第4話 明日のプラン
母さんの話によると、おばあちゃんが
自分の命が救えて、他の人の命も救えるなんて素晴らしい能力だけど、そうしないと時計の針が未来に進まないのはちょっと厄介だなあって思ってしまった。こんなことを思ったことが母にばれたらこっぴどく叱れるので、絶対に内緒だ。
この能力を持っている人たちは、幼い頃、それを制御できなくて、命に危険がない時でも同じ時間を繰り返すことがあるみたいだ。だから、僕も幼い頃、頻繁に過去ループを繰り返し、それを僕が混乱しないように母さんはデジャビュ(既視感)だと教えたらしい。もちろん母さんも幼い頃、おばあちゃんからそう教えられたそうだ。
さて、この能力の秘密は分かったけど、問題はどうやってあの事故の犠牲者たちを救うかだ。明日の朝までにその方法を探し出し、それを実践しなきゃならない。それを考え始めたら、すごく不安になった。なんだか、僕の両肩にとてつもなく重い物を乗っけられている気がした。
そのとき、母さんがくれたアドバイスが、僕の不安を吹き飛ばしてくれた。
「…カヲル、今はとっても不安だよね。母さんも同じだった。でもね、大丈夫! 母さんだって、何回も何回も失敗して、何回も何回も大勢の人を死なせちゃったけど、最後にはみんなを救えた。カヲルだって失敗を繰り返せば必ず最後はみんなを救えるよ!」
何度もの失敗を前提にしたアドバイスに、少し頭がクラクラしたけど、それより「失敗していい」ってことに、僕はとても勇気づけられたし。少し気が楽になった。
「よし…、がんばるか!」
僕はまず、何を変えられるかを考えてみた。
脱線事故が起きる時間? 反対側から電車が来る時間? それを変えられれば衝突事故は避けられるかもしれない…。
いやいや、日本の電車ダイヤは世界一過密で、世界一正確だ。電車が行きかう時間を変えることなんて僕には無理だし、それにもし事故の時間を変えるために運行時間を変え、僕が乗るあの電車が事故を避けられたとしても、他の電車が事故に遭ったら意味がない。
なら、あの車両から乗客を避難させる?
脱線した車両がくの字に折れ曲がったのは、あの車両だけだ。他の車両も横倒しになっていたり斜めになったりしていたけど、人が亡くなるほどの被害はなかったはずだ。それに、1車両の乗客を他の車両に移動させるくらいなら僕にもできそうだ。
「乗客を他の車両に移動させる方法…、方法…、方法…」
いくつものプランを考えてみたけれど、どれもうまくいきそうもない。
僕は考え続けた。
「…よし! 明日はこのプランでいこう!」
僕が思いついたプランは少しあぶないものだったけど、人の命を救うためだから多少のリスクは負うしかない。僕はこのとき、まるで人々を救う正義のヒーローにでもなったような気分だった。
でも、僕は明日から、この能力の厄介さを嫌というほど味わうことになるんだ。
デジャビュ 高ノ宮 数麻(たかのみや かずま) @kt-tk
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。デジャビュの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます