1-11 蒼い決意


「やりたいと思ったから・・・ですか」

「そうだよ。俺は家が作りたかったんだ」


席から立ち上がって、俺は窓に向かって歩いて行く。


「誰にも何も言われない、人とはあまり関わらず、豊かな自然を楽しめる俺だけの秘密基地が欲しかった」


窓に手を当てて外を見る。

月も出ていない夜だから、視覚に補正の入る狼男でも大まかな輪郭が見えるだけだ。

俺はフィーナの方へ振り返って、言葉を続ける。


「それで、ここでログハウスを作り始めた。ここ、結構良い場所だろ?」

「はい。ホワマリンが沢山取れる湖の近くで、とても素敵だと思います!!」


まぁ、それは偶然なんですけどね。

食糧に関しての話が素敵ポイントとして出るあたり、実にフィーナらしい。


俺は微笑みながら窓へと向き直り、再び外を見る。

今は暗闇でわからないが、この窓から見える景色ではフィーナお気に入りの湖が見える。

その水面に日差しがあたり、揺らめく水面に反射されて眩しく輝く。

風が吹けば木漏れ日がはしゃいで世界に彩りを与える。

清々しい自然の情景が癒しを与えてくれる。

ここは本当に素敵な場所だ。


「でも、偉そうなこと言ってるけど・・・俺も最初はもっと別の場所で作りたかったんだけどね。だから、妥協もなかったわけじゃない」

「別の場所、というと、もっと街とかに近い場所ということでしょうか?」

「んー、ま、そんなもんかな・・・」


窓の外の暗闇を見つめて、俺は思う。

こんな環境が、現実でも手に入ったら最高だろうな、と。

世間のしがらみや、仕事の鬱陶しさを忘れて、ただゲームを楽しむ生活ができたらどれほど幸せなのだろう。


でも現実はあまりにも非現実的だ。

家を買うなんて途方も無い金がいるし、そんなアテは無い。

もし仮に手に入ったところで、生活のための仕事に追われる俺にとって、自然豊かな場所まで行ってゲームを楽しむ時間は僅かしか無いだろう。


だから俺は、俺の願いを叶えるために、叶えるられる方法を選択した。

今の狼男としている俺は、代償行為として始めた『クラフターズ』の結果かもしれない。


そんな後ろめたい気持ちに気付いて、俺はフィーナに発端の気持ちを申告をした。

フィーナに言ってもわからないだろう言い方で、ただ自分の中で悔いるために。


「色々な世界があるんですね!ここよりも素敵な場所なんて、私、想像できなくって」

「ここよりも良い場所なんて、無かったよ」

「え?」

「ここは妥協をした場所って、俺も始めるときはそう思ってた。でも、実際にこっちで家を作り始めたら思ったんだ。あぁ、こっちで家を作ってよかったって」

「そう、なんですか?・・・それは、でも、やっぱりそちらで作ってみたらそんな風には思われないのでは?」

「そんなことないよ。ここで始めたからこそ、俺は予想外の相棒に出会えたわけだろ」

「・・・え?」


代償行為としてのゲーム。

そう捉えられるかもしれない。

確かにスタートはそうだったかもしれない。

でも俺はゲームを初めて楽しかった。

それも、心底楽しかった。

今、時計の針を過去に戻して二つの道が自由に選べるとしても、フィーナが出てくるなら俺は『クラフターズ』を選ぶだろう。


「あ、あの・・・それって、その・・・」


フィーナは照れ臭そうに身を竦めている。


「今の相棒ってその、わ、私のことでしょうか?」

「あぁ、そうだな」

「あ、あぁ・・・。アハハ、あ、ありがとうございます・・・!」


テレテレとしているフィーナ。

なんだか新鮮だ。

でも想定外の反応になんか、俺もちょっと恥ずかしくなってきちゃうだろ。


「まぁ、そんなわけで質問の答えは『やりたかったから、やった』だな」


俺はフィーナの頭を右手で鷲掴みにして、ぐいぐいと撫で回す。

普段はこんなことはしないけれど、何かをして照れ隠しをしたかった。


「あ、あう、あう、あうぅー!」

「だから、フィーナもやりたいことがあるなら、必ずやっておいたほうが良い」


4、5回頭を揺さぶって手を離す。

フィーナもあまり抵抗なく受け入れてくれたあたり、俺と似た思いがあったのかもしれない。


「どんなやり方であれ、目的に近づこうと行動すれば何かが起きる。俺はそう思うよ」

「はぃぃー・・・」


俺は席に戻って石碗に残ったスープを飲み干す。

その間に頭を振って感覚を戻したフィーナは、食事をする俺を見て微笑んでいる。


「・・・どしたの?」

「いいえ・・。ゲンキさんはやっぱり変な狼さんですね」

「そうか?」

「はい。初めて会った時から、変な狼さんでしたけど、やっぱり今も変な狼さんです」

「そうか」

「あと、変態さんでもあります」


ほう?お若いの、もう水に流したハズの過去を持ち出すつもりかの?

戦争じゃぞ?

『フィーナが俺になんでもしてくれる制度』の復権をかけた戦争が起きるのじゃぞ?


「ゲンキさん。私、やりたいことがあります」

「・・・うん、なんだい?」

「自分の国に帰ろうと思います」


先ほどまでとは違って、真っ直ぐと俺を見ている。

彼女の大きな蒼い瞳には意思の色がよく映えて、とても綺麗だった。

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