バック・トゥ・ザ・フューチャーによろしく
結城彼方
バック・トゥ・ザ・フューチャーによろしく
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』という映画を知っているだろうか?1985年に公開され、その後2作目、3作目と続編が公開された超名作だ。その映画の中で、主人公がタイムマシンで未来の自分や、自分の家族と出会う場面がある。その場面は僕に“自分もタイムマシンを作り、未来の自分に会ってみたい。”と思わせ、当時、中学生だった僕の人生を大きく変えることとなった。
映画を見たその日から、勉強嫌いだった僕は、猛烈に勉強をするようになり、学年一の秀才だった槍杉君をも追い越した。大学も工学部へ進学し、博士号まで取得した。
十分な知識と経験を得た僕は、30歳で大学の教授に就任した。昼間は学生に授業を行い、それ以外の時間はタイムマシンの開発に没入した。
それから1年後、ついに念願のタイムマシンを開発した。ベースにした車は国産のセダン。PCで行きたい時空間を設定できる時限転移装置も設置できる上に、燃料は普通のガソリンで十分だ。1.21ジゴワットのエネルギーも、時速88マイルのスピードも必要としない。
僕は心臓が破裂しそうな程にワクワクしていた。何せ、今から未来の自分に会いに行けるのだから。行きたい時空間は色々あったが、まずは未来の自分自身について知りたかった。そこで、行き先を10年後に設定した。41歳の自分はどうなっているのか、家族をつくっているのか、友人はどうなっているのか、気になることがたくさんあった。
僕は最寄りのインターチェンジから高速道路に入り、タイムトラベルに必要な速度、時速100キロになるまでアクセルを踏み込んだ。そして時速100キロに達した瞬間、ほんの一瞬だけ黒い空間に包まれ、また元の高速道路に戻ったようだった。
(10年で高速道路が大きく変化することはないから、タイムトラベルは成功したのか解らないな・・・)
疑問に思った僕は、その答えを確認するべく、高速道路を降りた。そして、自分の実家がある場所へ向かった。1時間ほどタイムマシンを走らせると、実家に到着した。少しボロくなっていたが、10年ならこんなもんだろうと思った。直接、両親と会うとタイムパラドックスやらバタフライエフェクトやらが起きてしまいそうなので、実家の窓からこっそりと中を覗いた。すると衝撃的なものが目に入った。僕の遺影だ。
(どういうことだ?この10年の間に何があった?)
僕は気が気じゃ無かった。慌てて後退りをし、実家から一目散にタイムマシンまで戻ろうとした。すると、真後ろに僕の母親が立っていた。
(しまった!)
そう思う間もなく、母は泣き出した。母の泣き声を聞いて、家の中の父も飛び出してきた。そして、僕の姿を見て目を丸くしていた。しばらくして母が落ち着きを取り戻し、家の中で何があったのか話を聞くことにした。話によると、僕は10年前から行方不明になっており、死んだ者として扱われていたのだ。
それを聞いて僕は自分がとんでもない過ちを犯してしまっていたことに気がついた。10年前にタイムマシンで出発した時から10年間、僕はこの世界から消えていたことになるのだ。つまり、10年後の自分は存在すらしないということだ。そして10年後の今、存在している僕は、10年前からタイムスリップしてきた僕だけという事になる。
(過ちを修正せねば。)
そう思った僕は、引き留める両親を振り切りタイムマシンまで戻った。時限転移装置の設定を僕が出発した日時に切り替えた。エンジンをかけようとしたその時、ふと、ある考えが頭をよぎった。
(待てよ。もし僕が今、10年前に戻ったとしたら、この未来はどうなる?映画では元の時代に戻った時点で変化した未来は消えると言っていたが、本当にそうだろうか?僕が10年前に戻ったとしても、この未来は僕が10年前から存在する未来とは分岐して存在し続けてしまうのではないだろうか?そうなれば、僕の両親は10年前と10年後の2度、息子を失う苦しみを味わう事になってしまう・・・そんな思いはさせたくない・・・・でもどうすれば良いんだ!?)
しばらく考えて、僕は答えを出した。
(これから色んな苦難が待ち構えているかもしれない。だけど、自分のケツは自分で拭かないとな。)
タイムマシンで10年後の両親の家に向かった。そしてインターホンを押して言った。
「ただいま。」
バック・トゥ・ザ・フューチャーによろしく 結城彼方 @yukikanata001
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