第9話 所持品検査

 全額45万ヤプー一括請求してやりたいところだけど、今日は10万ヤプーで勘弁してやると眼鏡は言った。


 食パンの時価なんて知ってどうするのかと思ったが、奴はそれを元に日本とルサンチマン王国のレート換算をした。

 そして、今まで向こうで眼鏡が俺にかけた金額の返還を求めてきたのだ。


「おい、近衛師団長様なら良い給料もらってたんだろ? お前の性格だ。当然貯蓄もたっぷりあるに違いない。俺はずっと金欠でも、踏み倒される可能性あってもお前に小遣い渡してきたんだ。分かってんだろ?」


「いや、急に言われても10万ヤプーはそれなりに高額だぞ。すぐには出せない」


「なら銀行行け。ねえ、ポケットのもの出してよ。今の手持ち教えて」


 こいつは本当に警察官なのか? かつあげのやり方が悪質だ。


「ねえ、財布は? ポケットに入れてる小銭も全部出せよ」


「ポケットに直に小銭を入れるわけないだろ。おっさんか」


「念のためだよ。あ、あと通帳持ってたら出して」


 こいつ、しゃぶり尽くせるだけしゃぶり尽くす気だ。

 抵抗して懐具合をぐちゃぐちゃに探られ、貯め込んでるのを知られるのは嫌だったので、、俺は渋々財布から1万ヤプー札を10枚出して渡した。

 受け取った眼鏡は世にも浅ましい表情で歓声を上げた。


「ウッヒョオw たまに金持ちの中に財布に高額の現金入れてる人っているんだけど、お前もそっち側の人間か。ねえ、クレジットカードとかないの?」


「ない。クレジット決済なんてルサンチマン王国の技術では無理だ」


「だよねー。まあ、あったところで俺が使ったら詐欺になっちゃうけど」


 札束をポケットに突っ込みながら、眼鏡は軽口を叩く。

 浅ましくて下衆で小者じみてて、とても見苦しい。俺と同じ顔でやめてほしい。特に、俺自身に権威のあるルサンチマン王国では。


「あのさ、朝飯食わしてよ。そしたらちょっくら散歩行くから。元いた世界に戻る手がかり探す」


「散歩って、お主はこの世界に無案内だろ。夕方になったら俺も時間が空くから、その時まで待て」


 せっかくつきやってやると申し出たのに、腹立たしいドヤ顔で眼鏡は固辞した。気持ち悪い。


「いや、俺が考えた世界そっくりなんだから、一人で大丈夫だ。昼に出た方が長く探索できるし。この世界じゃ、俺はさながら創造主様だからね」


 神様どうか、このクソ眼鏡を死なない程度に黙らせる道具を俺にください。


 何はともあれ、俺も朝飯はまだだったので、メイドに頼み、朝食を2人分準備させた。

 眼鏡は意地汚く早食いをし、さらに食後は便所を占領した。

 眼鏡の出た後の、ほんのり臭う便所がさらに怒りを増幅させた。

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