第3話 薩摩のお願い

 ルサンチマン王国で暮らす俺の本当の妹のツルガとは、両親同様絶縁状態であった。

 最後に会ったのは、ツルガ13歳とかだったので、今どんな大人になっているのか見当がつかない。

 ただ、大人しくてあまり話さない娘だったので、根本はそう大きく変化はしていないと思う。


 こっちの世界のツルガも、人見知りなのかずっと眼鏡の後ろに隠れるようにしている。


「こっちのツルガも内気なんだな。やっと俺のあっちの家族との共通点を見つけられた気がする」


「え? この子のどこが内気なのさ。単にお前のにじみ出るヤンデレ臭に警戒してるだけだから」


 言ったそばから、パアンといい音を立てて眼鏡の後頭部をツルガが引っ叩いた。


「バッカ! 何で言っちゃうのよ。刺激するようなこと言うんじゃない!」


「平気だって。むしろこいつには、本当のこと言ってあげた方がいいの。まともになろうって努力してるんだから」


「いや、無理でしょ。外見は前よりかなりマシになったけど、何か雰囲気が嫌。怖い。帰りたい」


「おいおい、ツルガちゃん。本音が漏れてる……」


 どうやら俺はこの世界のツルガに非常に嫌われているようだった。

 一方的に目撃はされていたようだが、きちんと顔を合わせて話すのは初めてなのに。

 雰囲気が嫌って、どうすれば良いのだ。

 悲しい。


「で、お兄ちゃんはどうして今日私を呼んだの。明日も仕事あるし、早く帰りたいんだけど」


 ちゃっかり、もりもりとテーブルの上の寿司を頬張りながら、ツルガは眼鏡の脇腹を突いた。


「いでっ! ああごめんね。いやね、ここにいるサツマ様はね、15年も一方的に片想いしていた女性に、最近はっきり拒絶されちゃって傷心なのさ。ロン毛やめたのもそのせいなんだけど、やっぱ諦めきれないというか、少し時間が経ったら、やっぱいけんじゃね? って気がぶり返してきたみたいでさ」


「それただのストーカー。止めなさいよ、刑事なら」


「もちろん俺も刑事として言うべきことは言ったよ。だけどさ、双子的な存在としては一歩踏み込んだケアをしてあげたくて」


 寿司を掴む手を止めて、ツルガは眼鏡を見上げた。


「この辺の異常な性的嗜好を治す病院なら、お兄ちゃんの方が詳しいんじゃない? 私転勤族だし」


 俺を病院送りにするつもりだったのかと身構えたが、眼鏡は首を横にした。


「そうじゃなくて。まあ最終手段は病院だけどさ、ほら昔の恋を忘れるには新しい恋って言うじゃん」


「私の友達誰も紹介しないよ。冗談じゃない。みんないい子だし、大事な友達だもの」


「うん、友達紹介はしなくていい。俺にならお願いしたいけど」


「お兄ちゃんもやだ。友達がかわいそう。で、何して欲しいのよ」


 眼鏡はやたら得意げに答えた。


「恋愛シミュレーションゲームマスターのツルガちゃんとして、こいつにいいゲーム紹介してやってくんない? 現実の女なんかカスに見えるようになるくらいハマれるギャルゲーで健全なやつ。俺、エロゲー専門だから健全なのわからなくて」


 想像以上に頭の悪い頼みに、ツルガも俺も頭を抱えた。


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