14 厨二ポエムを読まれるほどの恥辱

 まさかのおかんの登場に、俺は脈が乱れ飛ぶほど激しく動揺した。


 リーナが俺たちの将来のために子宝の薬草を探しに行こうとしているなんて、おかんに知られたら──



 厨二ポエムを読まれるのと同じくらいの恥辱に値するっ!!!




「おっ、おかんっ! 店にいたガラの悪い連中はどうしたんだよ!? あんな奴らの中に酔いつぶれたレンを置いていったらどうなるかわかんないだろ? 下見は俺達に任せて、おかんはレンの傍にいた方がいいんじゃないのか!?」


「ほお……ユウ君がそない饒舌にもっともらしいこと並べるのは、おかあちゃんに都合悪いこと隠しとる時やね」


 げっ、バレてる!!


「いやっ、何も隠してなんかないって! ほんとにただの下見だよ! な、リーナ!?」


「まあ、下見というか、下準備というか──」


 口裏を合わせてもらおうと、必死にリーナに目配せするが、照れるリーナはむしろ俺から目を逸らし、赤い顔して体をくねらせている。


 下準備って何だよ!?

 子づくりの下準備って言いたいのかよ!?

 そんなデンジャラスワード、おかんの前で絶対言っちゃダメだ!!


「レンちゃんなら心配いらん。腕っぷしの強い子らが、肩担いで宿屋へ連れてってくれてん。御者さんも馬車で帰りはったし、おかあちゃんも暇やし一緒に下見に行くわ」


「ちょ、おかんがそんなに張り切ることないって! それならいっそ今日の下見はやめて、俺達も宿屋に向かおう。な、リーナ!」


 リーナと二人で子宝の薬草を探すのだって、めちゃくちゃ照れ臭くてどうしようかと思っていたのに、その上おかんまで一緒に探すなんてことになったら、気まずさがハンパねぇ!


 リーナだって、恥ずかしいから初めは一人で探そうとしてたんだし、おかんが同行するのは嫌だよな? なっ!?


「ユウト、なぜそんなことを言う? 私達にとって、ククシーはとても大切な薬草じゃないか」


「……って、うぉいぃっ!! 少しは俺の気まずさを察してくれよ!!」


「気まずいやて? ユウ君、あんたやっぱりおかあちゃんに何や隠しとることあるんやな!? 親に隠し事はあかんでー」


「小学生じゃあるまいし、普通は親に隠し事くらいあるだろ!? 頼むからそこを突っ込まないでくれよ!」


 俺の気まずさをまるで察してくれない二人に疲れ、ついにはおかんに懇願する羽目になってしまった。


「ふうん……。そない言うならしゃあないな。何や知らんけど、そのククシーちゅう草のことはそれ以上突っ込まんといたるさかい、おかあちゃんも連れてってや!」


「オカンさんがついて来てくれるのは、私としても心強い。オカンさんの強運でなんだかすぐに見つかりそうな気がしてくるな、ユウト!」


 子宝の薬草を探す気満々のリーナと、よく分からんが何だか面白そうだと首を突っ込むおかん。

 張り切る二人に挟まれるようにして、俺は渋々ドゥブルフツカの谷へと向かった。


 ☆


「ところでリーナ、ククシーがどんな見た目で、どこに生えてるのかって知ってるのか?」


 馬の通れそうな平坦な道が途切れ、草を踏みしめただけの道に差し掛かるところで、俺は先頭を歩くリーナにそう尋ねた。


「いや、わからない。この谷は多くの観光客が訪れる場所だから、散策路に掲示された案内図を見ればわかるかと思ったんだが……」


 そう言うリーナの目の前に、それらしき案内看板が立っている。

 リーナはそこに描かれたマップと文字を人差し指で丁寧に追っていたが、ため息を吐いて首を横に振った。


「残念ながら、ここにククシーの情報は書かれていない。やはり、子だか──」


「じゃあさっ! やっぱり今日のところは引き返して、村の人から詳しい情報を得た方がいいんじゃないか? 谷は広いんだし、あてもなく探してたら、すぐに日が落ちて吸血コウモリの活動時間になっちまう」


 リーナが ”子宝“ と言うデンジャラスワードを出そうとした瞬間、俺は大声でそれを遮りそう提案した。


 ただ単純に誤魔化そうとしただけじゃない。

 事前に得た情報では、吸血コウモリが最も活発に動き回るのは日没前後。

 フルーツ狩りに夢中になり、帰るのが遅くなった観光客が襲われるパターンが多いらしい。

 大群に襲われては面倒なので、明日遂行予定のクエストでは、吸血コウモリの眠る昼間に奴らの巣を襲撃し、一網打尽にする作戦なのだ。

 今無理をして、目を覚ました奴らに襲われてはたまったもんじゃない。


「しかし、明日はクエストの実行が最優先事項であって、ククシーを探す時間が取れるかどうかはわからない。せっかくここまで来たのだから、駄目元で探してみたい気もするが……」


 思ったよりも諦めの悪いリーナが、情報を見落としてはいまいかと地図を食い入るように眺めている。


 俺としては、ククシーの何たるかをおかんに知られる前に、ククシー探しをリーナに諦めさせたいんだけどな……。


 しかし、俺のそんな目論見は、やはりおかんの一言で粉砕された。


「リーナちゃん、薬草なら、この本に情報が載っとるんちゃう? 草の絵がぎょうさん描かれとるページがあるさかい、読めば何やわかるかもしれんで」


 そう言うおかんが差し出したのは、あの分厚い賢者の本。

『家事が断然ラクになる! 主婦の知っ得スゴ技&裏ワザ大百科』だった。

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