第46話 支援部のこれから

 お昼休みにご飯をたっぷりと頂いたせいか、いつの間にか俺の意識は遠く彼方へと落ちていき、気付いた時には放課後だった。


 真っ白なノートに絶望する。


 せめて黒板を写真におさめようかと思ったが、もうすでに消されており、打ちひしがれていると帰りのショートホームルームに黄島先生が教室へと戻ってきた。


 はあ、まあ真白に頼ろう。と、気持ちを切り替えて黄島先生の話を受ける。


 なんでもないような話を数分したあと、日直の気の抜けた挨拶で本日の日程は終了。


 部活の準備をするもの、帰宅部の駄弁ってるものなど、各々に動いて教室はざわついた。


 俺はというと、教室の扉から手招きする先生を目にやり立ち上がった。


 俺は鞄を持って廊下に出ると、先生は職員室を顎でさして歩き始めた。


 俺はそれに続く。


「放課後なのに悪いな」


「いえ、大丈夫ですよ」


「話したいことは二点だ。支援部の事と、日堂の事」


「そうだと思いました」


 黄島先生から呼び出した理由の説明を受けたが、ある程度予想していた内容なので特に驚きはない。


 先生もそうか。と一言だけ言って無言で廊下を歩いた。


 職員室に着くと、相変わらず先生方が忙しそうに作業をしていた。


 黄島先生はデスクの隙間を縫うように通っていき、俺もその後に続く。


 そして、応接室まで入ると先生に黒い合皮張りのソファに座るように手で促された。


 俺は促されるままソファに腰掛けると、先生は扉を鍵閉めてこちらを見直した。


「……先生、監禁ですか? やだなあ、何されちゃうんだろ。きゃー、未婚三十路にめちゃくちゃにされちゃうー」


「何してほしい? 三十路の未婚は恐ろしい事しちゃうぞ」


 冗談めかして黄島先生をいじると、倍返しな恐ろしいカウンターを喰らった。


 俺は棒読みだったが、先生の声はドスが聞いていた。何食ったらあんな声出せるんだ。


 あと、口は笑ってるが目は笑っていない。


「まあ、馬鹿なこと言ってないで本題入るぞ。本来生徒に言うべきじゃないんだ」


 黄島先生はふっと顔を元に戻すと、対面のソファに腰掛けた。そして、手を組んだあと少し押し黙る。


 考え込むように眉間にシワを寄せながら、黄島先生は重々しく口を開いた。


「日堂の退学処分が決定した。現在は自宅謹慎をさせているが、事態を重く受け止めた学校長の判断だ」


「……そう、ですか」


 俺はある程度の予想はしていたが、自分が当事者として関わった事件で退学する者が現れたその衝撃に言葉を詰まらせ返事をするのに精一杯だった。


 少し早くなった脈拍を抑えるのに、一つ大きく息を吐いた。


「行った事が、事だからな。下手すれば近藤、皆野妹両名に一生消えない傷を付けるところだった」


 黄島先生は神妙な面持ちで、今回の事態の重さを説明し、俺はゴクリと唾を飲み込む。


 改めて言われると、今回は運が良かった。良過ぎたと言っても過言ではない。


 あの時真白と電話が繋がらなければ、あの時真白のいる場所を特定できていなかったらと思うとゾッとする。


 俺は押し黙って、先生を見つめるしかなかった。


「今回は運が良かった。だが、結果的に助けられて良かったよ」


「……はい」


「で、まあ重苦しい話はここまでで、当該の問題が解決した事に伴って支援部の活動再開を今週の土曜日から考えている」


 黄島先生の声のトーンがガラリと変わって、話題が支援部の話にスイッチする。


 重苦しい話と繋がっているが、結果的には支援部再開に繋がったのは良かったと思う。


「土曜日からですか?」


「ああ。ちょっと忘れ……いや、おしつけ……いや、コホン。プール開きの時期だから、プールの清掃をしてほしくてな」


「先生、取り繕っても台無しです」


 先生は程のいい業務の押し付けを支援部に丸投げしてきた。


 誤魔化そうとしていたが、その誤魔化し方がとにかくひどい。


 俺が呆れて物申すと、黄島先生は鳴ってない口笛を吹きながらそっぽを向いた。


「……先生、貸しですよ?」


「…………………………………はい」


 俺はボソリと黄島先生を見つめながら言うと、黄島先生はたっぷりの間を置いて根負けしたように頷いた。

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