第96話 戦争

「っていうか、アンタ、向こうの大陸にいたって言ってたわよね?」


 俺はサヨがいるという「光街」がどこにあるのかわからない。だから、ムツミのあとをついていくしかないのだが……そんな折に、ムツミが俺にそう訊ねてきた。


「まぁ……そうだけど」


「あっちってどんな感じなの? ウチが聞いた感じだと何にもない寂しい場所だって話だけど」


「……まぁ、何にもないってのは、間違っていないかな?」


 ただ、思い返してみると……今俺がいる帝都より、俺が元いた大陸の方がなんとなく居心地が良かった気がする。


 今俺がいるこの場所は人造人間がたくさんいて、騒がしいけれど……なんだか、俺の居場所はどこにもないように思えてしまう。


「やっぱりね。まぁ、そんなことだろうと思ってたわ……まぁ、でも、何にもないってことは、ここよりは安全なのかしらね?」


「安全? ……あぁ、治安が悪いってこと?」


「違うわよ。だって、そっちの大陸では戦争なんてなかったでしょ?」


「……戦争? それって……人類が昔やってたっていう……」


「違うわよ。人造人間同士がやっている戦争のことよ」


 そんなこと、当たり前ではないかという顔でそういうムツミ。俺は……意味がわからなかった。


 ……どういうことだ? 人造人間同士が戦争をするって……だって、人造人間は人間同士が戦争するために作り出した存在のはずだ。その人類がいなくなったのに、なんで人造人間同士が戦争をする必要があるんだ?


「……よくわからないけど、戦争はなかった」


「そう。まぁ、こっちはっちょくちょくあるからね~。ま、それがあるからこそ、ウチも商売できるって話なんだけど」


「え? どういうこと?」


「どういうって……アンタと最初に会った場所、あそこらへんは最近戦闘があった場所よ」


 ……言われてみれば確かにあそこは廃墟が並んでいた。それに、最初にクロミナと歩いていた場所にも人造人間のパーツの残骸のようなものが散乱していた。


 どうやら……ムツミの言っていることは間違っていないように思える。


「……でも、一体どうして人造人間同士で戦争なんてしているの?」


「それは……知らないわよ。お偉いさんが考えていることなんて。まぁ、噂では夜明けがなんとか~、とか、よくわかんないけど、そういうことらしいわよ」


 ムツミはまるでわかっていないようだったが、俺にはその言葉だけで理解ができた。


 夜明け……間違いなく「夜明けの時代」のことだ。


 そして、それを口にする人造人間を、俺は一体しか知らない。


 この帝都のお偉いさんとやらが、夜明けの時代という言葉を使っているとしたら――


「ちょっと! ほら、そろそろ着くわよ。あれが『光街』よ」


 そう言ってムツミが指し示す先を見ると……そこだけ、まるで輝いているかのような光を放っている場所があった。


 俺もすぐに理解できた。「光街」という名前が何を意味しているのかを。

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