ゲームをしよう

 セレナの向かいに座る俺はナオミを膝の上にのせていて、時々頭を撫でてやっていた。


「仲がいいんだな」

「俺にはナオミしかいないんだよ」

「ご主人様にはたくさんの僕がいらっしゃいます」

「そうじゃないんだ。俺が守りたいと思える、俺の生きる希望がナオミしかいないんだよ」


 セレナは閉口しているようだったが俺は気にしなかった。


「邪魔をしてすまないが、国王と側近を助ける方法とはなんだ?」

「俺は地下牢に転移できる。国王がいるという塔にもな」

「転移? さっきのようなわけのわからない魔法か?」

「魔法かどうかは知らない。見せてやる」


 俺はナオミを下すと、目を閉じた。PCと同じ画面が浮かび上がる。クローゼットの出現、行先はどこがいいだろう。ああ、あの教会に騒いだお詫びをしないといけないからあそこに行こう。

 行先を決定。


 目を開く。


 一階の隅にクローゼットが出現していた。


「クローゼット? なんであんなものだしたんだ?」

「入ってみればわかる」


 俺は立ち上がるとクローゼットのそばまで行き、その扉を開いた。中には暗闇が広がっている。


「ナオミは待っていて。外の世界は危険だから」

「わかりました。行っていらっしゃいませご主人様」

「中に入ってみろ」


 セレナに指図すると、彼女は恐る恐る手をクローゼットの中に入れた。暗闇の先に右手が消える。

「ひっ」と彼女は悲鳴を上げて、手を戻した。何度も手の状態を確認している。


「転移するだけだ。何も心配はない。ほら行けよ」

「わかった」


 セレナは意を決して、クローゼットの中に入り込んだ。

 俺も続いて入っていく。



「なんだここは」


 セレナはあたりを見回していた。教会の様子は以前と変わらない。シスターたちが慌てて現れて、俺に頭を下げた。


「これはこれは神様。本日はどのようなご用件で」


 シスターたちの手は震えていた。おそらく俺を恐れているのだろう。


「いや、この前の詫びをしたくてね。少ないが。特級ポーションだ。売って金にするといい」

「え! あの、申し訳ないです」

「いいから受け取れ。時機に領主の娘が買いに来るだろう。白金貨一枚で売ればいい」

「そんな! 神の意志に反します」

「神は誰だ? そこにぶら下がっている十字架か? それともオレか? 選択したいか?」


 俺がすごむと、シスターは眼を見開きガタガタと震えた。


「いいえ、あなた様が神様です」

「よし。俺があのバカ娘を連れてきてやる」


 シスターは頭を下げて俺たちを送った。


 俺はセレナとともに教会を出た。


「どうして神様などと呼ばれている? それによくそんなポンポンと特級ポーションを渡すことができるな」

「あんなもの珍しくもなんともない。いくらでも作れる」

「それで何人の人間が救えたのか……」

「いくらでも救えるだろうさ。そしていくらでも殺せる」


 俺は領主の家に出向いた。


「うっ。なんだこの家は血だらけじゃないか。それにひどい匂いだ」

「この屋敷ではたくさん人が死んだからな。というか、俺が殺したんだ」


 セレナはそれを聞くと立ち止まった。


「なぜそんなことを」

「個々の領主は自分の腹を肥やして民に還元しなかった大馬鹿野郎だった。だから制裁を下した。それだけのことだよ」

「使用人たちは……」

「俺に歯向かってきたんだ。死んで当然だろ」


 屋敷の中を進み裏口から出て、離れに向かう。

 ノックする。

 悲鳴が聞こえた。


「なんだ!」


 セレナが慌てて扉を開けたものだから、さらに悲鳴は大きくなった。

 そこには数日前の服のままおびえて動けない領主の妻と娘の姿があった。


「殺さないで……殺さないで……」

「殺しはしない。ただゲームをしよう。わかるか、ゲームだ」


 俺は娘のほうの顎をつかんだ。娘はひっと声を上げた。


「ママ助けて……ママ」


 母親は恐怖で動けない。


「ゲームのルールはいたってシンプルだ。家の中に入って、金目の物を片っ端からもってこい。その片方の足でめいっぱい走ってな。30分やる。良心的だろ。集めた金額分特級ポーションをやろう。足が治るぞ。やるか? やらないか? 選択しろ」

「や……やります!」


 少女は慣れない片足で立ちあがった。

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