1-31 乳白石のイヤーカフス②


「あ、ゲンキさん!お帰りなさいです!今日はお戻りが早いのですね!」

「ん、ただいま」


俺が帰宅すると、フィーナが家のすぐ表で出迎えてくれる。

傍には俺が出かけている間に釣ったであろう魚の山が、連なったバケツに積み上げられていた。

フィーナは釣りが1段落したようで、家の隣に追加で作った燻製小屋に運び込もうとしている最中だった。

明日旅立とうと言っているのに、今日また魚を燻そうとする辺りフィーナの食い意地には恐れ入る。

明日の出発前に魚の取り込みという仕事ができてしまうじゃないか…。


「…今日も沢山獲れたねー…」


野暮な気持ちを押し殺して、俺はフィーナに話しかける。


「はい!師匠が良いお陰ですね!」


確かにフィーナに釣りを教えたが、僅か五分で師匠を抜き去っていった釣りの天才児が言っても説得力は感じない。

ただ、素直に慕ってもらえることは悪い気はしない。


「そうか…。じゃあ弟子を手伝ってあげるかな」


そのお礼と言うわけではないが、フィーナを手伝うために魚を積まれたバケツの取手を両手で一つずつ掴む。


「ありがとうございます!」


笑顔で答えるフィーナとは裏腹に、釣り上げられた魚の山を運んでいると、この湖の水産資源の枯渇フェーズがまた一つ進んでしまった気がしてくる。


悪りぃ魚!明日の朝には旅立つつもりだから、もう少しだけ耐えてくれよな!


俺は燻製小屋に入ってフィーナと一緒に魚を吊るしながら、湖に残された魚たちに念を送った。


「あれ、ゲンキさん?」

「ん?」

「それ、どうされたんですか?」


燻製小屋にバケツを置いて、早速魚を吊るす掴むために屈むと、フィーナが疑問を投げかけてくる。


「それ?…どれ?」

「それです、その、お耳の…」

「あ、あー…!」


俺はテンに付けてもらった右耳のイヤーカフスに触れる。

俺の視界には映らないから、何のことを言われているのかわからなかった。


「これはなんていうかー、えっとー」


妖精のテンがくれたと言ってもいいものだろうか。

妖精は人間と関わり合いたがらないということを言っていた気もする。

するとあまり事情を話さないほうがいいのか?


「ひ、拾ったんだよね。それでなんかいい感じだなーって思って、付けてて…!」

「へえー、そうなんですか?」


フィーナが瞳を覗き込むように見つめてくる。

その目、何か俺を疑っていますね?

確かに妖精のことを話題に出さないようにしようとしているけれど、俺自身はフィーナに対してやましいことなど一つもない…!


「…どこで拾ったんです?」

「え?んんっと…か、川?川だった気がするな確かっ」

「川…」


この広大な世界のどこで拾ったかなんてそんな問題だろうか?

フィーナは変に勘が働く時があるから、隠し事がある時は厄介だ。

今度は耳に付いたイヤーカフスをじっと見つめている。


「ゲンキさん…これ…」

「な、もういいだろ?ほら、魚干さなきゃいけないしさ!」


これ以上詮索されるとうっかりテンのことを白状してしまいそうな気がしたので、魚を手に立ち上がる。


「あ、まだ見てる途中ですっ」


身長差があるため、俺が立ち上がるとフィーナはイヤーカフスの観察ができなくなる。


「また後でな」

「あともう少しだけですから」

「ダメダメ。また後で」

「えぇー。ゲンキさん、ケチです…!」


ケチと文句を言われても、詮索をされたくない気持ちがあって話を打ち切る。

しかし、後でとは言ったが、本当に後で詮索されたらどうしよう。

名探偵フィーナの追及…これはちょっと、誤魔化せないかもしれない。

このカフスの件を誤魔化すために、早急に何か手を打つ必要があった。


そう。

そんな考えを吹き飛ばしてしま程うインパクトの強い何かが必要だ…。

アイテムボックスを開くと、そこにはギュードトンの生肉。俺の目線でこのアイテムが眩い輝きを放ち始めていた。

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