第37話 その日の夜の変化
なんだかんだいろいろあったものの、家に着いてご飯を食べて風呂に入ればいつもの日常に戻ってしまう。
しいていうなら身体に少し擦り傷がある程度だろうか。
パジャマに着替えた俺は、腕に、足に、指に絆創膏を貼った。
アドレナリンが出ていたのか、学校にいる間は痛くもなんともなかったが今はひりひりと痛む。
まあ、妹を守った勲章といえば安いものだろう。
絆創膏を見つけながらふっと笑っていると、俺の隣の部屋、翠の部屋が勢いよく開閉された音がしたかと思えば、次の瞬間には俺の部屋の扉が勢いよく開いた。
「ねえ、お兄」
ノックもせずに入った翠に、俺は驚き少しのけぞって翠に抗議する。
「おわっ! ノックくらいしろ! 焦るだろうが!」
「あ、ごめんごめん。って、怪我してるの?」
翠は謝りつつ、俺の絆創膏に気付いて心配そうに見つめた。
「ん? ああ、かすり傷だよ。少しヒリヒリしたから念のために貼ってるだけだ。なんともない」
あくまで念のために貼ってるだけだとアピールする。実際血もそんなに出ているわけではない。
おじいちゃんとかに見せたら唾つけとけとか言われるレベルだ。
「ほんとに?」
それでも翠は心配そうに食い下がる。なんかしおらしくて調子が狂う。
「大丈夫だって。そんなことよりどうしたんだ?」
調子が狂いっぱなしになる前に、翠に部屋に来た理由を聞くと、急にもじもじしだして俯いた。
なんだ、トイレか? なんて聞いたら鉄拳が飛んでくるだろう。
それは流石にわかる。
じゃあなんだ?
今は深夜零時。そろそろ寝る時間だ。
翠もパジャマに着替えているし、あとは寝るだけだろう。なら、尚更なにしに来たんだ?
「あのね、えっと、その……」
翠はもじもじしていて落ち着かない。
何か言いかけてはやめ、また口を開いては閉じてを繰り返す。
なんなんだろう、ここは一つ冗談でも言って話しやすい空気でも作ったほういいのだろうか。
「どうした? 寝れないのか? 添い寝してやろうか?」
俺は、何言ってんの? 馬鹿じゃない? と恐ろしい冷たい視線で罵倒される覚悟をして、翠に冗談めいて言った。
するとどうだろう。俺の予想に反し、翠は少しぽかんとしたかと思うと、すごく驚いた顔で慌てはじめた。
「いいの!?」
あの、翠さん。冗談なんですけど。と、言いたいところだが、どうやら言えそうにない。
驚きつつも、翠はすごく嬉しそうに目を輝かせていたからだ。
「あ、ああ」
少し勢いに圧倒された俺は少し引き気味に肯定する。
そんな俺の引いてる様子に気付いたのか、翠は少し落ち着きを取り戻して一つ先払いをした。
「コホン、取り乱したわ。ちょっと、今日は眠れそうになくて。いろんな感情でぐちゃぐちゃになっちゃって。だから、眠るまで付き合って。あ、かと言って私に欲情しないでよね」
「誰がするか!」
翠が取り繕った冗談を慌てて否定する。
女っ気がないとはいえ、さすがに妹には欲情せん。
するならまだ魅墨の方に欲情するのが健全だ。……いや、多分しないか。
大変失礼な事を考えると、翠は不満そうにぽそりと呟いた。
「……え、しないの?」
……翠さん?
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