1-33 奇跡的相性まりあーじゅ


俺の熱のこもった説得の末、フィーナが目隠ししてくれることになった。

正直了解してもらえるとは思っていなかったので、意外な気持ちの方が強い。

美味しいご飯を与えたら大概のことを許してくれるあたり、フィーナの食い意地には太い筋金が入っているに違いないし、それを利用している自分に後ろめたい気持ちがないでもない。

とはいえ、折角の機会なので、是非目隠しはしてもらうのだけど。


「あの、自分でできますから、大丈夫です…」


フィーナにタオルを巻いてあげようと近づいたら、やんわりとタオルを取られてしまった。


「その…本当に変なことしないでくださいね…!」

「大丈夫だって!俺はただ料理をするだけなんだからさ!」

「絶対ですよ?変なことしたらまたスコップで叩きますからね?」

「う、うんー…」


それ、殺害予告ですょ…。

フィーナさんは気付いてないかもしれませんけど、俺、前回ちゃんと死んでますからね…。

洒落のつもりなんでしょうけど、全然洒落になってないですからね…。


ともあれ、俺の目の前で目隠しをするフィーナ。


「…」


タオルの衣擦れの音だけが怪しく室内に響く中、その様子を眺める俺。


フィーナは髪の毛が掛からないように、タオルを巻く前にまず一度髪をまとめた。

長い前髪は耳に掛けて、後ろ髪も数回、簡単に手で梳いて流れを作る。

揺れるたび、輝くように光を反射する金髪に思わず目を奪われる。


軽く髪を整えたら、いよいよフィーナは両瞳を閉じてタオルの生地を目蓋の上に被せた。

タオルの両端を後頭部で縛り上げて、タオルに挟まれた短い前髪を摘み出し始める。


「………」


ただ見入ってしまう。

見入る理由はフィーナの顔立ちが整っているというのもあるだろうが、そもそもとして、所作が美しい。

この子は食事をすぐに平らげたり、ホワマリンを目の前に出されると忘我して少女とは思えないあられもない表情をしたりもするけれど、基本的には姿勢や言葉遣いなどの立ち振る舞いは良いのである。

きっと親御さんの教育の賜物なのだろう。


「はい、これでいいですかっ?」


タオルに視界を奪われたフィーナは、少し不安げに机に手を置くと、俺に問いかけてきた。


「あ、あぁ。大丈夫。どうもありがとう」


だが俺が見入ってしまった理由はそれだけではなかった。

なんだろう…。

所作が美しいと思うと同時に、なんだかちょっとドキドキしている自分がいる…?

ドキドキというか、なんだ、興奮する?

え…あれ?


「美味しいご飯のためだからですよ?変なことしちゃダメですよ?」

「うん…大丈夫、です」


俺の目の前には目隠しをして椅子に座るフィーナ。

こう言っては何だが、なんだろう。

頼りなさげにして無防備な感じが、凄くなんていうか、こう。

俺に響いている…?


「……」


きょとんとした表情で微かに首を傾げるフィーナ。

仕草の一つ一つが俺の何かを刺激する…?

俺にはそういう趣向はないハズだったのに…?

あれ、これ、俺、なんか、変な扉を開けさせられちゃう?

フィーナによって無理やりこじ開けられてしまうの…?


「あのー…」

「あ、はい!はい!どうしましたっ」

「わわ、ゲンキさん、声がおっきいですよ…!あの、お料理、されないんですか…?」

「いえ、します!すぐにお料理します!」

「はい、お願いしますっ」


目隠しされた状態でニコッと笑うフィーナ。

その瞬間、フィーナから眩い後光が差して俺の目が潰れた。


く、くあぁぁぁ!?

笑顔が眩しい!!?だと!?

なんだこれ!

なんだこの組み合わせ!?

俺が俺を保てなくなっている…!?


気付けば俺は床に片膝をついていた。

馬鹿な…!

この俺が…この俺がたかが幼女一人に屈服し掛けているだと?!

危険だ…!

相変わらずフィーナは大変危険な存在ですよ…!

一刻も早くこちらのペースに戻さなければ。


ズン!っと、力を込めた拳を床に突き立てて、どうにか俺は立ち上がる。

そのままフィーナをできるだけ視界に入れないようにして調理台へと向かう。


ク…。ククク……。クククク……。

やってくれましたねぇフィーナさん…。

今のは少々驚きましたよ…。

ですが今夜地に這うのは私ではありません。

今夜堕落するのは貴方です!


アイテムボックスから秘密兵器(ギュードトンの肉)を取り出して、堂々とまな板の上へと放り出す。


さぁ…こちらの反撃だ。

覚悟しろ…フィーナぁぁ!!

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Hello dream world 西木ノ木一 @nisikinokiichi

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