学び舎はデジタルベーシック

経営会議終了後、

専務から、相談があると言われ

建築部長と

アカデミアプロジェクトリーダー

次長の三名が

そのまま会議室に残った。


ベテラン専務

「どうやって教えるのか?」

「こんなこと、全部

手取り、足取り教えていたら

時間がいくらあっても足りないよ」


その通りである。

しかし、裏を返せば

本来教えるべきことを、

教えきれていない、あるいは

人によってバラバラだった

だから、

若手は育ったり育たなかったり

最悪の場合、辞めていくのだ。


以前、総務チームと取り組んだ

「自社再発見プロジェクト」 。


そこで、再確認した一つが、

若手が辞めるのは、

なぜか入社三年程度が圧倒的。


この理由の一端が見えたような

気もする。


しかし、これは

必ずしも教える側の

責任ばかりではない。


工法の多様化や

法的書類作成の増加など、

教える時間が取れないほど

現場所長クラスは多忙なのだ。


専務が言いたいことは

そこだろう。


「以前から話していた

動画教育を軸にしたいと

考えています」

専務の教えを受けた愛弟子でも

あるリーダー次長は、

恐縮した感じでそう答えた。


解決の鍵は「教え方の改革」。

一言で言えば、デジタル化である。


現場で必要な知識は無論

技能や技術を見える化し、動画を

利用して教えるのである。


すなわち、

「いつでも、どこでも、繰り返し」

覚えることができる教育である。


それは

「教える人で差がつく」という

マイナスの現実も回避できる。


「それは分かるが、

現場で実際に教えないと、

身につかないのでは?」

専務の心配ももっともである。


当然、現場でしか教えられない

あるいは、現場で教えるからこそ

身に付くこともあるだろう。


しかし、

「意外とデジタルでやれますよ」


次長リーダーは、笑顔である。


なぜなら、税理士の所長先生に

ご紹介頂いた、ある工事会社の

「新人向け工事動画教育」が

素晴らしい成果を上げていることを

確認したからだ。


「極端に言えば、従来の半分程度の

時間で、現場でしっかり仕事が

出来ているのです」


「会社に学び舎をつくる。

それで、現場の生産性が高まる」


「今まで考えたことなかったなあ」

建築部長から、生産性と言う言葉が

出たのは意外であった。


そうなのだ。

やり方によっては、

従来と比較にならない位早く、

一人前になれる可能性があるのだ。


「動画で教えることと

現場で直接教えることの

仕訳はどうするの?」と専務。


「はい。それが問題です」

「専務の力をお貸しください」

次長は、ペコッと頭を下げた。


「併せて、教育資料づくりが面倒で、

むしろここからが大変です」

建築部長も珍しく殊勝な感じで

頭を下げた。


「学び舎をデジタルにか・・」


「昔、居酒屋で教わったり、

教えたりしたことが、ある意味

動画になると言うことなんだな」


専務の決意にも感じた一言。


しかし、この一言が、

教え方改革 真のスタートの

始まりのような気がした、

達社長であった。

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