異世界転生者殲滅す<チートスレイヤー>

六条

第1章

プロローグ

第1話

 ダンジョン、それは生物である。

 ダンジョンと呼ばれる生き物の始まりは、小さな食虫植物であった。


 突如世界に満ちた魔力という存在。あらゆる生命がその恩恵にあずかり、そうでないものは死滅していった。後の世に進化の時代、あるいは恩寵おんちょうの時代と呼ばれたわずか数百年の中で、彼もまた様々な能力を獲得し、成長していった。


 高濃度の魔力は驚くほどのエネルギーに満ちていた。土から吸い上げる養分より、捕食した獲物からエネルギーを得る方がよほど効率的だ。と食虫植物が気づくのにそれほど時間は掛からなかった。土から離れ獲物を狩るのもまた一興、と彼は捕食の技術を研鑽けんさんしていく。


 一つ目の幸運は、彼の撒いた種子が老いた大亀に喰われた事であった。

 ほどなくして死した大亀を苗床に、彼の種子は発芽する事に成功した訳だが、そこは楽園と言って良いほどの素晴らしい環境だった。


 腐肉から放たれる臭いは多くの獲物を彼に提供し、瞬く間に力をつける事に成功する。分厚く硬い大亀の甲羅は、そのまま彼を草食動物等の外敵から守る役目も果たした。しかしながらその甲羅は彼の成長も阻害する事となる。身体を成長させるにつれ窮屈になっていく甲羅の中。旅立ちの時が訪れる。


 二つ目の幸運、大亀が死した場所は小さな洞穴ほらあなであった。

 彼はそのままその洞穴を大亀の甲羅に見立て、そこで更に大きく育つ事を決意した。研鑽けんさんを重ねた食虫植物は、既に小動物を捕食するだけの力と腐臭を再現する能力を得ていた。更に大きく育ち、洞穴内を覆いつくすのにそれほど時間はかからなかった。


 三つ目の幸運、洞穴を大型の動物がとした。共存の始まりである。

 自身の力では彼らを捕食することは敵わなかったが、彼らもまた植物を捕食しようとはしなかった。それどころか、動物が捕食した他の動物のや彼らの糞尿を養分とすることで、時折現れる昆虫や小動物を捕食するよりも遥かに効率良くエネルギーの回収が出来るという事実に歓喜した。彼らが死なぬよう、長く棲み処として利用するように、より快適に生活できる環境を整える方が彼にとっては有用であった。


 この頃には彼はもはや植物と呼べる存在ではなく、粘菌に近い生物になり果てていた。魔族と呼ばれる生物が、心臓近くに生成する魔石と似たような器官の獲得にも成功したことで、それを司令塔として洞穴を調整し、環境を整える術も養っていった。


 そして四つ目の幸運、知恵ある者との邂逅かいこう

 洞穴の最奥に設置した司令塔に溜め込んだ魔力を、より効率的に扱う者が現れた。洞穴に侵入した外敵を殺傷するために罠を仕掛け、彼らが残した道具や装備、素材等を餌にして更に外敵を洞穴に誘因、殺傷を繰り返した。目的は排除では無く殺戮である。知恵ある者が何故そのような行動を取るのかは理解できなかったが、彼にとってはどうでも良い事であった。現状よりさらに効率よくエネルギーを回収し、巨大化してく事になんら不満も持たなかった。


 こうしてダンジョンとダンジョンコア、ダンジョンマスターと言う概念が生まれた。

 ダンジョンマスターは更に洞穴を改良し、何回層にも分かれた複雑な構造物を作り上げる。始めは手製であった罠の類も、ダンジョンが持つ魔力を巧みに利用し、侵入者から得られる素材で生成するようになった。


 ダンジョン自身が消化しにくい魔族の魔石を回収し、仮初の肉体を与え使役する等、ダンジョンだけでは考えつかないような複雑な技術も組み上げていった。


 食料の豊富な低階層やダンジョンマスターが存在しないダンジョン、まだ若いダンジョン等では昔ながらの共存方法を取る場合もあるが、現在では殆どのダンジョンで魔石を利用した使役を行うのが一般的となっている。


 粘菌の様な存在となり大陸全土に広がった彼らは、まとめて1つの生き物と言えなくもない。が、ダンジョンコアという司令塔を持たねば効率の良いエネルギー回収は行うことは難しい。その為、実質コア毎に1つの生命と考えるのが妥当とされている。魔力の噴出が収まり、大気中の濃度が安定した現在では、コアの生成には長い年月がかかる。人間が攻略可能なサイズでありダンジョンと定義されている存在は数える程しか存在しないが、大陸全土にその種子は存在していると考えて良いだろう。


 大陸内においては、突如ダンジョンが出現するという報告が多数見られる。実際には入り口の大きさや形を調整することにより、捕食対象を切り替えているというのが真実であろう。どのダンジョンでも最終的には人間が攻略可能なサイズに収まる所から、粘菌に近い存在になった彼らが地中下で情報のやりとりを行っていると考えるのが自然である。

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