近代魔女もなかなか大変。

きつねのなにか

流行り病なんてとっちめろ!

 こんにちは!私は魔女っ娘魔女魔女のリーナです!娘といっても20歳だお!今日は小村にきています。

 この世界には魔女組合というのがあるのですが、そこからこの小村に派遣されたってわけです☆。


 お仕事はこの小村の衛生環境維持や、簡単な医療を行うこと。ちょっとしたお医者さんですね。


 魔女組合は結構な頭脳集団で、医療知識などを独占しています。他所のところに知識を渡さないわけではありませんけど、まあ秘匿気味の存在ですね。


 そんなわけで、今日もお仕事にレッツゴーです。


 ここは電気も水も通ってない小村。やれることは限られていますが、まずは衛生維持から!


「ワットソーさん、いくら錬金術のお薬で消毒できるからといってもですね、このトイレの使い方じゃ病気を引き起こしますよ!!」

「いんやー、下水はあるとはいえ水洗い式じゃねえしなあここは。こんなもんじゃんね?」

「うー、もっときれいに使ってください。水樽には消毒液入れておきますね」

「消毒液入れるとまずくなるんだよなあ、どうにかならんけ?」

「なりません!衛生維持しないと病気になりますよ!」


 さっそく消毒薬とお水魔法でトイレを洗い流します。そして水樽に消毒液を投入。

 衛生維持はまずトイレと飲み水から。下痢に伝染病を引き起こしますからね。


 小村なので一軒一軒回って指導指導、消毒消毒。魔女といえども基本はこういう地道な作業からです。

 え? いきなり汚い? 汚いいうな、汚いを綺麗にするのが魔女の務めでもあるのだ!!


 消毒を済ませたら、今度は傷のお手入れ。子供の擦り傷から、牛の脛のけがまで何でも治してしまいます。

 ……その、なんでも治せる魔女の錬金術や魔法技術が衛生面や各種傷や病気等を軽く見てしまう原因でもあるんですけどね。

 魔女組合はそういう面での啓もうをしていたりもします。

 治せるところが啓もうしてもあまり効果はない、というのが実情です、この小村を見ているとね。


 魔女のお家の前で順番待ちをしている、傷を治してもらう人の行列。その中に毎日傷を治してもらいに来る人がいます。まーたこいつだよ。


「やあリーナ、また手をけがしてしまったんだ、治してもらえるかな?」

「エリックソン、これ自分でやったでしょ」

 軽ーく睨みつけながら話します。

「いや、間違って料理中に……」

「それで手の甲をすりむくわけあるかい!傷薬も回復魔法もただじゃあないの!ほら、この傷薬を塗って、これですぐ直るから。あ、その前に消毒!そこの水でいいからジャバジャバ洗って。魔女のお水は綺麗なので消毒やゴミ落としに使えるんだからね」

「は、はぁい」


 エリックソンは毎日ここに来るんだよねえ、なーんでここに来たがるのか。顔や性格はざっくりってイケメンなんだけどね。ドジっ子だなあ。

 彼は色んな適正がある才子で魔法の適正は特にいいのですが、扱うための学校とかいけないのが残念だなあ。魔女の魔法は秘匿技術だしなあ。


「エリックソン、さっさと告白しちまえばいいんだべどなあ」

「まあ、魔女だからな、お相手は」

「しかもべっぴんときたぁもんだぁ!」


 後ろで並んでいる人がえらいこと言ってますね……。


「聞こえてますよ!! 魔女への恋愛は禁止されているでしょうに! もっと意識を高く持ってください!」

「ひー、おっかねえ」

「べっぴんが怒ってもべっぴんなんだなあ」

「ちげえねえや」

「「「わはは」」」


「いーしーきーをーたーかーくー!!」



 本当にねえ、魔女をなんだって思っているんでしょうか。そりゃぁ、かわいい女の子というのは、うれしいです、けど。


 夕方近くになりました。魔女のお仕事その2、魔法石を使って火を作ることです。

 ほんとさー、都会とかはガス管とかが敷かれて魔法主体の生活ではなく近代的な生活を送っているんですが、ひとたび都会から離れるといまだに魔法だよりなんですよね。早く文明が来てほしーです。


 私が魔法石で火をおこし、そこから種火を各家庭がもらっていきます。都会のガス灯の代わりにある魔法石外灯にも火をつけていきます。

 薄暗い中火がゆらゆら揺れながら移動したりボアっと外灯に火が点いたりする様は幻想的な感じがしますね。魔法万歳。


 ガス灯のほうが効率良いんですけど、ないからね。でも魔法石外灯で夜も出歩けますので、凄い革命的なんです。そして室内には電灯の代わりに魔法石の明かり。

 日没で作業を終了しなくていいってやはり凄い効率的ですね。魔法万歳。



 この小村の周辺は牧場、畑、そして森。特に森はうっそうとしているくらいの規模で存在していまして、薪の供給はわりかし何とかなっています。森=すべての木が使えるってわけじゃあないんだけどね。とにかく凄い数の木があるからね。

 ブナなんかも結構存在してますね。なんでもあり。





 魔女が住む家は魔女のお家といって、大体街や小村からちょっと離れているところに建てられています。綺麗なたたずまいなのはもちろん、錬金設備はしっかり揃ってますよ。「あの」魔女の壺なんかもありますよーうひひ。


 私はそのお家に住みながら小村で指導や消毒を主に行っていたわけですが、村にとって事件が起きました。


 隣村の男が馬に乗ってこの村に駆けつけてきたのです。


「てぇへんだ、うちの村に流行り病が発生しただよ。魔女一人じゃ足らねえ、助けてくんろ!!」


 流行り病ですと。


「分かりました、どういう流行り病ですか? 」


 私は優しく問いかけました。慌てている人に問い詰めるのは逆効果。


「体にぶつぶつができて、酷く高熱が出るんだよ。おらのところはもう死人が出てるんだぁ! 早く助けてくれぇ!」


 男は大興奮して話しかけてきます、唾が飛ぶ! 飛沫感染!!


 それで今わかる症状は。ぶつぶつ、高熱、流行性。


 サイダス病かな。いや、やっぱりこれだけじゃわからない、現場に行かないと。


「すぐ向かいます。ただし、まずはこの村の消毒をしないと……」

「おらの村を見捨てるつもりかぁ!?」

「いえ、感染の拡大を防ぐには周辺の消毒をですね……」

「もういい、連れて行くからすぐ来てくんろ!」



 ちょあー!引っ張られて馬に乗せられましたー!

 保菌者かもしれない人に直接触っちゃった!

 防護魔法かけてないのに。自分を消毒しなくちゃ。


 馬に乗せられて数時間、隣村に到着しました。

 確かここは小村より大きい村。人口も多い、どうなっているんだろう。



 村を見ると、人が外に出ておらずひっそりと静まり返っていました。


 まずは現状の把握、村長さんにお話を伺うことにしました。そんちょー!


 村長の家に出向くと、ここの魔女さんジェリーヌも来てました。手間が省ける。


「ふーむ、ゼドラ病の一種ですか。主な症状は高熱及び湿疹、肺炎。ゼドラだと致死率はそこまで高くないですよね」

「詳しい、偉く勉強しているわね。ええ、間違いなくそうね、ゼドラ病の一種よ。今は感染者は自宅待機で簡易隔離させている状況だけど、家畜に餌を与えないわけにはいかないし自宅には家族がいるから、完全に拡散を抑え込むのは無理そう」

「ジェリーヌさんたしかランク3で抗生物質作れませんでしたっけ。ゼドラは抗生物質が効くと覚えがありますけれども」

「抗生物質に使える錬金材料がないのよ。殺菌性の効果がある物質が全然足りないわ」


「薬がないならどうにもならない。うちの村はどうなるんでしょうか……」

 村長が不安な顔をしてこちらをかわりがわり見ます。

 しかしなあ、殺菌性のある薬なんて都会の魔女協会から運んでもらわないと。


 うちの村にあったかなあ……。んーあるけど、こんなに蔓延している地域に渡せる量は、ないな。

 だってこの流行り病、うちにも飛び火してくる可能性があるんだもん。在庫の放出は難しい。


 なにか生薬でも提供しようかな、森の中にいっぱい生えているのと、栽培はしているから……。それも数が全然足りない。なんかないかな。



「殺菌薬、殺菌薬、殺菌薬……。あ」



 ある、あります!


「ちょっとうちの村にある天然殺菌薬がありますよ! 多分錬金調合に使えます!」

「なんなの、それ!?」


もくクレオソートってやつです!ブナからとれる殺菌薬!うちの村にはめちゃくちゃブナの木材があります、それを木炭にして作った木酢液も大量にあるので精製すれば木クレオソートになりますよ!」


「あなたじゃ雑な精製になりそうだけど、そこからさらに錬金すれば殺菌薬そして抗生物質になるわね。急いで作ってきて頂戴!」


「あのぉ、うちの村は」


「「助かるわよ!!」」


 善は急げとお馬さんに乗って村に疾走! お馬さん、ポニーだけどね。私の背が小さくて何が悪いー!わるいー、わるい……ウッウッ。


 十分に消毒を施してから入村。消毒をこの村に施しながら作っていかないと。


 急げ急げ。急げ急げ。いそ



「忙しすぎるんじゃぁぁぁ!!」


「で、僕を呼んだんですか」

「エリックソン、君なら村の消毒くらいできるでしょう、原液いっぱい作っておくから薄めて消毒してね。あと村には人を入れないようにね」

「……僕も魔法と錬金術が使えればなあ」

「魔女規約で魔女以外に魔法と錬金術を教えるのは、魔女大学以外は禁止なの。教えたことがばれると私魔女追放よ」


 助手役のエリックソンを消毒役に回して、私はひたすら錬金術で木クレオソートを精製精製。ついでに運搬時のことも考えて濃縮濃縮。

 錬金術は施設さえあれば苦労せずに作れるから楽で良いね。魔法はマナと、マナが枯渇したら生命そのものを削って生み出すからねえ、一日の使える量に限度があるんだよね。


 丸一日木クレオソートを作り続けて、そのまま寝ずに出発。今度は馬車に大量の木クレオソートを積んでいるよ。それと消毒液の原料。


「ジェリーヌさん、持ってきました! 木クレオソートと、消毒液の原料!!」


「ランク2にしてはやるじゃない。患者に対しては対処療法でそれなりの処置は施してある。さあすぐに錬金を開始するわよ。貴女はランク2だから……消毒して回って。得意分野でしょ」


「わかりました!」


 ということで以前は出来なかった消毒行為を開始。消毒は地道で地味ですが、一番効果がある行為なんです。魔女も地道なんです。


 いつもは水とトイレが主な消毒ポイントですが、今回は家屋全体を消毒します。

 背負った小樽に入っている消毒液に散布魔法をかけて一気に散布。こういうところ、魔法じゃないとできないので便利ですよねえ魔法って。


 重症患者がいるところを中心に散布していきます。というか、重症化した人は一か所にまとめられていますね、見捨てる気かな。見捨てる気だろうな。……考えない考えない。


 魔力のほとんどを使い果たして消毒を終わらせ、その日は就寝。

 疲れもありぐっすりと眠ってしまいました。

 私達には防護魔法がかかっているので病気や原因菌はシャットアウトできます。

 

 

 次の日から、患者のいるお家を再消毒しつつ、抗生物質を提供。重症じゃなければ三日ほど飲み続ければ死なないですむはずです。



 で、三日たちました。重症化のせいで亡くなった人もいますが、大体の人は復調の傾向にあります。


「なんとかここは抑え込めたかしらね」

「ここは? ほかにもこういう症状が出ているのですか?」

「ええ、電話でそういう連絡が来ているわ。ああ、あなたの村にはまだ電気が来ていないものね。あとで協会に問い合わせをするといいわよ」


 はーい。

 というわけで電話しました。内容はこのゼドラ病による流行り病がこの地域全体に蔓延していること、感染源は移動による人の往来か。出来るだけ移動を避けること。あとはお給料の引き上げ位でしたかね。嬉しいかな悲しいかな。


 後は……。



「きりきり働けーい」

「働いてますよ、先生」

「助手は無駄口叩かなーい。さっさと消毒しに行っていなさい」


 使い魔助手としてエリックソンを雇うことにしました。この子使えるもの。

 彼はまだ16歳、これから思春期でいろんな人と盛り上がるんだろうなあ、いろいろと甘酸っぱいのを見させてもらおうじゃないか。ジュルリ。


 おっと本音のほうが先に。エリックソンを雇った理由は、使い魔なら錬金術や魔女魔法の勉強ができるからです。やっぱり宝石の原石は磨いてあげないとね。



 さて、そういうわけで他の地域への応援に行ってきまーす!!



 おわり。

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