「桜の記憶」声劇台本

深海リアナ(ふかみ りあな)

【桜の記憶】

★出来るだけ上演前に

プロフィールお読み頂けると嬉しいです。


〔登場人物〕 女2名

[所要時間:約15分 ]


撫子(なでしこ)♀

さくら♀


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


撫子

「(N) きっとこれは、誰もが通る道。」


さくら

「(N) 自分にはない、

綺麗なものに憧れる気持ち。」


撫子

「(N) 大人になるための

大切な1ページの記憶。」



さくら

「撫子、ここにいると思った。

1人で行かないでっていつも言ってるのに。」


撫子

「ごめんなさい。

ここに来ると落ち着くものだから。」


さくら

「花もついていない桜の木の下が落ち着くなんて、変わってるのね撫子は。」


撫子

「そうかもしれないわね。

…今年は見れるかしら。」


さくら

「あぁ、桜?

その前に卒業するかもしれないわね、

私たち。」


撫子

「…ねぇ、さくら。」


さくら

「なぁに?」


撫子

「……なんでもない。」


さくら

「またそうやって言葉を飲み込む!

悲しいな…何か悩んでるなら話してよ。」


撫子

「大した事ないのよ。それよりさくら、

あなたお友達はいいの?何もこんな所まで

私を追ってくることないのに。」


さくら

「…迷惑?」


撫子

「そんなことないわよ。心配してるの。

卒業まであと少しなのに、私とばかり

いていいの?」


さくら

「撫子といたいの。私たち親友でしょ?

一緒にいるのが当たり前なの。

誰とも話さないのは撫子の方でしょ?

目立つのに高嶺の花ゆえに鑑賞物になってる撫子。心配よ、私。」


撫子

「そんな事ないわよ。私、人見知りだから。

でもありがと、感謝してる。」


さくら

「ねぇ撫子、いつも言ってるけど

私には隠し事なしだからね?

1人で抱え込んだりするの、ダメ!

撫子のことは私が1番知っておきたいの。」


撫子

「ふふふ、そうね。約束。」


『 (M)さくら、あなたは綺麗。

桜の花びらようにほんのり色づく頬や、

小さな唇、暖かい春のような笑顔にいつも憧れていた。あなたのようになりたかった。

今では私、あなたの事が…。 』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


さくら

「撫子っ!だーれだっ。」


撫子

「…っ!もうびっくりするじゃない。

や、やめなさい そういうの。」


さくら

「だってぇ……。だって…卒業したら

バラバラになるのよ、私たち。」


撫子

「さくら?」


さくら

「ううん、なんでもないの!ね、お昼終わっちゃう。早くお弁当食べましょ!

…この屋上…。

あの桜の木がよく見えるのね。」


撫子

「そうね。」


さくら

「わぁ!撫子のお弁当、なんか最近

随分豪華ね!嬉しいことでもあった?」


撫子

「え?べ、別に…気分よ。もうすぐ大人になるんだし、料理くらい出来るようにって…」


さくら

「朝からこんな手の込んだもの、作るの?」


撫子

「昨日の残り物を詰めただけよ。」


さくら

「へぇ…そうなんだ。

でも撫子はやっぱりあれよね、立ち振る舞いや言葉遣いも綺麗だけど、

お弁当の中身もやっぱりこうやって見ると、さすが良いとこのお嬢様って感じね!

パーフェクト!」


撫子

「そんな事ないわよ。茶化さないの!」


さくら

「え?撫子が照れてる!」


撫子

「う、うるさいわね、早く食べなさい!」


さくら

「ご馳走様でした!」


撫子

「えぇ!?嘘、もう!?」


さくら

「だって撫子、食べ方ゆっくりで丁寧すぎるんだもの。それだけ喋ってればねぇ…。」


撫子

「そ、そんなことないわよ!(かき込む)」


さくら

「あはは、

そんな らしくない事しなくてもいいのに。」


撫子

「ご馳走様でした。」


さくら

「ここ、風が吹いてて気持ちいい。

暖かくて眠くなっちゃうね!」


撫子

「ふふ、本当にあなたはマイペースね。

…こんな瞬間が続いたらいいのにね。」


さくら

「卒業したら…

私と撫子はどうなってるのかな。

ここで出来なかったこと、目一杯やるぞぉ!」


撫子

「あはは、いつもさくらは全力なんだから

やり残していくことなんてないでしょう?」


さくら

「んー…。そうでもないよ。」


撫子

「あら、珍しい。

あなたでも心残りがあるの?」


さくら

「あるわよぉ、悩める人間なの私は!」


撫子

「あはは、ごめんなさい、そうよね!

さくらだって色々あるわよね!」


さくら

「聞きたい?」


撫子

「そうね、今度じっくり聞かせてもらうわ。」


さくら

「…そっか。あ、ねぇ、

ボトルに紅茶入れてきたの。はい(渡す)。」


撫子

「あ、ありがとう。この香り…桜ね。」


さくら

「当たり。撫子、紅茶の香りの中で1番好きって言ってたから。」


撫子

「えぇ。」


(飲む・間)


撫子

「最後に…もう一度見られたらいいのに。」


さくら

「桜の花?」


撫子

「そう。」


さくら

「本当に桜が好きなのね。」


撫子

「…えぇ…。……好きよ…。」


さくら

「………。自分と同じ名前の花を

そんなに好きだ好きだ言われると、

なんか嫉妬しちゃうなぁ…あはは。」


撫子

「……大丈夫よ。

あなたは大事な親友でしょ…。」


さくら

「……………。」

「…撫子。寄りかかっても…いい?」


撫子

「え?……えぇ。」


(間)


さくら

「……………っ。」


撫子

「……あの…さくら?」


さくら

「………撫子と離れ離れ……………嫌だよ。」


撫子

「さくら……私もね……」


さくら

「撫子が…………好き…。」


撫子

「……………っ!!」


(緊張・沈黙)


さくら

「撫子っ………、」


撫子

「(遮る) ごめんなさい!!

…ごめん…なさい……。」


さくら

「そうだよね、女の子同士なのに……

こんな気持ち、変だよね。」


撫子

「違うの!」


さくら

「撫子?」


撫子

「違うのよ…私にはっ……。」


さくら

「ちがうって?」


撫子

「……っ、何でもない、とにかくごめんなさい。女の子同士だからとか、そういう事じゃないの。でも答えられない…ごめんね。」


さくら

「………また…それ…?」


撫子

「え?」


さくら

「撫子、最近そればっかり。そういうのなしだよって、約束したじゃない!!」


撫子

「さくら…。」


さくら

「隠し事ばっかり!気づいてないと思ってた?気づいてるよ!…だって…ずっと見てたんだから…。」


撫子

「……………っ。……私には……。

私には婚約者がいるの。両親と親交の深い

あるご家庭の息子さんでね…卒業したらその人と私結婚することになったの。

うちは、さくらの家みたいに自由な家ではなかった。勉強もスポーツも習い事も、常に結果を求められた。

そんな息苦しい灰色の毎日が、さくら…

あなたに出逢って変わったの。

パッと景色が色づいたみたいに、何もかもが新鮮で、毎日が楽しい事の連続だった。

そしていつの間にか暖かく私を包んでくれるあなたを……、好きになってた。」


さくら

「……え?」


撫子

「さくら…っ、私はあなたが好きなのっ。

好きなのよっ!!

…だから…壊したくなかったの……。」


さくら

「撫子のばか。そんなの、言葉で伝えてくれなきゃ分からないじゃない!

1人で苦しまないでよ…。

少しの間でいいの…そばにいたいよ。」


撫子

「報われないのよ?」


さくら

「いいの。」


撫子

「もう、戻れなくなるのよ?」


さくら

「それでもいい…今だけ…

……今だけでもいいからっ……。」


撫子

「さくら……。それならせめて桜が咲くまで

そばにいてちょうだい。

最後に…あなたと桜が見たい…。」


さくら

「…………うん。……いいよ。」


撫子

「さくら……。

ずっと……あなたが好きだった……・。」


さくら

「……うん。」


さくら

『(N) 桜が散る頃、きっと私たちは

それぞれの道を歩いてゆく。胸が熱くなるほど欲した“自由” “憧れ”そして“未来”。』


撫子

『(N)毎年この季節が来るたび、

今を思い出して

涙とともに懐かしむのだろう。』


さくら

『最初で最後の美しいこの一瞬を。』


撫子

『 桜を見るたび、私はあなたを想います。』




[ 完 ]




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「桜の記憶」声劇台本 深海リアナ(ふかみ りあな) @ria-ohgami

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