チャプター 4-2 (side.青二)

 HR前の予鈴が鳴り響き、水玉模様のように散らばっていた生徒達が各々の席へと着く。すると、空席が二つ生まれた。一つは親友である真一の席。もう一つは、石見の席だ。

「あら? 石見さんがいない。 さっき職員室で会ったのに……変ね」

 教室に入るなり首を傾げる担任のみきティー。そんな彼女の疑問を解消したのは、

「センセー、ゆかりんなら体調不良で早退したよ〜」

 石見の友人である佐渡だった。

「体調不良? なら、先に保健室に行くべきでしょ」

「あ、別にサボり扱いでいいとも言ってたかな〜」

「……はぁ、そういう事ですか。 分かりました」

 何かを察し額を抑えるみきティー。どうでもいいが、その様になってるポーズ。めちゃくちゃ好みだぜっ!

「倉井さん。 何ニヤニヤしてるんですか?」

「なんでもないですっ、はいっ!」

 なんか、あの日以来みきティーからの風当たりが強い気がする。まぁ、いいか。

 さて、石見を中学の頃から知っているが、あいつも真一と負けず劣らず真面目なやつだ。朝は必ず教室にいるし、そう易々とサボるようなやつではない。なので、もし石見がサボるとしたら何か特別な事情があると考えていいだろう。

「それでは、朝の連絡ですが──」

 みきティーは、真一がいない事には全く触れず、淡々と連絡事項を告げていった。まぁ、あいつは前科一般だし、仕方ないか。

「黄金井先生ー、ちょっといいですか?」

 HRが終わり、教室を後にしようとしていたみきティーを呼び止める。それは、どうしても確認しておきたい事があるからだ。

「石見は、朝から何しに職員室に行ってたんですか?」

「そんな事を聞いてどうするんですか?」

「もう、質問を質問で返さないでくださいよー。 別に悪いコトするワケじゃないんだからぁ」

「はぁ……全く。 美術室の鍵を返しに来ただけです」

 つまり、朝から美術室を利用してたのか。



「ん、あたしに何の用かなー、相方くん」

「ちょっと聞きたいコトがあってな」

 あの二人が揃っていない。それは、ただの偶然かもしれない。だが、石見が朝に美術室を利用してから姿を消したのは明らかに不自然だ。なら、その理由を知っているであろう佐渡に話を聞くのは当然だ。

「石見がいない本当の理由を教えてくれよ」

「やっぱり、そうくるよねー。 でも、教えてあーげない」

「なんだよ、別にチクったりしねぇんだからいいじゃねぇか」

「ダメだよー。 だって、あたしはだから」

 ……にゃろう。

「分かったよ、じゃあな」

「あれ、意外とあっさり引くんだねー」

「まぁ、名前の通りクールなんでな」

 それに、そんな挑発的な情報提供をされたら誰だって、こうするさ。

 さて、とりあえず、今すべきなのは、

「なぁ、委員長ー」

「ひゃわっ!? く、倉井くん……どう、したの?」

「頼みがある」

「頼み? 何かな?」

「ちょーっと用事が出来ちまった。 だから、テキトーな理由で早退したって言っといてくれ!」

「えっ、あの倉井くん……用事って、その」

「んじゃ、頼んだ!」

「あ、あぁ……行っちゃった」

 あいつらを探す事だ!



「やっぱり、ダメか」

 真一に電話をかけてみるも、案の定出なかった。真一は律儀な性格で、電話をかければすぐに出るし、メールもちゃんと返す。もし出ないとしたら、電源が入っていない。もしくは、マナーモードにしているか、何かに没頭しているか。何れも気付いてない時で、自分の意思で無視する事はない。

 とりあえず、あいつから直接聞くのは無理、と。

「水くさいやつだな、ホント」

 まぁ、嘆いても仕方ないが。

 それはさておき。まず、最初に確認すべきなのは、

「お、靴はあるのか」

 下駄箱だ。

 佐渡の挑発からして二人が一緒なのはほぼ確実。つまり、真一も一度登校しているはず。だから、確認してみたところビンゴ。誰も確認しないからってそういうところで手を抜くのはあいつの悪いクセだぜ。まぁ、そのおかげで助かったからいいけどよ。

 次は、念の為に美術室。ここは当然閉まっていて、中には誰もいなかった。まぁ、授業で使うかもしれないからいる訳がないか。

 理由は分からないが、二人は誰の目にもつくわけにはいかず、校内にいないといけない。もしくは、校内にいた方が都合がいい状況にいる。つまり、この学校において人目につかない場所を探せばいい。

 となると候補は……空き教室か。

『……はぁ……』

 いや、それはないか。

 去年、とある先輩達が空き教室でやんちゃして以来、見回りが厳しくなったって聞いた事がある。今も、疲れた顔をした教員が巡回している。だから、空き教室は避けるだろう。

 じゃあ、定番の体育館裏とか、倉庫とか……。

「んなワケあるか、ボケ」

 あの二人に限って、それは絶対にあり得ないと言い切れる。そもそも授業で使う。

 なら、もっと別の人目がつかない場所で、絶対に誰も来ないところは……。


『──開けてみせるさ、その時が来ればな』


 いや、まさか、なぁ。



 学生にとって屋上は憧れの場所の一つだ。

 お昼休みに弁当を広げ駄弁だべったり、授業をサボって昼寝したり、誰もいないのをいい事にカップルでイチャついたり、突如いちごパンツの美少女が降ってくるかもしれないと、その魅力は計り知れない。

 だが、現代ではメガネの似合う規律正しいガーディアン達が青少年・少女を健全に育成する為と大義名分を掲げ、封鎖してしまった。

 故に、屋上は『桜の木の下で告白』と同様に伝説と化し、誰も寄り付かない。絶対に閉まっているという認識から教員さえも、だ。

「さて、来てみたものの」

 根拠はない。悲しいくらいに。

 しかし、それと同時にあいつはここにいると確信している。

「よし、行くか」

 屋上のドアに手をかける。

「…………」

 どうやら今日も鞄に入れておいたスニッケェーズが役に立ちそうだ。

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