槍の又左一代記

依田cyber良治

第1話 槍の又左一代記

僕は金沢在住の中学二年、前川右左。

名前の通り右も左もわからない若僧です。父の影響で若い頃からあらゆる格闘技をやらされて…本当に手のつけられない父でして、毎日アザが絶えない日々を送っています。

勉強は物覚えが良いせいか、普通に授業を受けて居れば学年トップをとれたりします。

あ、自慢じゃないですよ。


でもなあ、今の令和の時代で格闘術など役にたたんやろ!


そう思いながら、今日も授業を終えてとぼとぼと、自宅へ帰ります。

『はぁ、またあの地獄の稽古か。せめて今日こそは父から一本とるぞ!』


そう、固い意志を込めて右左は一歩一歩自宅へとむかうのでした。


『ただいまー!』すると陽気な母が。

『右左ちゃん!おかえりなさい♪』と駆け寄って来ます。


ぎゅうぎゅうとバグするので、慣れてはいるけど息ができひん。


そっと母を押しのけると、これまたなんとも悲しそうな顔をするんですよ、いい加減子離れさせんとなあ。


『右左ちゃん!今夜はハンバーグだよ!道場でお父さんまってるから、早く着替えて稽古に行きなさい♪』


出た、明るい地獄への導き。


『母さんわかったよ!すぐ着替えてくるね!』


僕は2階の階段を上がると自室へ入り道着に着替える。そして、バタバタと階段を下りると、父が待つ道場へと向かうのであった。



『父さんお待たせ!生徒さん来るまで時間無いし、早速組み手しようよ!』


『右左。昨日みたいにへっぽこな組み手したら、ぼこぼこにするからな!真剣に来い!』


『あ、父さん昨日の手はもうわかったから、今日は通用しないよ!』


『偉そうに、良し!始めよう』



すると、父は長槍を手に取った。

僕も長槍を手にし互いに向かい合う。


(あれ、なんか父さん隙だらけだぞ。いや誘いか?)


僕は大きく槍を振り回し、フェイントを入れながら父のみぞおちへ突きを繰り出す。


『ぐほぉ~』


(はい?え?なんで避けんの?)


道場の床を悶絶して這いつくばる父は、げろげろと胃液を吐き出していた。


(マジかあ。いきなり一本とれたよ)


しかし、父である僕は残心の構えを解かず、父の回復を待つ。


『ぐおおおおお』父が斜め上に回復をした!


(やべ!マジモードで来るぞ!)


僕の警戒心が全力で悲鳴をあげる。



『やってくれたな!』


一分の隙のない構えをみせた父は、手加減などない猛攻をしてきた!


(ちょい、ちょい、ちょいまちー!)


僕は必死でいなし、槍を打ち払い猛攻をしのぐ。


すると、ふと父が静寂な構えをした。



(なんか、するつもりやん。なんなん?)



ドス!!!!



僕は父の残像だけを捉えて、痛みさえ感じず意識を手放した。







『おい、又左』

『おい!又左起きろ!信長さまがお呼びだぞ!』


(ん?だれ?)


すると、激しい頭痛とともに膨大な記憶が頭に流入してくる。


『あたたたたた』

『なんだ、二日酔いか?』

『酒などのめないでしょ、未成年だし!』

『未成年???なんの話しだ?』



(噛み合ってない…)


『信長さまがお呼びだから急げ!』

『はい!』僕は信長の元へと早足で向かった。


『又左でございます!』

『やっと来おったか、こやつめ。まあ、よいちこうよれ!』

『ははっ!』


(ついてけるかやー?)


『良いか又左!此度は急ぎ戦がある!そなたには初陣であるが、必ずや功を上げるように。』


『初陣!ありがたきお言葉、私又左存分にはたらいてみせますぞ!』


『で、あるか。下がってよい』



さて、意外と小柄な信長だったけど、あの確信めいた殺意はやべえな。


そして、僕は記憶として流入してきた知識、記憶に基づいて調練場へと向かうのでした。



(この時代の格闘術、個人の武力レベルが知りたい!)



格闘ジャンキー思考である。




調練場では、皆が盛んに組み手をしている。

これは準備体操みたいなものである。


『又左!来たか相手をせい!』

(柴田勝家やん。。)

『ははっ!』


木刀での調練である。

(でかいなあ、僕も大きい方だけど)


『いくぞ!又左』

行きよいよく勝家が飛び込んでくる。


(ほえ?弱い)


僕はさっと身をかわし、右足をちょんと前に出す。


『うおえ!』見事にぶっ飛んでく勝家。


ズザサー


『おのれ!又左やりおったな!もう、手加減はせんぞ!覚悟せい!』


と、同じような打ち込みをしてくる。

(レベル低!)

僕は木刀をすりあげて、いなし勝家のみぞおちに、八極拳の裡門頂肘を軽く当てる。


ドーン!ぶっ飛んでく勝家、そして動かなくなった。



周りで見ていた者達が、顔を青くしている。



(あれー。空気壊してるなあ)



僕は『戦は近い!次の相手はだれだ!』


『………』


(無言かい!)



仕方がないから、素振りや型を色々稽古しよう。令和とは違い、この時代は生き死にがかかっている。何としても生き延びて金沢に帰ろう。


そう固く決意するのであった。

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