第15話重い重い関係は不滅のようです。

 家に帰り、ご飯も食べ終えた俺は、部屋に戻ってラインを開いた。通知が二件入っている。


 俺は肘掛け椅子に腰掛けながら、ラインのトーク画面を開いた。まずは、真白か。


【蒼兄、なんで見捨てたんですか! あれから大変だったんですからね! もう、ひどいです、あんまりです。この鬼畜、悪魔、馬鹿、蒼司!】


 真白からのラインは、俺への恨み言がつらつらと並べ立てられていた。最後の一行に関してはただの罵倒の羅列が並び立てられてるし、蒼司という名前すら悪口にされていた。


 あんまりだろう、ひどい言われようだ。


【真白、お前が悪い。今後は気をつけろ。あと、蒼司を罵倒の言葉のように使うな。傷つく】


 真白の罵倒に、抗議と、蒼司を罵倒に使われた事に関する精神的苦痛を送信して、次のトーク画面を開いた。


 えーと、誰だこれ?


 犬の可愛らしいアイコンのプロフ画像が表示され、魅墨という名前で登録されている。


 あれ? もしかして、土方さん? ライン交換したっけ?


 恐る恐るトーク画面を開いてみると、なかなかに長文が並んでいた。


【こんばんは、皆野くん。突然申し訳ない。真白に聞いてラインアイディを教えてもらった。迷惑なら言ってくれ。今回は、真白の件で迷惑をかけてすまなかった。私の監督不行き届きだろう。今後はなんとかさせてもらう。どうか許して欲しい。あとは、別件ではあるのだが、せっかく友人というものになったのだ。遠慮なく魅墨と呼んでくれたまえ。私は蒼司と呼ばせてもらう。数少ない友人の一人なのだ。仲良くしてくれ】


 ……長い、重い。


 土方さんのラインの文章を読んだ感想はこの事に尽きた。


 一体なんなんだ。謝る気持ちはわかるけど、こんなつらつらと書く程ではないだろう。それに、友達にはなったが、距離の詰め方が下手くそすぎる。


 いきなり名前で呼ぶのはどうなんだ? いや、別にいいんだけどさ。


【俺は気にしてないよ、大丈夫。というか、距離の詰め方が急だね。全然魅墨って呼ぶけどびっくりした笑】


 出来るだけ自然な感じで、ラインの内容に驚いた事を土方改め魅墨に伝える。


 するとどうだろう、一瞬で既読がついたではないか。


【そ、そうか。すまない、先程も送った通り友人は少ないのでな。どうか許して欲しい。こんな私でよかったら本当に仲良くしてくれ。その、私も親友と遊んだりしたいものなのだ。蒼司さえよければ是非とも遊ぼう】


 そしてすぐさま返ってきた返信に戦慄を覚えた。短時間で送れる文量を超えている気がする。


 既読がついてから五秒もたっていないんじゃないのか?


 それに、いつのまにか友人から親友になってるし。……重い、重いぞ魅墨。


 これは、一旦保留かな。


 ちょうど真白からもラインが来てたし、トーク画面を真白に切り替えた。


【むう、蒼兄は意地悪です。でも、罵倒の言葉にしてごめんなさい、以後気をつけます。それはそうと、魅墨からラインは届きましたか?】


【まあ、怒ってはないからいいよ。それと、魅墨からのラインは届いた。その独特なラインだな】


 俺は真白にラインを送り返すと、二度程追加の通知が来た。今日の俺のライントークは忙しい。


 真白のトーク画面を離れ、誰が送って来たのかを確認すると、追加の二件は魅墨からであった。


 ……え、やだ怖い。恐る恐るトーク画面を開いてみる。


 まずは一件目。


【蒼司、どうした? 既読がついてるのに送り返せてないようだが。まったく、うっかりしているな。親友である私だから許すが、他の人相手だと失礼に値するぞ。気をつけないとダメだからな】


 この時点で文章的には中々ホラーだ。さっきの既読スルーと言っても二分足らずくらいだぞ。それに、すっかり親友となってしまっている。


 ……まあいい、気を取り直して二件目だ。


【蒼司、なにか怒ってるのか? 粗相があったのなら申し訳ない。だが、君に嫌われたくないのだ。君と固く交わし合ったあの握手、あの時点で私達の仲は不滅だろう? もし嫌われたとしても、きっと仲を修復してやる。待っていてくれたまえ】


 ……あれかー! 握手かー!


 どうやら、俺が軽率にした握手が、魅墨のなにかに触れてしまったらしい。


 わかる訳ねえよ。それでも、魅墨が重たくなった理由はそれだと本人が送って来ているし、どうやら魅墨と俺の仲は不滅らしい。


 なんという事だ。変な汗がダラダラと背中を伝う。


 と、とりあえず一旦返信しないといけない。俺は急いで魅墨のトーク画面から文章を打ち込んだ。


【すまない。少し真白と話をしていた。嫌う事ないよ、大丈夫。あ、明日頼むな。じゃあ、また明日】


 流れをぶった切り、トークを強制終了出来る文書を送信。すぐさま既読がついたが、俺は光の速さで魅墨のトークから離れた。


 既読がついたらなにを言われるかわからない。


 俺は恐怖を覚えながら、とりあえず再度通知が来ていた真白のトーク画面を開いた。


【独特ですか? まあ、堅苦しくはありますが、そんな独特ですかね? それはそうと、明日の服装指導の組み分けどうしますか? とりあえず生徒会組で分かれたいので、蒼兄は私か魅墨を選んで欲しいのですが】


【真白でお願いします】


 俺はまったく悩む事なく真白のラインに対して、真白を選択して返信する。


 今日だけで、魅墨に二度恐怖した。真白に対しての鬼の魅墨と、今の激重魅墨の二度。


 真白と翠の問題解決するには魅墨に任せればいいじゃんと思っていたが、今では俺が任せるのを躊躇ってしまう。


【そうですか? 承知しました。蒼兄、明日もよろしくお願いします】


 真白の返信を見て、俺はホッと胸を撫で下ろした。良かった、これでとりあえず明日は大丈夫。


 俺はラインを閉じてスマホを置くと、天井を仰ぎ見た。


 大変な親友が出来てしまった……。

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