第18話 スキルの脅威

 一度受け取った素材をもう一度ギルドに預けると、俺は勝負の場に指定された場所へと向かうため、ギルドの出口へ足を進める。

 すると先ほどのやり取りを見ていたノーマが慌てて呼び止めてくる。


「ちょ、ちょっと待ってください!マットさん、カルロさんと勝負なんていくら何でも無謀すぎますよ!」 

「無謀?」

「ええ、カルロさんはあの若さでああ見えて冒険者ランクはC、剣スキルはBランクの実力者です。無能のあなたがまともに戦って勝てる相手ではありません!」


 ノーマが必死であの男の凄さみたいなものを説明するのだが、スキルや冒険者ランクについて詳しく知らないからいまいちピンとこない。


「……それは凄いのか?」

「凄いですよ、武器スキルはランクが高ければ高いほどその武器を上手く扱え、性能を引き出せるんです。そしてBランクは十段階の上から四番目。この町の冒険者でも持つ人は数えるほどしかいません、前回はカルロさんが油断していたこともあって、マットさんが勝ったみたいですが、準備万端で来られてはまず勝ち目はありませんよ。」


 つまり、準備万端ならあいつのスキルが発動するという事か。

 それは丁度いい、この世界のスキルの恩恵とやらがどれほどあるのかを知るにはもってこいだ。


「望むところだ。」

「の、望まないでください!」


 俺は必死で止めようとするノーマを無視してそのままギルドの外へと出て行く。


 カルロが勝負の場として指定したのはギルドの近くにある空地で、そこはよくギルドの冒険者たちの腕試しの場として使われているところらしい。


 言われた場所に行くと、先程の大々的な宣戦布告がいい宣伝になったのか周囲には充分なほどのギャラリーが集まっており、その中心にはカルロがすでに待機していた。


 俺が来たことに気づくと、ギャラリーたちは自然とカルロまで続く道を開けた。


「カルロー!やっちまえぇ!」

「今度は無能なんかに負けるなよー!」


 アウェーという事もあってか向こう側の一方的な声援が飛び交う。

 

 少し離れたところには帽子を持った男に冒険者達が群がり帽子の中に金を突っ込んでいる、どうやら賭けの対象にもなっているようだ。

 ならファイトマネーくらいは欲しいものだ。

 俺は空地の中心まで歩くと、カルロと向かい合う。


「覚悟はできてんだろうな無能。今回は前の時みたいにはいかねえぞ。」


 カルロがニヤリと笑って剣を取り出し俺へと突き出すと太陽に光に刃がキラリと反射する。

 使っているのは両手剣のようで見た限り模擬刀という訳でもなさそうだな。

 なら遠慮する必要もないな。


「それは楽しみだ。」


 俺もカルロに対し手を前に構える。


「なんだ、あいつ?武器を使わないのか?」

「使いたくても使えねえんじゃねぇの?無能だし。」


 素手で挑もうとする俺にギャラリーからは冷ややかな声と嘲笑が聞こえてくる。


「いいのかよ、本当に武器を使わなくて、スキルがないとは言え、攻撃くらいはできるだろう?」

「構わない、これが俺のスタイルだ、まあお前が素手の男とはやりにくいってんなら使ってやってもいいが。」

「ハッ、誰が言うか!その代わり、それで腕の一本や二本斬り落されても文句は言うなよ!」


 カルロが剣を構える。


「この前受けた屈辱、倍にして返してやる、行くぜ!」

「……来い!」


 その返答が合図となり、カルロが突っ込んでくると、勢いをそのままに俺に向かって剣を縦に振り下ろす。

 俺はそれを横に避けるが、カルロもすかさず横に斬りかかってくる。


 速いな。


 剣が顔に触れるギリギリのところで後ろに跳んで躱すと、カルロも後を追って連続で斬りかかってくる。


「オラオラオラオラ!」


 俺はカルロの攻撃を全て間一髪のところで避けていく。


「流石、カルロだ、生意気な奴だが実力は伊達じゃねえ。」

「だが、無能も全部避けてるぜ。」


 ギャラリーも中々の盛り上がりをみせている様で歓声も次第に大きくなっている。

 

 なるほど、これがスキルの恩恵というやつか。

 全体を通しての動きはそこまでは早くないが、剣の振りに関してはまるで小枝を振ってるように速く、そして鋭い。

 まるで重さなど感じていないようにも見える。一度でもまともに当たれば簡単に腕の一本くらい簡単に持っていかれるだろうな。


 ……ま、当たればの話だがな。


 カルロの攻撃は確かに速いが動きが単調すぎて読みやすい。


「どうした無能、逃げ回っているだけじゃん勝てないぞ?」

「そういうお前も攻撃を当てないと、勝てないぞ。」


 互いに挑発し合いながらも攻防を繰り広げる。

 暫く攻撃を避け続けていると、剣を振り回していたカルロが一度攻撃の手を緩め、距離を置いてくる。


 ……スタミナ切れか?

 あれだけラッシュを続けていれば息切れしてもおかしくはないが、そんな様子には見えない。

 カルロはそして少し離れたところで剣を上段に構える。

 そして……


「スラッシュ!」

「⁉︎」


 そのまま剣を勢いよく振り下ろしたかと思うと、そこから斬撃を飛ばしてくる。

 俺は意表を突かれながらも体勢を崩してなんとかそれを避ける。


「ちっ、避けやがったか。」


 カルロが悔しそうに舌打ちする。

 しかし、今のは流石に危なかった。斬撃を飛ばす相手とは戦ったことがなかったからな。

 これもスキルの恩恵が、為せる技と言うことか……


「仕方ねぇ、もう出し惜しみせずに行くぜ!」


 カルロが今度は連続で斬撃を飛ばしてくる。

 

 ……これは少し厳しいな


 先程までの攻撃とは違い、一直線に飛んでくるから後ろに避けるという選択肢が使えない。

 俺は飛んでくる斬撃を精一杯上下左右に動いて躱していく。


「マジかよ、あれを躱してるだと?」

「あの動き……本当にスキル持ってねえのか?……」


 俺は向かって来る斬撃に全神経を集中させ、ただひたすら躱す。

 だがやはりすべて避け切るのは難しく、少しずつだが掠り始め、頬や体に線のような傷が刻まれていく。


「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」


 そしてそれも躱し続けると、今度は本当にスタミナ切れを起こしたようで、向こうの攻撃が止まる。

 やはりああいう技にはそれなりに体力を要するようだ。


「あの攻撃を躱し切っただと?」

「あいつもやはり相当凄いぞ」


 正直俺自身も驚いている。

 この世界の俺の体は確かに前世よりも遥かに動けているが、以前よりも格段に動けるようになっていた。

 理由は定かではないが考えられるとするならば飯を食ったおかげか。

 やはり、無理してでも食っといてよかった。

 

 ……それにしても、これがスキルの力か。

 確かにこれは脅威だな、こんな人間離れしたことができるとは。

 しかも他にもジェームスの持つ収納スキルみたいな武器スキルとは別のもんのスキルもあるときたもんだ。

 もしかしたらこんなスキルよりも、もっと脅威な物もあるのかもしれない。

 そう考えると無能が劣ると言われるのもわかる。


 ……さて、これでカルロのスキルはある程度堪能できたし、今度はこっちから反撃するとしよう。


 俺は息切れをして動きの止まったカルロに向かって今度はこちらから突っ込む


「クソ、舐めんな!」


 俺が近づくとカルロが斬りかかってくる、相変わらず速いが先程の斬撃よりは避けるのはたやすい、俺は剣を避けると同時にカルロの顔に向かって先ほど拾っておいた小石を投げつける。


「クッ、小賢しい真似を」


 カルロは手で小石を防ぐ、だが、その一瞬にできた隙の間に俺はカルロの懐へと飛び込み、そしてカルロの手首を掴む。


「捕まえた。」

「な⁉」


 手首をがっちり固定し、続けて掴んだ手をそのまま自分の方に引っ張りカルロを引き込むと、カルロの顔に向かって頭突きをかます。


「ぐわっ!」


 頭突きを受けたカルロの鼻から血が噴き出す、俺はそのまま手を離さず二度、三度と同じように顔に頭突きを入れる。


「がっ、ぐっ」


 そして手を離すと、カルロは鼻を抑えながら後ろへとよろける、俺は更に追撃としてそのまま股間に膝を入れる。


「っ!ー」


 カルロが悶絶しながら声にならない悲鳴を上げる。

 そして前屈みになったカルロに向かって、足を大きく振りあげた。


「終わりだ。」


 そのままカルロの下がった頭に勢いよくかかとを落とした。


――ガンッ!


 俺の踵が綺麗に脳天に直撃すると、脳に衝撃を受けたカルロは白眼を向けてそのままバタリと倒れ込んだ。

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