第5話 正体

ロゼリー王国の王宮。


「失礼します!」

「王の御前であるぞ!何事か!」

「申し訳ございません!緊急事態でございます!」


突如王の執務室の扉を勢いよく開けて飛び込んできた兵士。怪我などがあるわけではないがかなり荒い息をしており、いくら礼儀に厳しい宰相のマグナでもいやでも非常事態と分かる。


「ふむ…。身だしなみも整えず飛び込んできて儂の仕事に割り込んでくるような内容の報告なのだな?」

「も…申し訳ありません!この無礼のお詫びはこの命で以てでも償わせていただきます!」

「それほどの覚悟…。よい。面を上げてゆっくり話せ。息を整えてからでもよいぞ」


先程まで机上の書面から目すら離さなかった国王が興味深げに飛び込んできた兵士を見る。

兵士は王の言葉の通り数秒間息を整えると話し始めた。


「ではまず結論からお話します。東の平原の奥、封印の地の『ウェッジ』が何者かによって討たれ、彼の地に封印されていた魔王軍の魔物が復活致しました」

「ッッッ!!」


横で聞いていた宰相が大きく動揺し声を上げる。


「馬鹿なッ!あそこのユニコーン型の『ウェッジ』が討たれる?そんな馬鹿なことがあってたまるか!貴様の見間違いかなにかだろう!」

「待て、お主はその討たれるところを見たのか?」

「陛下!そのような者の戯言なぞを!」

「はあ…少しは考えろ。ここで嘘を吐く理由がなかろう…」


マグナは少し頭が固いところがある。もう少し柔軟に物事を考えられるようになると文句無いのだが…と王は思う。


「はっ!恐れながら申し上げます!私が彼の地の見張りの当番の折です。陛下より賜りました『望遠の魔道具』にて『ウェッジ』を見張っておりましたところ『ウェッジ』の頭部が弾け、その直後に雷鳴のような音が轟きました。また、封印の地の奥に6名ほどの男女の姿が確認できました!失礼ながら、こちらがその時の映像にございます」


そう言って彼は兵士服の内側から魔道具を取り出し、部屋の壁に向ける。


「それはなんだ?」


見たことのない魔道具に宰相が困惑し声をかける。


「これは『記録の魔道具』というものだそうです。騎士団長がダンジョンで発見し、見張りの負担を軽減するために見張りの任のときに使うように指示されました。万が一見落としがあったとしても数分間の映像を記録しておいて確認できるもの――と申しておりました」

「―そんな魔道具が。聞いていないぞ」

「騎士団長曰く、『マグナの奴に知らせたら私物化するか解析に回すに違いない。何が何でも奴には言うなよ』とのことです」

「あんの脳筋バカめ――」

「その辺にせんか馬鹿もんが!ほれ、映像とやらを見せてみろ」

「はっ!失礼します」


地団駄を踏んでいる宰相を横目に魔道具を起動し部屋の壁に先ほどの映像を投影する。

そこには、シノンがへカートⅡで『ウェッジ』を倒し、魔物が大量に湧き出てきたところが映されていた。


「…倒される前から既に封印した魔物の瘴気にやられて半分魔物化しておるではないか。これなら早めに倒しておかないとより面倒なことになっていたやも知れぬな」


そう。彼の知っている『ウェッジ』は純白で輝く角を持った美しいユニコーンの形をしていたはず。それが映像では漆黒に染まっている。


「魔物共の動きは?」

「申し訳ありませんが魔物の復活を確認してすぐに報告に参りましたので詳細は…。ただ、すぐにこちらに進軍を開始していたとなると城壁に到達するのは長く見積もって20分後くらいかと…」

「ふむ…。ではお主は騎士団長のところに戻って掃討の準備をするように伝えろ。儂は今からギルドへの討伐参加依頼書を書く。マグナよ、お前が直接ギルドに届けてくれ」

「はっ」

「承知しました」


「陛下!!ご報告が!」


兵士が扉を開け、外に出てゆく―――直前で重厚な扉が勢いよく内側に開かれ、兵士は強かに顔を打った。

その扉から入ってきたのは、騎士団長のガウェイン。


「ん?ああロビンか、すまんな」

「何事だガウェイン?まあいい、今すぐ例の魔物の軍勢の掃討の準備を開始しろ。報告なら後で聞くから、魔物を殲滅するのを優先してくれ」

「い、いえ失礼ながら陛下、実はその掃討の必要がなくなったと報告しに来たのです」


その報告に、執務室は一瞬で静寂に包まれる。


「…どういうことだ?まさか先ほどの報告は虚偽であったと…?」

「いえ!とんでもない!彼は本当のことを言っています。ですが…」


「「ですが?」」


「何者かによって魔物が一匹残らず殲滅されたので我が軍が魔物掃討に打って出る必要はなくなりました」


「「「え?」」」

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