第30話 発射

「いやぁ。しかし、自分の国を忘れているとはなぁ」


 戦車はなんだか驚いた感じでそう言った。といっても、おそらく、戦車の生産された国というのは……すでに消滅している可能性が極めて高い。


 まぁ、この夜が続く世界においては、国どころか、人類を見つけるのも大変なのだが。


「……お前は、戦争に駆り出されていたのか?」


「もちろん。駆り出されていたどころか、俺は戦争のために作られたんだ。お前さんは違うのか?」


「……似たようなものだな」


 寂しげにそういうサヨ。人造人間と戦車……見た目は全然違うが、戦争のために作られたという共通点は存在するわけである。


「しかし……お前さん達の話を聞いていると、そもそも戦争も終わっちまって、俺が所属していた軍隊もなくなっちまっている可能性が高いんだなぁ」


「残念だけど、おそらく、そうだね」


 俺がそう言うと戦車はゆっくりと砲塔を回転させている。まるで何かを考え込んでいるかのようなだった。


「……よし! ここで会ったのも何かの縁だ! お前さんたちに俺の一発を見せてやろう!」


「え……一発って?」


「一発って言ったら、当然、俺のこの自慢の砲口から飛び出す弾のことよ!」


 戦車は得意げにそう言った。なぜそんなことをするのかわからないが……まぁ、ここらへんは平原だし、何かにあたったとしても廃墟か、残骸だろう。


「よし! 耳抑えてろよ! 早速発射するぞ!」


 そう言って、戦車の砲塔が俺達とは逆方向に回転する。俺とサヨは同時に耳を塞ぐ。


「発射!」


 その瞬間、体に響くようなドン、という音が響く。


 そして、10秒程経ってから、かなり前方にあった廃墟がけたたましい音をたてて破壊される。またたく間に、廃墟は完全に消滅してしまったのだった。


「おぉ……すごい」


「……これが、兵器か」


 サヨがしみじみとそう言う。俺は今一度戦車を見る。


「……あれ? ちょっと……え?」


「……どうした?」


「いや……なんか、全然反応がないんだけど」


 俺がそう言うとサヨが戦車の様子を詳しく見る。しばらくすると、サヨは首を横にふる。


「……どうやら、今のがヤツの最期の一発だったようだ」


 サヨの言葉を聞いてから今一度戦車を見る。


 先程まで意思と意識を持った存在だったものが、夜の闇の下に蹲るだけの兵器の残骸となったのだ。


「……長い間、お疲れ様」


 返事はないとわかっていても、俺はそう言わずにはいられなかったのだった。

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