第17話 甘え上戸
僕とロザリーが一口お酒を飲んだ。ここら一帯のブドウ畑から収穫された少し渋みのあるワインでとても大人の味がする。少しアルコールが強い感じがして耐性のない人が飲んだら悪酔いしそうだ。
幸い僕はお酒に強い体質なので悪酔いの心配はないがロザリーはどうだろうか……
「ラインきゅーん」
ロザリーが僕に覆いかぶさってきた。僕の両手を組み伏せて完全に抵抗出来ない状態へと追いやられてしまった。僕の力では到底抜け出すことが出来ない力に少しでも足掻こうとじたばたするも、ロザリーはそれに対して全く動じない。
「えへへー。無駄だよー。大人しく私に食べられなさい」
完全に肉食獣のような眼光をしているロザリー。まずい、彼女は完全に酔っぱらって理性のタガが外れている。
「それじゃ頂きまーす」
ロザリーは僕の首筋にガブリと噛みついた。そのままの勢いで僕の皮膚の柔らかいところを吸血鬼のように強く吸い出す。彼女の口の粘膜の感触がなんだかこそばゆくて全身の毛穴を逆なでされているような感覚を覚える。
やがて彼女が満足したのか僕の首筋から口を離してくれた。その時の彼女の妖艶な表情を見ると少しドキリとしてしまった。このまま彼女の成すがままになってしまうのも悪くないかもしれないと思えるくらい魔性の微笑みを僕に見せるのであった。
「ふふふ。キスマーク……付けちゃった。これでラインきゅんは私のものだって皆にアピール出来るね」
ロザリーの唾液が付着した部分が風に吹かれてなんだか少し冷たい感触がする。彼女の唇と舌の感触、歯を立てられる痛みがまだ余韻として残っている。
「ロ、ロザリー……キスマークは内出血なんだぞ……決して体にいいものではないのに、そんなものを衛生兵の僕につけるなんて」
「そんな難しいこと言われても私にはわかんないもーん」
ロザリーは全く反省の色を見せてない。小悪魔的な微笑みで僕を見下ろすだけなのだった。
「そんな堅いこと言ってないでさー。もっと楽しもうよ。お酒でも飲んでさー」
ロザリーは再びお酒を口につけた。そのまま僕の方に顔を近づける。この距離感はまさか……
「ん」
僕とロザリーの唇と唇が触れる。ロザリーの舌が僕の唇をこじ開けてその中にエタノール臭のする液体を流し込まれる。僕の思考回路は完全に狂ってしまった。状況がよくわからない。ただ僕に出来るのは口移しで流し込まれていく液体を飲むことしか出来なかった。
頭がボーっとする。僕は酔ってしまったのだろうか。お酒に強いはずの僕が、こんな経験はするなんて思いもしなかった。
「美味しかった?」
ロザリーの問いかけに僕はこくりと頷いた。自分でも何がなんだかわからない。ワインの味を感じたのかどうかさえ、頭の中がもやもやとして全くスッキリしない。ただ、一つわかるのはこれは決して不快なことではないということだ。
「ねえ、ラインきゅん。ロザリーもお酒飲みたくなっちゃったなー」
ロザリーが誘うような目で僕を見ている。半開きになった口がとても艶っぽくて思わず吸い込まれてしまいそうなほどだ。
「ねえ、飲ませてくれるよね?」
僕の理性のタガもとっくに外れていたのだろう。僕はワインを口に含みそのままロザリーと口づけをかわす。ロザリーも全く抵抗せずに受け入れて、僕から流し込まれる液体を喉を鳴らして飲み込んでいく。
僕の口の中のワインが終わっても彼女は僕を抱きしめたまま離してくれなかった。このままずっとキスしていろという意思表示なのだろうか。
「ん!?」
ロザリーは急に僕から体を離して、素早く木陰へと移動した。そして、地面へ顔を向けて思いきり見てはいけない物体を吐き出してしまった。
「ぜーはー……よ、酔いすぎた……」
吐いたと同時に甘えん坊スイッチが切れたのだろう。いつもの女騎士ロザリーの声色に戻った。
「ラ、ライン……すまない。水を持ってきてもらえるか」
「うん。わかった」
僕はロザリーに水を差し出すと彼女はそれをちびちびと飲んだ。
「はー……ありがとう。少しは楽になった」
そうは言っても彼女の顔はまだ少し青ざめている。しばらくは安静にしてないといけないだろう。
「その……見っともないところを見せてしまったな」
「ううん。僕の方こそごめん。団の皆の健康を管理する衛生兵の立場なのにこんなになるまで酔わせちゃって」
ロザリーがここまでお酒に弱かったのは計算外だった。これからはロザリーにはお酒を与えないようにしようと僕は誓った。
「ライン……その……キスマーク付けちゃったけどどうしよう」
ロザリーが平静になった途端、自分のしでかしたことの重さに気づいてしまったようだ。このキスマークを誰かに見られたら大変なことになる。どこで誰につけられたか確実に質問責めにあうだろう。
「んー。キスマーク自体は一週間もしない内に治るから、それまでガーゼで隠しておけばいいさ。怪我したって言い訳するし」
「すまないなライン……本当に迷惑かけて」
「いいよロザリー。そんなに気負わないで。ロザリーを迷惑だなんて思ったことは一度もないさ」
「ありがとうライン」
こうして僕とロザリーの二人だけの宴会は幕を閉じたのであった。
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