飯コメ♡後輩を餌付けしたらラブコメが始まった件。
天笠すいとん
第1話 おにぎらず
「それ、美味しそうッスね」
昼休み。
学校の屋上とかいう学生の憧れであるこの場所で一人の女子生徒が話しかけてきた。
「おいお前。それは明らかに食べ物をせがむ奴のセリフだぞ」
「ほらほら、いつも通り一口下さいよ。一口だけッスから」
ニーッと笑うその女は黒髪のツインテールに大きな瞳。長いまつ毛の美少女だった。
特徴的なのは笑った時に見える鋭い犬歯だろうか。犬っぽい雰囲気あるしな。
「あーん」
「まだやるとも言ってないのに口を開くな!近づくな!」
四つん這いになって近づく姿は他の人から見たら誤解されそうだが、生憎とここにはコイツと俺の二人だけだ。
「可愛い後輩の頼みッスよ?断るんスか?」
「これは貴重な俺の食料なんだ。大体、お前はいつもそう言って「いただきます」……おい」
今日こそは説教をしてやろうと思っていたのに、飛びついてきた後輩は素早い動きでおにぎりを一口だけ口にしやがった。
「うん。今日も美味しいッスね。でも、これは何おにぎりッスか?食べた事ない味ッスけど」
はぁ、本当にコイツは……と俺は呆れた。
「ランチョンミートおにぎりだよ。塩気のあるハムと薄切りの卵焼き、後はマヨネーズを挟んであるんだ。前におにぎらずって流行っただろ?それを作ったんだ」
「おにぎらず……語呂が悪くないッスか?」
「それについては同感だな」
それにしても、一口の大きさが尋常じゃない。
真ん中の具が多く集まっている所を食べやがったな。
「お前ふざけるなよ」
「先輩が怒った!きゃー、犯される!」
「おま、冗談でもそんな事言うんじゃねぇ!!」
誰が聞いているかわからん。通報でもされたら俺の見た目のことだ。連行は免れない。
「あはははは!本気で焦ってやがんの」
「この野郎。そんな事言うなら明日から別の場所に行って飯食べるからな」
お腹をかかえて笑う後輩にそう言うと、いきなり真面目な顔して頭を下げてきた。
「ホントすいませんでした。明日もよろしくお願いします」
「お、おぅ」
先輩への舐めた態度はどこへやら。急にしおらしくなった。
まぁ、俺が作ってきた飯がコイツにとっては大事な物らしいからな。それが無くなるのは嫌なんだろう。
俺だって明日から飯抜きだなんて言われた真面目になる。
「わかればいいんだよ。ほれ、やるよコレ」
俺は歯形のついたおにぎりを後輩に押し付けた。
「いいんスか?」
「またこうなると思ってもう一つ用意してきたんだ」
弁当袋の中からラップに包まれた新しいおにぎりを取り出す。
「えへへ。それじゃあ、いただきます」
満面の笑みでかぶりつく後輩。
ほっぺにマヨネーズつけたり、米粒が落ちたりしているが美味しそうに食べる姿を見るとほっこりする。
俺もその食事風景を見て腹が減ったのでおにぎりを食べる。
塩味の染み込んだランチョンミートと卵焼きが絶品で、マヨネーズがまろやかさを出している。海苔も丁度良い感じでしなしなになっている。我ながらよく出来た味だし、作るのもそんなに手間じゃないしな。
「では先輩。いつものッス」
「うむ。苦しゅうない」
手渡されたのは飲みきりサイズのお茶のペットボトルだった。校内の自動販売機でワンコインで買える。
俺が餌付けする代わりに昼飯用の飲み物をコイツが用意するのがいつの間にか当たり前になっていた。
「おにぎりにすらこだわりを持つ先輩。流石ッス」
「褒めるような事じゃないぞ。ただ俺が食べたかっただけだし」
今ではコンビニでも当たり前に販売してあるけど、俺としては少し……いや、かなり量が物足りなかった。
だから久々に自分で作ってみたわけだ。
「だとしても作った事が凄いんスよ。先輩のそういう所が好きッスよ」
好きという言葉に思わずドキッとしてしまう。
見た目だけは美少女だからこういうセリフを言われると勘違いしてしまいそうになるが、コイツは無自覚にこういう事を言うので気にしてはいけない。
「んっ……マヨが…ペロペロ…」
妙に艶かしい声色で手についたドロドロのマヨネーズを舌で舐めるな!
テカテカになった唇に視線が向いてしまう。
この後輩、食事中になんだかエロく感じる時があるんだけどそれを口に出したら嫌われそうで怖い。
嫌われるのは嫌だ。飯が不味くなる。
「先輩の、美味しかったッス。先輩の、ごちそうさまッス」
先輩の(作ってくれおにぎり)な!変な間を置くな!
「気に入ってもらえて何よりだよ。明日はなんかリクエストあるか?」
「先輩の用意した物なら何でもいいッスよ」
「何でもが一番困るんだよなぁ……」
コイツの場合はどうでも良いんじゃなくて、俺が用意した物だったら何でも喜んで食べるから期待が重たい。
別にそれが嫌だってわけじゃないんだが……世の中の主婦達はどう対処しているのだろうか?
「さて。飯を食べ終わったらゲームの続きを……」
「本当に好きだなお前」
「先輩がご飯が好きなように私はゲーム、アニメ、漫画を愛しているんスよ!!」
いやまぁ、俺も嫌いじゃないし、むしろ好きだけどコイツのは一般人以上だと思う。
そもそも、俺みたいなモブキャラがどうしてこんな生意気な美少女の後輩と秘密の昼休みを過ごす事になったのか、それは二週間前に遡らなくてはならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます