第8話 変態を追え!

 次はサツマ2号改め自称サツマ様のターンと思った読者諸君。君たちは裏切られた。


 引き続き俺、眼鏡刑事の白波薩摩のターンだ。


 俺たちの住む川岸市はこれといった特徴のない典型的な過疎気味の田舎街である。

 静玉県自体がぱっとしない都道府県魅力度ランキングの下位常連県であるが、その中でも川岸市は他地域の静玉県民からすら、どこにあるのか分からない、行ったことないなんて言われるような正真正銘の地味地帯だ。


 そんな川岸市全域を管轄するのが、俺の勤務する静玉県警察川岸警察署だ。

 地味過ぎて人口も少ないせいか、県内でも凶悪事件の発生件数は10年連続トップの平和な所轄署の刑事課の片隅に俺が所属する特別捜査係がある。


 係と言っても、俺と係長で警部補の御手洗みたらいさんしかいない。

 御手洗係長は昔は本部の公安にいて、テロリストのアジトに潜入してたとか、いやいや捜査一課にいて、静玉県史どころか平成犯罪史に残る『狸穴村連続殺人事件』を解決に導いた名刑事だとか、噂の尽きない人だが、俺は全部デマだと思ってる。


 何故なら、御手洗係長は本当にただの冴えない使えないおじさんなのだ。

 年の頃は50歳前後。

 ガタイは良いけど、動きは緩慢だし、話しかけても反応が鈍い。

 暇な時はずっとガラケー内蔵のパズルゲームを飽きずにやっているし、いかに仕事をサボるかしか考えていないのは半日も一緒にいれば分かる。


 特別捜査係と聞くと、一見窓際だが、どこぞの大人気テレビドラマみたいに、癖の強い名刑事が所属していて……なんて妄想を描く人が多いだろうが、それは妄想です。フィクションです。


 川岸署の特別捜査係はモノホンの窓際刑事の吐き捨て場です。


 特別捜査係固有の仕事はなく、主な仕事は多忙な他の部署のお手伝いだ。

 だから、川岸署管内で発声した事件記録内の再現写真にはかなりの確率で俺か御手洗係長が仮装被疑者や仮装被害者役で登場する。


 他にも検察庁や裁判所へのおつかい。山狩り要員。祭りの警備などなど、人が足りなくなるとすぐに召集される。


 そして現在、特別捜査係は生活安全課が捜査中の連続露出狂事件の応援に入っている。


 被疑者は30歳くらいの痩せたスーツ姿の男。

 ここ数ヶ月、夕方から夜にかけて、部活や塾帰りに公園を通った女子中高生にズボンのチャックを開けて自らの局部を見せつけてくる犯行を繰り返しているそうだ。


 今はまだ公然わいせつで済んでいるが、エスカレートして強制性交等の凶悪犯罪に発展しかねないと、川岸署としては警戒し、被疑者の早期検挙を目指している、という状態だ。


 俺と御手洗係長は交代で川岸市内の公園の張り込みに参加している。

 と言っても、窓際の俺たちに割り振られるのは、未だ被害申告の出ていない、被疑者検挙には繋がらなさそうな場所だけど。


「変態さんはまだ捕まらないよ。今日は白波君、頼んだよ。ま、どうせ隠れてるだけだろうけど」


 サツマ様を我が家に居候させることになってしまった翌朝、一応体調不良で欠勤したことになっているはずの俺に御手洗係長が発した第一声は変態の話だった。


 しかも、デスクで鼻毛を抜きながらだ。

 いくら二人部屋だからって、リラックスし過ぎだろ。


 大丈夫? って言ってくれるなんて期待できる人ではないけど、ゲンナリする。仮病だけど。


「早く捕まると良いですね」


「だねえ。張り込み応援疲れるし。そういや白波君の家の近くの公園も何回か出てるよね、奴が。近隣住民として、何か気づくことない? うまくいったら、普通の刑事に戻れるかもよ」


「ないです。そもそも俺は普通のやる気のある刑事だったことがありません。俺の過去を捏造しないでください」


「若いのにもったいないねえ」


 御手洗係長は、他人の話を聞かず、自分の言いたいことしか言わないため、会話がしばしば噛み合わない。

 もう慣れてるからスルーするけど、ずっと相手してると疲れる。

 一昨日から、安らげるはずの家に帰っても疲れる相手がいるので、係長には今後は少しは自重してもらいたい。


「じゃ、着替えて応援行ってきますね」


 中身のない無駄話を続けるのは、俺も読者も飽きるので、早々に切り上げることにする。


 刑事ポリス白波薩摩、露出狂検挙の任務に出動だ。

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