第22話キヤたちの日常
拠点を手に入れたキヤとサツキ。ハナツキ商会とジャッキの利権で契約を交わし、そこそこの定期的な収入が手に入り始めたころだ。キヤは作業場でモンスター素材をいじくりまわしながら傍で紅茶を飲んでいるサツキを見る
「さてさっちゃん」
「さっちゃん言うな。何よ?」
「なんでしれっと俺たち同居してるの?」
「いつまでもオンディスさんにお世話になるわけにもいかないし、丁度一人暮らししようとしてたら渡りに船だったのよ」
「俺男だよ?」
「そのときはアンタを女の子にしてあげるから大丈夫」
「ヒエッ」
思わず股間をガードするキヤ。実際家事能力がいまいちのキヤは非常に助かっていた。サツキは家でよく自分で弁当を作っていたり、お菓子作りもしていたので料理の腕は確かだ。たまにオンディスの屋敷の使用人たちに呼ばれお菓子を振る舞いに行き、お小遣いを稼いできている
「で、アンタは今何してんの?」
「ん、ボルタさんから貰ったモンスター素材の研究。今この糸っぽいのが個人的にアツいね」
そういうとキヤは木の棒に巻き付けられた少し茶色になった糸を取り出す。ボルタの贈り物なのでどうやらこれも魔物の素材のようだ
「何それ、何の糸?」
「シルキーワームって言ってさ、日本で言うとこのカイコっぽい魔物なんだけど」
「よくわからないわね。いい生地になるとかしか思い浮かばないわよ」
「それもあるけどこの糸、魔力の伝導率が高いみたいでさ。こうやって魔力を流すとスゲーよく動くんよ」
そういうとキヤはシルキーワームの糸を適当に切って机の上に置き、端を指で押さえ魔力を流す。すると糸がまるでのたうつミミズのように動き出した
「うわなにそれキモ」
「辛辣ぅ!!」
「で、それがなんなの?」
「自分である程度自在に動かせるってことはさ、うまくいけば未来のマジックハンドが出来るんだよ?! スゴくね?!」
「蜘蛛男の宿敵の一人に居たわねそんなの」
「ということで作ってみたのがこちらです。デン! 魔動人形(仮)~! やだぁ~上手く出来すぎててウマになったわねぇ~」
キヤが机の上に置いたのはデッサンで使うような球体関節の人形だ。あくまでシルキーワームの糸の性能確認のためなのか、デザインはシンプルで顔もない。
「アンタなにか紹介するときダミ声でしか話せなくなるのなんなの?」
「未来の青狸と動画界のパイオニアと抜け忍だぞ? 抜け忍の方はそう思い込んでる一般男性だけど」
「何言ってるかわかんないけど、知らないわよ? どうなっても」
キヤは人形の頭に人差し指を置くと魔力を流し始める。と、だらりと下がっていた人形の手足がピクリと動き、人形劇のように動き始めた。右手を水平に顎下に持ってきたり、蟹股になり腕を股間の前で逆三角形型に動かしたり、なんとなく『三十五億』と聞こえてきそうなポーズをとったりさせるキヤ
「へぇー、これって自由自在?」
「おうさ! よく出来てるっしょ?」
「……これってさ、義手とか義足にも応用できそうよね」
「んー、できるんでね? 球体関節にすればある程度自由は効くだろうし。やっぱりモンスター素材は最高だぜ! フゥーハハハハー!!」
「その内商品化するの?」
「んー……また一つ再現品作って軍資金手に入れてからになるかなー。あ、この世界って特許とかどうなってんだろ」
「またオンディスさんにアポとっとく?」
「そうねー、そうすっか。あんまりボコボコ再現品作ってたらエラいことになりそうだから小出しにせんとね。むずかしいなぁー」
「というかさ。アンタの技術はスゴいけど、そんなに凝ったモノばっかりじゃなくてカンタンなものも作ってみたら?」
「ほえ?」
唐突な素直なアドバイスに点目になるキヤ。
「さっきの糸ってさ、伝導率高いって言ってたわよね?」
「せやで」
「それって魔石と繋ぐと電線みたいな働きとかするんじゃない? 例えば、火の魔石に繋いで着火火箸みたいなのとか」
「…………」
黙り込むキヤ。
「……ちょっと?」
「おいおいさっちゃん、お前天才かよ!!」
「アンタがバカなだけよ、てかお前言うな」
「じゃあさっちゃんって言うね!」
「私裁縫も得意なの。アンタの口縫いつけるのにどれくらいかかると思う?」
「お姉さん許して~!」
縫い針と太い糸を取り出すサツキ。それを見て逃げるキヤ。今日もここは平和だ
「あ」
「どうしたの? 大人しく口を縫われる覚悟はできた?」
「ここの店の名前、まだ付けてないや」
「…………」
今日も平和だ
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