人外小噺~消えない絆~

璃蘭

1 ドリアード少女と人間少年

自分の住んでいるところは、近くに深い森がある。元々森の一部を切り崩して作られた町だけど、これ以上開発が何年も進まないのも妙な話だ。ある日、その秘密を探るべく森の中に入った。

やがて、進んでいくと少し開けた場所に出た。まるで木々に囲まれているのが誰かに見られているような心地もして、少し落ち着かない。と、そこに1人の少女がどこからともなく現れた。その風貌は妖精に近い。

「人間さん、私達の眷族にならない?」

突然の誘いだった。少女はドリアードと呼ばれる種族で、眷属になると永い時を一緒に生きることができるらしい。

「魅力的な相談だけど、自分は遠慮するよ。短い人の世を終えたら考えようかな」

「それは残念。ならせめて、お話を聞かせて」

好奇心旺盛、といった様子で少女が待っている。自分はこの町の話や、自分自身の話をすることにした。


気がつけば、外は橙色に染まり始めていた。そろそろ帰らなければ。

「もう帰ってしまうの?また来てね」

少女は森のふもとまで見送ってくれた。


それからというもの、ちょくちょく自分はその森へ…というより、少女に会いに行った。この森が生まれた時の話、そしてこの町ができた時の話。色々聞かせてくれた。どうやら開発がこれ以上進まないのは、ドリアードと共に交わした約束が関係しているようだ。

「これ以上、人間に森を奪わせない」

そう言った少女を、自分はどこか恐ろしく感じた。


それから何年も経ったある日、更に森を崩して町の開発が始まる、という話を耳にした。町長はこれに反対し、開発側と揉めているようだ。自分達も抗議に参加したもののあまり効果はなく、開発側は森に立ち入り調査を始めた。あの子を心配に思いつつ、無事を祈るしかなかった。


ところが、開発側は誰一人帰って来ることがなく、むしろ森の木が少し増えたような、という噂が広がる。少し嫌な予感がしつつ、ようやく許可された森へ立ち入った。


いつもの開けた場所で待っていると、少女が現れた、とても嬉しそうに。

「この間、たくさんの眷族ができたの。おかげで、森も壊されずに済んだの」

少女は木の幹を撫でながら言う。

「あなたは、まだ眷族にならない?ずっと一緒にいられるのに」

「うん、自分はまだやりたいことがあるんだ」

「…それなら、無理に眷族にしても幸せになれないね。…いつでも待ってる」

ちょっと悲しそうにそう言う少女。それでも、人の一生はドリアードのそれに比べて遥かに短い。きっと、彼女にとってはそこまで待たせる事もなく、共に添える時が来るだろう。

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