悪魔の手で異世界転生した俺は、妹のために戦争を起こそうと思う。

榊優

第1章プロローグ

第1話俺はその日、人生で最も大切なものを失った

水野宏樹、18歳。

高身長で、スタイルはよく、顔も美しく整っている。

運動は出来、頭も良く、リーダーシップが有り、性格もいい。

何をとっても非のない完璧超人。

それが俺の肩書きだった。

だが、それは全て無意味だ。

ただ周りが求めるものを淡々とやってきた結果に過ぎない。

本当の俺は空っぽだ。

そう。

彼女の前に居るときを除いては。


「お兄ちゃん。また来てくれたんだ。本当に毎日来てくれるよね。今日はバレンタインデーでしょ。デートの用事とかないの?」

病院のベットから俺に優しく話しかけるのは俺の最愛の妹舞だ。

早くに両親をなくした俺にとっては唯一の家族である。


「ないな。俺はもてないんだ。女心が分からないらしい。」


すると舞は楽しそうに笑って言った。

「嘘だー。絶対お兄ちゃんを好きな子は多いよ。こういう人に興味がなさそうなイケメンに女はすぐ騙されるんだから。チョコは幾つもらったの?」


「1個だけだ。義理チョコだろうけどな。お前にやるよ」

嘘だ。

チョコは数え切れないほど渡されたが、全て断った。

これは、俺が舞のために買ったチョコである。

舞はチョコが大好物なのだ。


舞はチョコを見ると寂しそうに言った。

「これはお兄ちゃんが食べなよ。私はもうチョコも食べちゃいけないらしい。」


「舞」

俺は静かに拳を握り締めた。

どうしてだろう。

どうして空っぽな自分が健康でこいつは病で立つ事すらできないんだ。

神様が居るなら言いたい。

どうか舞の苦しみを全て俺に与えてくれと。


すると舞はまるで自らに言い聞かせるように言った。

「あーあ。つまんないな。早く元気になりたいよ。それでお兄ちゃんと一緒に一杯悪さするんだ。色んなところに言って、色んな女の子を泣かせるカッコいい大人になるの。」


俺は舞の言葉に思わず笑ってしまった。

舞は凄い。

俺と違って、こんな状況でも前を見て生きている。

そんな舞ならきっとどんな困難にも打ち勝てるはずだ。

「舞。いつも思うがお前のその願望はどうなんだ?お前は女の子だろ。」


舞は笑って言った。

「えー。夢の中くらい自由にさせてよ。私はね。お兄ちゃんの横に並びたいの。お兄ちゃんに愛し守られるわけじゃない。お兄ちゃんが背中を預けられる仲間になりたいんだよ。」


これが俺と舞がかわした最後の言葉だった。

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