1-18 テン①


どうしたらいいかが分からずに、空を眺めて揺蕩ってたら、突如背後から話しかけられた。

俺は思わず驚いて、寝転がっていた体を無理にひねる形で振り返っていた。


「でんがな〜?」


そこには不思議な顔して中空に浮かび、俺を見下ろす何かがいた。

そいつは蝶みたいな羽を背につけた30センチくらいの全裸の黄色い妖精だ。

羽は接着剤でくっつけたみたいに動かないでいるのにふわりと空に浮いている。

出っ歯が特徴でちょっとおっさんぽい顔つきだ。

良くいえば愛嬌のありそうな顔をしている、と言えるのだろうか。


なんだこいつ胡散臭い。

それが俺の第一印象だった。

だが話しかけてコミュニケーションをとってくるという事は、少なくともモンスターの類ではないのではないのだろう。


「旦那さん〜?お困りでんがな〜?」

「お、おぉ・・・・まぁ、困っているといえば、困ってるかな・・・?」

「でっしゃろー?そうだと思いましてんねん!!そしたら旦那さん、アテが何とかしたりまっしゃろか?」


適当な関西弁風な喋り方に、ますます胡散臭さが加速する。


「なんとかって、お前、何かできるのかよ?」

「ハッハーン!あったりまえでんがな〜!アテに任せておけば万事ヨロシク上手くいきまんがな〜!」

「あー、はぁ・・・」


フィーナとのファーストインパクトも中々だったが、この変な妖精は掴みどころがない。

『クラフターズ』に登場するNPC達は何をしたいんだろう。

だが助けてくれるといっているのならそれを拒む理由もない。

胡散臭さは漂うが、元々帰るための手立てもなかったし駄目で元々か。


「よし、じゃあ頼む!俺を助けてくれないか」

「お!流石旦那はん!思い切りがいいでんな!任せておくんなまし〜!でもその前にっ」


妖精は俺の目の前に回り込んで地面にちょこんと着地する。


「自己紹介が先でんなー。あての名前はテンいいまんねん!よろしくお頼み申しますっ」


テンは両手を差し出して握手を求めてくる。

俺は寝そべった姿勢から座り直して向き合うと、右手の人差し指を差し出してそれに応える。


「俺はゲンキ。よろしくな」

「はいな〜!」


小さな両手が俺の指先を掴んで上下に振るう。


「それで〜、旦那さん、どんな風にお困りでんがな〜?」

「道に迷って家に帰れなくなった」

「ほほぉ〜!」

「夕方までには帰りたいんだ」

「ははぁ〜!」

「もし帰れなかったら自殺するわ」

「どえぇー!?」


俺の発言にテンが目を点にして驚く。


「な、なんででんがな〜!?」


恐らく、俺が帰らぬままに日が暮れた場合、フィーナが本格的に心配し始めるだろう。

ひょっとしたら最悪の場合、俺を探しに家の外に出てしまうかもしれない。

半魚人の襲撃の時を思い出すに、フィーナに戦闘能力は皆無だった。

そんなフィーナが夜に一人で歩くなんて・・・。


全て仮定に過ぎない可能性だが、最悪の事態が想定される以上、いざとなったら俺は自死も辞さない覚悟でござる。

そんな侍の如き不退転の気持ちを伝えるためにテンに自害を宣言しておく。


「何が何でも、どうしてもなんだ。とにかくタイムリミットは夕暮れまで。日が暮れたら俺は即座に死ぬ!」

「ひえぇ、旦那さんは太陽の光がないと死ぬ種族だったりするんでっか〜?」

「いや別に。でも夕暮れは絶対条件なんだ。頼む!!」


俺はテンの体を両手で掴んですがる。

うちにはお腹を空かせた育ち盛りの子がいて、その子にお肉を食べさせてあげたいんだ。

頼むわけのわからん妖精!俺を助けてくれ!

俺はテンを両手で揺さぶり説得する。


「な、頼む!なんとかしてくれ!!」

「あ、あわわわわぁー・・・!わ、わかりましたがな〜・・・」

「助かる!サンキューテン!!」


目を回したテンから了承の返事をもらう。

よし、俺の命はお前に預けた!


「お気軽な人助けのつもりが、一瞬で責任重大でんがな〜・・・」

「巻き込んじまってすまないな。でも助かる!」

「うぅ〜、しかし、もし夕方までにおうちに辿り着けなかったらほんまに死ぬんでっか〜?」

「あぁ、死ぬ。お主の目の前で即座に自害する覚悟!」

「ひぇ〜!」


出会ってすぐのテンにはちょっと申し訳ないと思うけれど、事情が事情だけにここは譲れない。

俺はフィーナのためなら己の命などいくらでも投げ捨てる所存!!



当然、死に戻りできる前提があってのゆるーい覚悟なんですけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る