第2話 モンスター素材のパなさ
次の日。二人はボルタの所有する倉庫へと来ていた。といってもボルタの家のすぐ隣なのだが
「ほぁ~~~!! すげぇ!! もう凄すぎて語彙力のない自分が恨めしい!! すげぇ!!」
「そうじゃろそうじゃろ!! ワシもここまで集めるのはかなり大変だったぞ!」
ツッコミ不在のまま二人のテンションはアガりにアガる。倉庫の中はしっかり整理されておりホコリもほとんどない。大きな棚にはラベルの張られた、魔物の素材の入ったガラス瓶や木箱で溢れている。ここはボルタが暗き森で拾い集めたり、冒険者時代に手に入れた魔物の素材が保管されている倉庫だ。
「ボルタさんこれは?!」
工太が小さめの木箱から摘まみだしたのは縦1センチ、横3センチほどの平たい板のようなものだ。非常に硬く、木材ではなさそうだ。どこかカルシウム質な感じがする
「ウッドゴートの歯じゃ。木の皮を削り食う魔物の一種の歯じゃな。どんな木でも削り食う、その歯はとにかく固い!!ある地方では建材と建材を繋ぐものとしても使われとるらしい」
「ダボみたいなものかな?これは?」
今度は折りたたまれた爬虫類の皮のようなものを取り出す。一見爬虫類の抜け殻のような質感だが重さはかなりあるようで、手に取ったキヤはその重さに取り落としそうになっていた。よく見ればどこか鎖帷子に似ている
「チェーンメイルリザードの皮じゃ。やつらは水棲なのじゃが、皮に空いた小さな穴に空気をため込むことで長時間水中での行動が可能になると言われておる。強度もかなりあるから服のように仕立てて鎧の下に着たりもするぞ」
「なるほど。この干からびたヒモみたいなのは?」
「砂漠に棲むチューブワームと呼ばれる魔物の皮じゃな。保水性が非常に高く、水を含めばとんでもない弾力性を生み出す! どれだけ伸ばしても元に縮むくらいにな! それに加え熱にも強い!」
「夢の素材だ!!」
「問題は……気持ち悪いんじゃよコイツ。大きさはワシが両腕を伸ばしたくらいの大きななんじゃが、それが集団で生活しておる。誰もがそれを忌み嫌う。砂漠の民の罰の一つに、コイツの群れの中に放り込むというものがある。魔物自体は害はないが、その気持ち悪さから発狂待ったなしとか……」
ボルタが隣にある大きなガラス瓶を取り出すと、そこにはミルワームを1,5mほどにまで巨大化させたような見るもおぞましい魔物がとぐろを巻いて入っていた
「うむぅ……こんなにおいしい素材なのに……」
「食うのか?!」
「いえ、有用なのにもったいないですねってことです」
「そうじゃな。じゃが気持ち悪いのと加工がしづらいのも相まって、ワシはコイツが有用に使われとるのをみたことがない」
残念そうに首を振るボルタ。ふとキヤを見るとなにかフルフル震えている。寒いのか? 倉庫は影なのでそれほど寒いわけではないのだが……ふと視線を外した木屋が目ざとく質のよさそうな箱を見つける
「その箱に入っているのはなんです? なんか他よりも厳重に仕舞ってあるみたいですけど」
「ん、これか、こいつはな……」
ボルタが出してきたのは金属製の箱。さらに南京錠で鍵もしてある。どう見ても貴重品が入っているものだ。ボルタはネックレスについていたカギを南京錠に差し込み、開ける。箱の中には色とりどりの綺麗なクリスタルが入っていた
「おぉぉぉぉぉ!! よくわかりませんけどスゴい綺麗ですね!!」
「コレは魔石じゃ。魔法の力が封じ込められた、魔力が結晶化したものじゃよ。お前さんの世界には魔法がないんじゃったか」
「ええ、その変わりに機械工学が発展してますね。ということはコレを使えば火とか水だのが出せるということですか?」
「そうじゃな。魔石に触れ、魔力を流すとそれぞれの効果が得られる。攻撃には使えんが、生活するには十分なモンじゃ」
ボルタは壁にかけていたランタンを下ろし、パカリと開ける。ランタンの真ん中にライトイエローの綺麗なクリスタルが煌々と光を放っていた
「それはもしかして光の魔石、ってヤツですか?」
「そうじゃ。火と違って熱を出さず、魔石に蓄えられた魔力の時間だけ光り続ける。非常に需要の高い魔石じゃな」
「あと需要がありそうなのは火や水とかになるんですかね」
「そうじゃな。火と水と光はどこへ行こうと品薄で、どれだけ小さかろうとかなりの値段がするんじゃ。魔石は消耗品じゃから、一般市民の大きな出費は大体が魔石の購入によるものじゃな」
「はぇ~……それじゃこの魔石は?」
木屋が取り出したのは透明な魔石。魔石にはそれぞれシンボルのようなもの(火なら炎のようなイラスト、水なら雫のようなイラスト)が浮かび上がっていて、さらに形も丸いものがほとんどだ。だが木屋が取り出したソレはグルグルの渦巻のイラストが浮かび上がっており、さらに平べったく円周はデコボコとしている。
「あぁ、それはハズレの魔石じゃよ」
「はずれ? 具体的には?」
「貸してみろ」
木屋が魔石を渡すとボルタは魔石を掌に載せる。そしてわずかに魔石が光ったと思うと、クルクルと魔石が回転しだした
「ホレ、このとおり回るだけの魔石じゃ。色々な形のものがあるが大体は平べったく、フチがデコボコとしておる。そして強度もない。カンタンに穴が開いてしまう。そういうわけで誰も欲しがらんのじゃよ。魔石は鉱石のように鉱脈から産出されるか魔法によって作り出される。魔石の鉱脈は探知術によって探されるんじゃが、コイツも魔石なんで反応してしまう。価値のある魔石かと思いきや価値ゼロなもんで魔石掘りのドワーフからは嫌われておるな」
魔石の回転を止め、回転の魔石を仕舞おうと箱へと放り投げるがキヤがものすごい勢いでそれをキャッチする
「キャーーーーッチアンドホーーーールド!!!!」
「なんじゃい?!」
「ボルタさん!!! お聞きしたいことがたくさんあります!!!!」
工太は歓喜した。恩人ボルタさんの倉庫は彼にとっての
だったのだ。魔力を通せば自動的に回転する歯車があるのだ。機械オタク通り越して機械キチな工太は絶頂すらしかねない精神状態に陥る。
「なにから創ろうかな? なにが出来るかな? さてさてデュフフ~……ふひひひ……くけかきこここかけきか!!!」
「戻ってこんかいこのバカ!!」
「ほげぇ?!」
もう完全にトリップしていた工太をボルタが思い切りド突いて正気に戻す。工太の頭にマンガのようなタンコブができた
「目ェ覚めたか?」
「だいじょうぶだ おれは しょうきに もどった!▼」
「もう一発いっとくか」
「ごめんなさいホント大丈夫なんですみませんでした大丈夫です」
それからボルタは全然落ち着いていない工太に気圧され、言われるままありったけの回転の魔石と少々の木材や糸、そして工具を用意していた。本来なら意にも介さずダメの一言で済ませるのだが、異世界から来たという彼がハズレ魔石を使い何を成すのかが非常に気になったのだ。決して工太のイっている目が怖くて用意したわけではない。
作業部屋はボルタが普段魔物素材を研究する部屋を貸すことにした。さすがに寝室でゴチャゴチャと作業されてはたまらない。念の為毛布などは置いてある
「さて、創りますか!! 一回作ったことのあるアレならできるかも!! 行く行くは有名どころ全部作りたいなぁ!!」
「一体何を作るつもりなんじゃいお前……」
「ふふん、ちょっとしたオモチャですかね。ちなみにこの世界、歯車とかギアとかクランクとかカムシャフトとかそういうものあります? 動力から回転の力を伝えることでモノを動かしたりするものなんですが」
「よくわからんが、聞いたことないな。そんなことせんでも魔法があるじゃろうが?」
「うん、大丈夫そう!! そいじゃ造りますね!!」
爛々とした光を目に灯し工太は作業を開始する。ボルタは知っている、冒険者時代に出会った鍛冶屋のドワーフが武器を作っているときにこういう目をしていた。こういうのは邪魔をしないに限る。メシが出来たら運んでやるくらいはしてやろう。精々無聊の慰めになるなら御の字だ
「でっ・きるかな、でっ・きるかな? できるかできねぇかじゃねぇ、やるんだよ!!」
ガリガリゴリゴリ、ギコギコシュリシュリ。小さなノコギリを使い木材を切っていく。作っているのは骨組みと魔石を固定するための棒だ。一方で魔石の中央にキリのような工具で穴をあけ、木の棒が通るように太いキリで穴を広げていく。
しかしこの魔石、加工しやすい。工太が小学生のころ、林間学校で小さな加工しやすい石材を使って勾玉を作る機会があったのだが、この魔石はその時の石材に材質は似ていた。
間違えて落としたりもしたが、ヒビが入るようなことはなかった。さらに石の円周にあるこの凹凸。見事に魔石同士がかみ合うのだ。工太からしてみればそのかみ合わせの美しさは自然界の美というべきものだ。
誰に決められたわけでなく自然とその形に収まる、それは氷の結晶を顕微鏡で初めて見た時の感動に近い
ちなみにとある昆虫の関節は歯車のように凸凹が見事に噛み合っている種類のものがいる。自然ってパねぇ
話は逸れたが工太の作業は続く。ふと工太は自分の掌に魔石を乗せ『回れ』と念じてみる。回らなかった。今度は自分の体の中にある何かの流れを動かすように、その流れを使って魔石を回すようにイメージする。ラノベ知識だ。
するとゆっくりではあるが回り始めた。だが鈍い。ボルタが回した時は普通にコマが回っているくらいの速度で回っていたのだが、工太がやると勢いを失った後半のコマの速度くらいになっている。
だが工太の目的は回転させることではなかった。回転の方向を見極めるために回したのだ。方向さえわかればもう問題ない。あとは念の為のぜんまいばねを作りたいところだが……
そうして工太の夜は更けていく
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