第3話 土台は同じなのに

 サツマ様の服の趣味が、基本的に俺の厨二時代と似通っていたせいで、当分暮らせる分の衣類を買うのには予想以上の難航を極めた。


 靴売り場で普段使いのスニーカー2足と就活用の革靴を1足書い終えた頃には、俺の体力もお財布も限界だった。


 あーあー、早く自立、せめて家に金入れられるくらいには働けるようになって欲しい。

 ルサンチマン王国にお帰りいただけるのがお互いベストなんだけど、何となくそう簡単にはいかない予感がしていた。


 疲れたし、昼時で腹も減り始めたので、フードコートのハンバーガー屋でハンバーガーを買ってから、俺たちは一度車に戻った。

 狭い車内に、瞬く間に肉やポテトの匂いが充満する。


「どうしてふーどこーとで食べないんだ? 席空いてたぞ」


「あそこは子連れファミリーの陣地だ。俺らと同年代、いやむしろ若いくらいなのに、すでに大家族の父親にやった奴らが一族郎党で繰り出してくる恐ろしい場所だ。俺らみたいな独身には危険すぎる。ガキの奇声や泣き声、その親の怒鳴り声が飛び交い、悪ガキが通路を走り回る空間で落ち着いて飯食えるか? 死にたくなるだけだぞ」


 ただ、仮に俺が所帯持ちでも、あの空間は多分苦手なままな気もする。

 俺と結婚できる女なんて、俺と同じ陰の者だろうし、そんな夫婦の間に生まれた子供が明るく元気に育つ気もしない。

 アダムスファミリーみたいな陰気な家族として、日陰で生きるのが精一杯だろう。

 ぼんやりと未来の白波ファミリーに想いを馳せていると、素でアダムスファミリーに出演出来そうな異世界人がデリカシーのない質問をしてきた。


「眼鏡は何で結婚してないのか?」


 うるせー。余計なお世話だ。


「モテないからじゃね」


 投げやりな返答にも、空気の読めない近衛師団長殿はめげないで続ける。


「お主はファッションが良くないのじゃないか? 土台は俺と同じなんだし、モテないはずがない。眼鏡をやめて、何の個性もない服装とボサボサの中途半端な短髪をやめて、俺のような長髪にすればきっとモテるはずだ」


 30過ぎて黒歴史を更新する気はないので、絶対やらない。


「やだよ。こっちではそれじゃ余計モテない。つーか、お前ボニー様一筋なのにモテてたの? 片手間に遊んでたの?」


 サツマ様は頬を染めて俯き、首を横にした。


「城の侍女たちに憧れられて、よくプレゼントなどをもらっていたから、モテてはいたと思う。俺はボニー様一筋なのでどれも断ってた」


 近衛師団長って確かにモテそうな肩書だけど、マジでモテてたんだ。

 意外と馬鹿なのは純粋でかわいい。

 闇が深い感じはミステリアスで素敵ってなってたのかな。

 うらやましいな、畜生。


「もったいねえ。一人ぐらい試しに付き合ってみれば良かったのに」


「そんなことより、食べ終わったら本屋に行って良いか? 料理の本を見たい」


 無理くり話題変えやがった。

 まあ、俺も続けたい話題ではないので、目を瞑ろう。


「イオ◯は何でも売っている。異世界への帰り方が書いてある本もあるかもしれない」


 それはないんじゃないかな。昨今の出版業界のブームからして、異世界に行く小説は星の数程あるけど、異世界から来る系もだし、異世界から帰ってくる系は少数派だ。

 大体の話は冴えない現代日本人が異世界に転生して向こうで活躍して、帰ってこない。


 せっかく異世界転移(転生?)したのに、チートもせず、モテもせず、世間知らずのニート状態に甘んじているのは、改めて考えると気の毒だな。


 サツマ様の場合、機会を生かせていたかは微妙だが、あっちの世界にいた頃の方が、むしろチートでモテてた疑惑がある。


 チーズバーガーをもしゃもしゃと咀嚼する横顔を盗み見た。

 何も考えてなさそうなのに、ふとした瞬間、拭い去れぬ暗い影を感じさせられる。


 長く一緒に暮らすことになるなら、ルサンチマン王国から転移(転生?)してきた謎を解明しようとするなら、いずれはこいつの闇にも触れなきゃいけない日が来る、そんな予感がした。


 ま、今はその時じゃないけどね⭐︎

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