第2話 あにいも

 翌日、静玉地検川岸支部前で車に乗り込んだマイスイートシスターは、開口一番不服そうに畳みかけた。

 今日もツンデレかわいい。


「前から言ってるけど、私お兄ちゃんと違って暇じゃないの。めっちゃ忙しいの。気軽に呼び出すのやめてくんない」


「だから今回は車で迎えに来たし、夕飯も寿司取ったよ。俺も明日仕事だし、長い時間は取らせないから、ね?」


「お兄ちゃんち臭いからやだ。行きたくない」


「最近は臭くないよ。サツマ様がちゃんと掃除してくれてるし」


 うげっ、とツルガちゃんはおっさんみたくうめいた。


「お兄ちゃんまだあの気持ち悪いドッペルゲンガーと暮らしてるの? そうだ! この前私が出張行ってる隙に実家にあいつ連れ込んだでしょ? やめてよ本当に」


「みんな喜んでただろ? 俺が帰るよりよく働くみたいだし、素直だし、良いんじゃね?」


「最低」


 車の中で唾吐かないで。でもツルガちゃんならいっか。


「大体さ、ツルガちゃんサツマ様とちゃんと話したことないじゃん。ジャス◯で1回見ただけでしょ? 最近あいつもかなりマシな見た目になったから、今日をきっかけに、俺は2人に仲良くなってもらいたいなあって思うわけよ」


「はあ? やだ。仕事以外でおかしな人と関わりあいになりたくない。ねえ、やっぱ降ろして。帰りたい」


「待って、待って! 今日は恋愛シミュレーションゲーム歴10年のツルガちゃんのキャリアを見込んでのお願いなんだ!」


「それ褒めてるつもり? やかましいわ、自分だってエロゲー歴18年の癖に!」


 こんな感じで、兄妹仲睦まじく談笑しているうちに、車はサツマ様の待つアパートに到着した。


 文句たらたらのツルガちゃんを伴い、インターホンを鳴らすと、俺の中学時代の芋ジャージ姿のサツマ様が出迎えてくれた。

 うん、打ち合わせ通りまともそうに装ってくれてる。

 よく頑張った。


 十分な間合いを取ろうと、俺の後ろに隠れて様子を伺っていたマイスイートシスターが息を呑む気配がして、心の中でガッツポーズをした。


「はじめまして。サツマ・シラナミです。喫茶店で働いてます」


「は、はじめまして。白波ツルガです。検事やってます」


 ややたどたどしいサツマ様の自己紹介に、ツルガちゃんもぎこちなく答える。


 ようし、第一関門は突破と安心して、家の中に入ろうとしたら、後ろから上着の背中を乱暴にひっつかまれた。

 うーん、アグレッシブ。でもそこもいい。


「ツルガちゃん? どしたの?」


 小声で尋ねると、ツルガちゃんは眉間に深い皺を刻んだ超絶不機嫌顔でささやいた。


「どしたのじゃない! 何アレ? 確かに前より一見まともそうになってる!」


 俺はしたり顔で返す。


「ふふふ、あいつはもうヤンデレサイコキモロン毛は卒業したんだ。今はピュアでキュートな愛されきのこを目指して日々かわいいを研究している。ツルガちゃんもそのかわいさの秘訣を教えてやってくれよな」


 世界一かわいい妹は、苦虫を1ダース一気に噛み潰したみたいな顔で呟いた。


「……キモっ!」

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