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だけどその日、九十九は微熱があって、大事をとって学校を休んでいたのよね。
生徒会の集まりがあった私は、いつも九十九よりだいぶ早く家を出ていたから、九十九が体調を崩していることも、学校を休んでいることも知らなかった。
だから玄関を出ようとしたとき、「お姉ちゃんどこ行くの?」って声がしたときはとても驚いたわ。
振り返ればおでこに熱さましシートを張った九十九がいて、手にはチョコレートを持っていた。
「ちょっと、委員会の買い出しにいくことになって。」
私はとっさにそう答えた。
そしたら九十九は不安そうな顔をして、
「分かった。…戻ってくる?」って聞いたの。
私は反射的に、「当たり前でしょう」って答えていた。
それを聞いて安心したのか、九十九は少しほほをゆるませて、私の目を見て言ったの。
「私、待ってるからね。お姉ちゃんのこと」
うん、と頷いて扉をあけたけれど、まるで後ろ髪を引かれるように、その言葉は私の胸にひっかかっていた。
そして駅について電車に乗ってからも、しばらくの間、その言葉を頭の中で反芻していたの。
私は券売機で一番遠くの切符を買って、絶対家になんか帰るものかと思っていた。
でも電車に乗って揺られながら、九十九がくれたチョコレートを口の中にいれて、私はリュックに顔を押し当てて泣いたの。
チョコレートの箱を裏返したら書いてあった。
「お姉ちゃん、お誕生日おめでとう!」
――嬉しかった。
自分でもすっかり忘れてしまっていたのに、私の誕生日を、生まれた日を、覚えてくれている人がいたことが。
九十九のおかげであの日、私は終着駅から引き返して家に帰れたのだと思う。
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