マキシ
第32話
ギルドで行われた賞金首の討伐会議は、随分とそっけないものだった。
事前に細かい部分まで決定していたらしく、担当エリアの説明と、必要な魔道具の説明を受けるだけだった。参加者は全員で20名、7パーティだ。この街で合流した冒険者4人組も追加されており、かなりの大所帯となっていた。
なんでも賞金首は10名近い冒険者を撃退しており、これぐらいの人数が居た方が良いとギルドが判断したらしい。とはいえ、全員で捕まえる訳では無く早い者勝ちという形を取ることが暗黙の了解になってしまったため、あまり意味が無いとも言える。
冒険者同士とはいえ、赤の他人に背中を預けるよりはパーティメンバー同士の方がやりやすいという現場の判断だ。ただし、発見時には魔道具の信号弾を上げるようにと指示された。会議の雰囲気を見る限り、あまり守られそうな気がしないではあるが。
支給された魔道具はもう一つ、装着者のMPを
俺たちのパーティ、
最後に賞金首の情報だが、なんと見た目は子供くらい小さいとの事だ。防具類は特につけておらず、一般的な布の服にローブ姿。顔には大きな目玉の描かれた奇妙な仮面を被っており、人相は確認できないという事で、魔族の可能性もあり得る。
装備は撃退した冒険者から剥ぎ取っているらしく、目撃情報とは異なる可能性が高いとも言っていた。防具関係はサイズが合わないのか興味は無いようで、目撃情報では大きく変わっていないらしい。
幸いなことに死者は出ていない。というか命を取る事に関してはあまり興味がない模様で、気絶したにも関わらず生き残った冒険者が多数いる。だが、無傷という訳ではない。引退に追い込まれた冒険者も少なからずいるそうだ。
「今日は楽しいピクニック、と言いたい所だけど、そうもいかないわ」
担当エリアに着くなり、ロザリアがそう告げる。とりあえず索敵を開始しながら、話を聞く事にする。
「実はここの賞金首とは既に戦ったことがあるの。オルトに会う前にね」
本当はもっと早く言うべきだったのだけど、と続けるロザリア。内容を他人に漏らすわけには行かなかったのでタイミングを逃したとの言い訳。昨日は早々に寝てしまったもんな。
戦闘は複数回『未来予知』の中で行われたのだが、決着は付かなかったそうだ。突如襲撃され、迎撃は可能だったが仕留める事は不可能。バルネドの街に近寄れば必ず出会って戦闘になり、決着が付かないまま散々疲弊させられた為、面倒になって迂回ルートで移動したという話だ。
理由は分からないがロザリアがターゲットにされている可能性があり、今日の仕事でも遭遇する危険性があると彼女は言う。だが、パーティを組みそれなりにレベルが上がった現在なら仕留められるだろう、という事で報酬欲しさにこの依頼に参加したのだという。
「手っ取り早く稼げる上に、当時レベル14だった私でも引き分けだったのだから、問題は無いと判断したわ。伝えるのが遅くなったのは本当にゴメンね」
某ゴリラと違って女の子のするテヘペロは様になる。とても可愛い。だが、油断は禁物と一応釘は刺す。当然分かっている事だから強くは言わないが、怪我をする事は極力避けたい。追加報酬はたしかに美味いが、参加しただけでも充分なのだから。
「しかし、ロザリアを狙って来たというのは少し引っ掛かるな」
何が目的なのか、対話を試みたこともあったが、どれも結果は不振に終わったそうだ。ギルドでの会議で語られた以上の情報も皆無。あまり好みでは無いが、行き当たりばったりで対応するしか無いようだ。
『オルト、早速だけど
シャルから念話が入る。精霊たちとの連携は完璧のようだ。驚くほどの広範囲をカバーしている。土精霊の
やはりロザリアが狙われているというのは間違いないようだ。可能であれば情報を引き出す必要もありそうだな。
手早く移動を終えると、既にシャルと精霊たちは到着していた。会敵まで数十秒といった所だろう、こちらも装備を整え、遭遇に備える——
「⋯⋯おや?既に知っていたという事か、これは」
目の前に現れた賞金首は、こちらの状況を見るなりそう呟く。事前情報通り、特に防具は装備していないが、不気味な仮面を付けている。だが、その手には自身の背丈ほどもある大剣を持ち、刃がついている部分を肩に乗せていた。かなり奇妙な姿と言っていい。
念の為ロザリアに確認するが、間違いないようだ。ただし以前は大剣を装備していなかったとの事で、恐らく返り討ちにした冒険者から奪った物だろう。
「
随分大仰な物言いをするが、体格や声とは見合っていない。まだ声変わりする前の少年といった印象を受ける程の小柄で、得体の知れない不気味さはあるが、あまり脅威は感じない。
「何故こちらを狙う?目的は何だ」
以前は会話が成り立たなかったとロザリアは言っていたが、今は向こうから話しかけてきた。それならと話の流れに乗って対話を試みる。
「普通の冒険者は
——キィンッ
そう言うと唐突に飛び掛かって来る。当然それはククリで受け、事前に決めた陣形をとる。俺が前衛、シャルはロザリアのフォローに入りながら、共に後衛を担当する。
だがあの大剣は予想外だ。そこそこの業物である可能性が高く、たった一合結んだだけでククリが刃零れしてしまう。長時間受けに回るのは危険だ。攻めに転じなければ。
すぐさま蹴りを放ち、敵との距離を空ける。衝撃で飛ばされはしたが、ダメージは負っていないといった様子だ。正直、見立てよりも苦戦しそうだ。
「「サンドニードル」」
シャルとロザリアの支援が入る。土系統の魔法だ。二人同時に発動したその魔法は、鋭い棘となり地面から敵を貫く。広範囲に展開している事もあって逃げ場は空中にしかない。当然それを読んで追撃するつもりだったが——
「ふむ」
敵は微動だにしなかった。にも関わらず全ての棘が到達したと同時に砕けてしまう。防御系魔法やスキルを発動した節も無い。これは、非常にマズいぞ。
「アイスランス」
「アイスバレット」
続けて二人で魔法を展開する。土属性の効果を打ち消す装備の可能性を考えたのだろう。今度は氷属性での攻撃。だが、それも先ほどと同じようにすべて砕けてしまう。
「⋯⋯娘の力はその程度か?もっと有るだろう、異能の力が」
そう言われ、嫌な予感が的中した事を知る。コイツは転生者の可能性が非常に高い。
「やっぱり、私の攻撃は全部通用しないわね」
以前遭遇した時、延々と引き分けた理由はコレだったのだ。魔法が通用しないという能力。正確な部分は分からないが、ロザリアの様な
「ふむ、その物言い、予知能力者の類か」
「ならば不要だな。次に期待しよう」
その言葉と共にこちらに迫りくる敵。非常にマズい。あの動きはこちらの命を取りに来ている動きだ。すかさずロザリアと敵の間に入り、再びククリで斬撃を受ける。だが——
「
——パキンッ
ククリが折れる。もう一度くらいは問題ないと踏んでいた自分の愚かさに呆れる。慌てて左手で攻撃を受けるが、それを見透かした様に敵は体術へと切り替え、こちらへの足払い。
「ぐっ」
なんとか持ちこたえ、体勢を戻した時には既に目の前に存在しなかった。
「ロザッ⋯⋯」
割って入ろうとしたシャルを蹴とばし、そのままロザリアは切り伏せられた。土魔法で強化された杖による槍術は意味をなさず、バターでも切るかのように、簡単に——
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます