第7話 ゲームを始めよう

 ポケニャンランとは、3年ほど前に世界的に大流行したアプリゲーム。

 スマホやタブレットの位置情報機能を利用し、街に潜むキモかわいい妖怪のポケニャンたちを集め、強化し、友達とギルドを作って連携プレーしたり対戦させたりもできる。

 公園とか公共施設にちょいちょい特別なスポットがあって、そこに行くと珍しいポケニャンを捕まえられたり、アイテムをもらえるとあって、スマホ片手にポケニャンを求めて徘徊する人が3年前は大勢いた。

 最近はブームは落ち着いてきているが、ゲームしながら散歩もできるという面もあり、中高年中心に根強いファン層がいる……って感じ良いのかな。


 なお、ポケニャン自体は20年以上前からアニメ放送もされている日本を代表するゲームだ。

 俺も子供の頃に白黒のゲームボーズ版を親父に買ってもらったが、少し放って置いたら、主人公の名前が「さつま」から「こうたろう」に変わっていて、データ全部飛んでて、「こうたろう」とかいうおっさん(つまり親父)が知らん冒険をしていたのがトラウマだ。


「やってみたい! これでもできるか?」


 俺の説明を一通り聞くと、サツマ様はおじいちゃん仕様のガラケーを取り出した。


「ガラケーだと無理だな。スマホかタブレットが必要だ」


「タブレットならミンティア持ってるぞ」


「食いもんじゃなくて、でかいスマホみたいなの。今のボケわざとだろ。あざといぞ」


「てへっ」


 こーわーいー。ぶりっこ気持ち悪いからやめてー。自分と似たような顔ってのもまた不気味だよね。


「……そっか、できないのか。じゃあ、眼鏡のスマホ貸せよ」


「やだよ。俺使うもん」


「じゃあスマホかタブレット買え」


「何で命令口調? 俺もしかして恐喝されてるの? お前自分で働いてるんだから自分の金で買えよ。安いのならそんなしないぞ」


「金がもったいない」


「結構クズだよな、お前」


「育った環境が違うから人格に差異はあるが、基本形は貴様と同じだからな。遺伝子的にクズだしキモいのだろう」


 嫌な遺伝子だな、それ。


 サツマ様はまだ名残惜しそうに、公園のポケニャントレーナーたちを横目にしていたが、俺は構わず歩みを進めた。

 サツマ様もいそいそとついてくる。


 これでポケニャンランの話は終わりだと思っていた。


 数日後、サツマ様が電気屋の紙袋を大事そうに抱えて持って帰ってくるまでは。


「タブレット買った! ポケニャンランやろう! 眼鏡もダウンロードしろ」


 買うほどやりたかったのかよ!

 相変わらず偉そうな元近衛師団長に指示されるまま、俺は3年前に飽きて削除したアプリを再びスマホにダウンロードする羽目になった。


「ユーザーネームは『闇の騎士サツマ』にしよう」


「後々後悔するからやめとけ。普通な当たり障りないのにしとけ」


 何はともあれ、ちょっと(大分?)うざいけど、ルサンチマン王国から追い出されて以来、キノコ化したり迷走はしつつも元気のなかったサツマ様がとても楽しそうなのは良いことだと感じた。

 この調子でボニー様のことも吹っ切れると良いんだけど。

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