所に目的の教会を見つけた。
森の中にポツンと一つ佇む教会、少し古びているのと天気が悪い分、不気味さも増している。
まあ、これはあくまでロケーションの問題で実際教会自体にこれといって変わったところはない。
とりあえず中に入ってみる。
入り口の両扉をゆっくりと開けると、目の前には古い外見とは似合わない立派な聖堂が広がっていた。
縦二列に綺麗に並べられた二つの長椅子の間に赤い絨毯が引かれ、それを辿っていくと巨大なステンドグラスを背に神々しい女神像が置かれている。
そしてその前に置かれた教壇には年老いた神父が一人、本を開いて立っていた。
「おや?これはこれは少年の客人とは珍しい。」
神父はこちらに気がつくと開いていた本を閉じ、にっこりと笑いかけてくる。
「何か用かね?」
「近くの村に行く途中雨が降ってきたので、ここらで少し雨宿りをさせていただきたい。」
「それは災難だったのう。なにもないところじゃがゆっくりしていきなさい。」
神父にそう言われると俺はそのまま客人用の部屋へと通される。
案内された部屋に入ると、部屋にある窓から外では雨足が強まっているのが見えた。
「……少し、肌寒くなりそうじゃのう。スープでも用意しようか。」
外を見て神父がそう言うと部屋を出ていく。
立派な聖堂に優しい神父、成る程な、確かに信用に値する場所だな。
だが、性分かな。俺にはこの優しさが逆に疑わしく思える。
さて、一人になったところで、動き出すか。
まずはこの部屋を少し調べてみる、と言っても特に漁るところもない。
窓が二つに通気口が一つ。部屋の中には来客用と見られるベットが二つと机が一つ置いてあるだけで特に目立ったものはない。
次に部屋を出て聖堂へ行く、小さなオルガンや教壇などを探ってみるが変わったところもなく、俺はそのまま視線を女神像へと向ける。
ステンドグラスを背景にこの像を見るのは圧巻だった。見た限りモデルとなっている女神は俺の知っている女神と少し違うようだ。
俺の出会った女神と別人か、それともあくまで想像で作ってたのか。まあどちらでも良いことだ。
俺は上から下までじっくり像を見ていく、すると少し像に違和感を覚える。
古い建物みたいだから像にも汚れや多少の傷があるのも無理はない、問題は傷の付き方だ。
劣化してるであろう部分が所々欠けている箇所があるが、常にここに配置され動かすことがない女神像と考えれば少し気になるところだ。
そしてそのまま視線を床まで下ろす。
……
「女神像が気になるかね?」
女神像に集中していたため気づかなかったがふと振り返ると、手にスープを持った神父が、すぐそばまで来ていた。
「いえ、こうしてじっくり見る機会はなかなかないのでこの際にしっかり見ておこうかと。」
「そうか、それは感心じゃな。それで、何か気になった事はあったかね?」
そう言うと、神父は相変わらず優しい笑みを浮かべて訪ねてくる……が、目は笑っていない。
「……いえ、特には。」
「そうかい、ではスープの用意もできたし部屋に戻ろうか」
そう答えると神父は促すように率先して部屋へ足を進める。
とりあえず、今は様子見だな。
俺も神父を追うように部屋に向かおうとするがその瞬間、教会の扉が開く音と、それに伴い外から聞こえる雨音が聖堂に響き渡る。
そして扉の影から女性が顔を覗かせる。
「あの、すみませーん、ここで少し雨宿りをさせていただけませんか?」
薄い金髪の髪を雨で濡らし、前髪から雫を垂らしながら女性が尋ねる。
教会の中をぬらさないように配慮しているのか女性は顔を出すだけで中へは入ろうとしない。
「ええ、構いませんよ、そこにいても濡れますでしょう。タオルも用意しますので是非中へお入りください」
「あ、ではお言葉に甘えて」
神父の許可をもらい女性が中に入って来る、しかし女性の格好を見た神父はその姿に一瞬の驚きを見せる。
女性は銀色の鎧を身に纏い、腰には二本の剣を携えている。
そしてその鎧には目立つように獅子の紋章、国家の紋章が刻まれていた。
「騎士団員か」
ポツリと呟いた俺の言葉が聞こえたらしく、女性は胸に手を当て敬礼すると教会に響き渡るような高らかな声で自己紹介をした。
「はい!私はベンゼルダ王国騎士団、第十一部隊団員アリアハン・メンデスと申します!以後お見知りおきを!」
元気よく名乗ったその女性に対し、神父が隠しきれていない動揺を見せていたのを俺は見逃さなかった
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