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 いつもより濃い灰色の空の下を、完成したばかりのエア・ローダーがけたたましく飛んできた。電気でブレードが回転する音と比べて、明らかにうるさいジェット・エンジンの音。だけれど、なぜか心地良い。否、高揚する、胸が高鳴る、ワクワクする、ドキドキする。あの分厚い灰色の雲を突き抜けて、真っ赤な空に到達する場面をずっと想像していた。その場面に、ジェット・エンジンの高らかな音が加わり、とうとう現実になる。


 ニュークの『気持ち』も、こんな気持ちだったのだろうか。


「おうおうおう! 芸術的なサウンド! やっぱニュークの考えたモンは違うな!」


 隣にいるアルコルフが叫んだ。いつもなら、うるさいと感じる彼の声も、今は、ジェット・エンジンの音で6割くらい相殺されている。それでようやく丁度いい。ああそうか、アルコルフの背中にジェット・エンジンを付けておけば良かったのか。そしてそのまま天空にテイクオフすれば、残るのは素晴らしい静謐。アルコルフはルーリと仲良くランデブーできて、一石二鳥だろう。もしかしたらルーリに迎撃されるかもしれないけれど。


 僕とアルコルフの後ろに、リーディーとシルフ。エア・ローダーは、僕ら4人から少し離れた場所に垂直着陸した。エア・ローダーが吹き出す風が、僕らの場所まで届く。ニオイはまったくしない。リーディーの言ったとおり、とてもクリーンな排気のようだ。


「テスト飛行による最終チェックも問題ありませんでした。ケイスケ、シルフ、リーディー、アルコルフの擬似ウェイトを乗せた飛行でしたので、安心して空の旅を楽しんでくださいね。ちなみに、シルフが話していたとおり、機体トラブル以外の原因による最悪の状況がいくつか想定されていますので、最終危機回避行動については、リィちゃんに先導をお願いしてあります。リィちゃん、どうかよろしくお願いしますね」


 後ろからグガワの声が聞こえてきた。シルフの外部スピーカー機能である。相変わらずのグガワの情報量だけれど、こういう『命を預ける場面』で聞くグガワの説明というのは、とても安心できるのだな、と感じた。初めてのことである。


「おっけーグゥちゃん。でもでも、今日はもう、ケイスケを寝坊させないっていう最終危機回避行動を実行済みだから、ほぼ任務完了だね」


 笑顔のリーディーが、僕を見ながら言った。そうなのだ。今日はリーディーが僕を起こしてくれた。非常に珍しいことだけれど、もしかして、グガワが『こういう説明』をすると予想して、予め僕を起こしていたのだろうか? だとすれば、ずいぶん手の込んだジョークだ。


「ねえもしかして、そのジョークを言うために、今日僕を起こしたの?」


 絶対に笑ってやるもんか、と思いながらリーディーに言ったけれど、『真顔からの高速あっちょんぶりけ』をリーディーに披露されてしまい、為す術なく吹き出してしまった。

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