閑話 排除すべき妻の味方(アナルド視点)

朝食の時間が来たので、食堂へと向かえばすでに席についていたシンシアと妹にあたるミレイナが食事をしているところだった。父はすでに食べ終えて、席を立っているらしい。

父の席の食事がすっかり片付いているのを見て、アナルドは正面に並んで座っている母娘を見つめる。


入ってきたアナルドを見て、二人は固まっている。まるで化け物に遭遇したかのように蒼白だ。


「おはようございます」

「え、ええ。おはようございます。アナルドさん、帰ってらしたのね」

「昨日の夜中になりましたので、挨拶もできませんでした。今日からしばらくはこちらにいますので」


席について、食事を始めれば、シンシアはぎこちない笑顔を浮かべた。


「旦那様から、先ほど伺いましたわ。でも、いつお話になられましたの?」

「父には朝いちばんに挨拶しましたよ。もちろん、了承も得ていますので」


実際には叱られただけのような気もするが、もともと妻を説得するように呼んだのは父なのだから、滞在の了承を得る必要もない。

アナルドは、柔らかなパンを咀嚼しながら、目の前の二人をそれとなく観察した。

邪魔者に思われているようだが、何に対してかが分からない。

バイレッタと仲が良いと報告書を読んだので、彼女のために自分を追い出さそうとしているのだろうか。


「あの…お義姉様とは何かお話になられましたか?」


遠慮がちに声をかけてきた妹に目を向ける。母譲りの金色の髪に、父と同じ水色の瞳を持つ少女に、アナルドは静かな視線を向けた。

少女の顔には怯えと恐れが見て取れた。

これまで会話などした覚えはない。

こうして話しかけれたことなど初めてではないだろうか。

かすかに震えている手元をみてもよくわかる。


自分が思っている以上に、妻は慕われているらしい。

つまり、排除すべき彼女の味方ということだろう。

小さな味方でも、集まれば厄介なことは過去の戦が証明している。侮ることも油断も許されない。


アナルドはふむと小さく頷いた。


「近況と、これからのことを少し話した程度です」

「そうですか…」


探るような視線は、今後のアナルドの態度を見極めようとしているかのようだ。少しでも妻に危害を加えるような素振りを見せようものなら、妹から何かしらの反撃を食らいそうだ。妹を排除しようとしても、同様に即座に妻に知られてしまうだろう。あちらは共同戦線を張っているということか。

対して自分の味方はひとまず父ということになるのか。


そもそも妻に危害を加えるつもりのないアナルドだが、危害という範疇にきっと囲い込むということも含まれている。自分の元から逃げ出すことこそ、バイレッタのためだと思われていそうだ。

まあ、自分という男がどちらかといえば碌でもない部類にあることは自覚しているので、あながち間違いでもないが、みすみす逃がすわけにもいかない。


何にせよ、戦いは始まったばかりだ。

アナルドは静かな闘志を燃やしながら、朝食を口にするのだった。

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