オカンな幼馴染と内気な僕
久野真一
プロローグ 友達以上、恋人未満
第1話 関西弁の幼馴染と内気な僕
僕、
髪が伸びるのが嫌なので、いつも髪を短く切り揃えている。
体格は細めで「真面目で内気な男子高校生」とよく見られる。
今は学校帰りで制服を着ている。
親しい友達にはコウと呼ばれている。
隣で固唾を飲んで見守っているのは、幼馴染の
ショートカットで茶色がかった髪、くりくりした瞳が特徴の可愛い女の子。
同じく学校帰りなので、セーラー服を着ている。
通っている学校が違うので、制服のデザインも違う。
そんな僕たち二人は、学校帰りに
【野菜の切り方で、植物の名前がついているものは、何切り?】
今は、出題されたクイズに、僕が答えあぐねているところ。
普段、自分では料理をしないからさっぱりわからない。
イチョウ切りが正しそうだけど、紅葉切りもあるかもしれない。
考えあぐねた僕を見かねたのか、
「コウ!正解はそれやって!」
「それって言われてもわからないから……」
僕にはからっきしだが、料理部の彼女にとっては得意ジャンルだ。
「5番!正解はイチョウ切りやって!」
「わかった!」
真澄に代わって5番の選択肢を押す。
ぴろぴろーん。
どうやら正解だったようだ。
「ほら。正解やったやろ?」
正解した真澄はドヤ顔だ。
「そりゃ真澄は得意だろうけどさ」
「ちゅーか、紅葉切りってなんやねん」
「いや僕に言われても困るんだんけど」
得意ジャンルに居ても立ってもいられなくなったんだろう。
「次はウチな」
「了解」
【織田信長が実行したとされる政策のうち、「正しくないもの」はどれ?】
「正しくないもの……どれやろ。
選択肢は、
1.
2.
3.
4.
5.
の5択だ。
むむむ、と手をあごに当てて考え込んでいる。
正解は「政教分離」なのだけど、ちょっと難しいか。
ただ、僕から口を出すのもなので、黙って見守る。
「コウはどれやと思う?」
「政教分離。1番だね」
「ほい」
真澄が1番の選択肢を押す。
ぴろぴろーん。
予想した通り正解だった。
「信長っちゅうと、宗教と政治を分けたイメージがあるんやけどな」
「よくある誤解。仏教勢力の活動も許したし、戦勝祈願も普通にやってるんだ」
「なるほどな」
得意ジャンルが違う僕らは正解について話しあったりすることもしばしばだ。
僕たち二人は周りからは、きっとカップルに見えているのだろうな。
悲しいかな、彼女にはそんな気はないのだけど。
◇◇◇◇
その後も対戦格闘ゲームやUFOキャッチャー、レーシングゲームなど、色々なゲームをプレイ。現在は、マグドナルドで休憩中だ。
「いやー、いい汗かいたわー」
「たいして汗かいてないよね」
ツッコミを入れる。季節は春先。
暑くなるのはまだ先のことだ。
僕はコーラ、真澄はマッグシェイクだ。
「真澄さ、それって喉かわかない?」
「今まで頼んだことなかったもんやし、試しにな」
それでも水分補給に飲むものだろうか。
「それ、もろてええか?」
「ああ。もちろん」
僕の飲みさしのコーラにあっさり口を付ける真澄。
間接キス。その言葉が頭をよぎる。
「美味い!コーラが一番やね」
「じゃあ、なんでマッグシェイク頼んだの!?」
「そういうのは、気分やからね」
軽やかに笑う彼女。
「ほい、コウ」
「ん?」
「マッグシェイク。ウチはコウのもろたし」
「いや、その……」
戸惑ったのをどう取ったのか真澄は、
「何を気にしとるん?」
不思議そうに、そう尋ねてきた。
ええい、ままよ!
ずずーっとシェイクをすする。
あっという間に残ったシェイクを全部飲んでしまった。
「……ぷはー。これでいい?」
「全部飲むとは思わんかったわ」
うう。顔が熱くなる。
◇◇◇◇
その後もウィンドウショッピングに付き合ったりして、気づけば夕方。
僕の家と真澄の家は狭い道路を挟んで真向かいにある。
だから、家の直前まで帰り道は同じだ。
横目で彼女の方をみると、心底楽しいといった様子だ。
「今日も楽しかったわー」
「それはなにより」
遊びに誘ったかいがあるというものだ。
「真澄はさ」
少し緊張しながら言葉を紡ぐ。
「なんや?」
「彼氏とか居ないの?そっちで」
この言葉を言うのは少し勇気が必要だった。
「うーん。特におらへんなあ」
「真澄ならモテると思うんだけど」
こんなに明るくて、親しみやすい女の子に人気がないわけがない。
僕の
「うーん。ウチはオカンやからなあ」
そう自嘲気味につぶやく真澄。
オカン、は関西弁でお母さんと意味する言葉だ。
「オカンっていっても、男子受けはよかったでしょ」
真澄とは中学から別々だけど、男女問わず親しまれていた。
男女分け隔てなく接することもあって、男子の受けも良かった。
「そやね。でも、ウチは皆が幸せな姿が見られれば一番よ」
「そんなものかなあ」
オカンというのは、昔からの真澄のあだ名だ。
皆の世話を焼くところから、母親ぽいっということで、
自然とそういうあだ名が付いたのだった。
何故、関西弁のあだ名がついたのかは未だに謎だ。
小学校の頃を思い出しても、意識している奴は多かったはず。
真澄の言には納得がいかないのだけど。
「それより!」
少し大きな声で、真澄が言う。
「コウはどうなん?男子校のそっちの方が心配よ」
言葉が突き刺さる。やはり、男として意識されていないのか。
「大丈夫。こっちはこっちでうまくやっるよ」
それだけを返す。
「いつでも話してーな。ウチは相談に乗ったるから」
真澄の優しさが少しつらかった。
自宅の前に着いた。
僕が中学になってからはいつもここでお別れだ。
昔はお互いの家に遊びに行ってた。
でも、中学になってからはどこか踏み込めずにいる。
「誘ってくれて嬉しかったわ。また今度なー」
そう笑顔で手を振る彼女。
「うん。また今度ね」
僕も笑顔で手を振り返す。
ほんと、この時間は少しだけつらい。
◇◇◇◇
家に帰って、ベッドに突っ伏す。
「心配、か」
そうひとりごちる。わかってはいたのだ。でも、
『あなたを男性として意識していません』
のに等しいその言葉は少しきつい。
真澄を異性として意識し始めたのはいつだっただろうか。
幼い時から一緒に居た真澄を、気づけば好きになっていた。
「真澄はほんとに彼氏が居ないのかな」
あれだけ人懐っこい性格で、容姿も良い。
僕のひいき目はおいといても。
思春期の男子どもが放っておくはずがないのだけど。
でも、真澄は昔から嘘をつくのが嫌いな性格だ。
今更そんな嘘を言うとも思えない。
ということは、真澄にその気がないということになる。
一体どういうことなのだろうか。
(ほんと、真澄は一体何を考えているのかな)
そんなことを考えながら、眠りについたのだった。
◇◇◇◇
その夜、私は部屋で一人物思いに浸っていた。
(やっぱりコウはウチの事意識してへんのかな)
私と、コウこと松島宏貴は、同じ小学校で育った幼馴染だ。
故あって、中学からは別の道を歩いている。
私が彼の事を意識し始めたのはずっと昔のこと。
別の進路に進むとわかった時は、落胆したのを覚えている。
そんな中でも、彼は毎月のように私を遊びに誘ってくれる。
もちろん、私が断るわけもなく。
彼と過ごす一時はとても楽しいけど、家の前で別れるときは寂しい。
(どうすれば前みたいに一緒に居られるんやろうか)
そんなことを考えながら、眠りにつく。
彼を振り向かせる方法を考えながら。
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